秘書の嫁入り 夢(13)

「あ、そっか。あの変態の秘書って嫁さんだって…タッ」

潤が慌てて大喜の足を踏む。

「イヤだな。大森君。どこかで頭打った?」
「…手加減、足加減ってやつを知らないのかよ……」
「社長室へ案内するから、静かにお願いします。大人が仕事をする場所で、学生さんに騒がれると仕事の邪魔です」

一年前は学生だった潤も、今は違う。
多少不埒が行為に及ぶことはあっても、仕事はちゃんとしているのだ。
大喜を諌め、受付に礼を言うと、大喜を黒瀬の待つ社長室へと案内した。

「社長、お連れしました」
「ご苦労様」

黒瀬が大喜を一瞥し、直ぐに潤に視線を戻した。

「では、私はこれで」
「市ノ瀬君も同席して下さい。お猿さんの相手は苦手ですから。猿が暴れてもいいように鍵もかけてね」

潤が退室するのを、黒瀬が止めた。

「相変わらずの、猿扱いありがとうよ。あんた達、どうなってるんだ? 嫁さんだってこと、隠してるのか? 市ノ瀬って、旧姓だろ? あんた今、黒瀬じゃなかったっけ?」

大喜は、黒瀬が勇一の弟で、その嫁が潤だともちろん知っている。

「会社では市ノ瀬だし、黒瀬との関係は秘密だ。時枝さんしか、社内で知っている人間はいない」
「へえ、そういうの、なんかカッコイイな。仕事とプライベートは別ですって、ヤツだろ」
「私は、一緒でも構わないけどね。それで、お猿さんは、何をしに山を下りてきたんだ? 突然私を訪ねるくらいだから、余程重要なことなんだろうね」

社長椅子に座っている黒瀬の側へは寄らず、大喜はソファに勝手に座った。
以前、黒瀬に裸に剥かれ縄を掛けられたことや、それ以上の思い出したくない酷い経験があるので、あまり近くには寄りたくないのだ。

「時枝のオヤジは、あんた達が面倒看てるんだろ? 本当に用があるのは時枝のオヤジの方なんだけど、居場所知らないからさ」

ソファの上からふんぞり返って、大喜が用件を話し始めた。

「時枝に用? 兄さん関係か」
「あんた、頭切れるね。その通り。組長、風俗遊びしてるぞ」
「別にいいんじゃない? 兄さんだって、遊びたい年頃なんだろ。独身だし」
「何だよ、それ。時枝のオヤジとあのボンクラ組長、できてんだろ。出て行った途端、風俗遊びとは、ヤクザのくせにギリもヘッタクレもないんだな」

フン、と大喜が鼻を鳴らす。

「組長さん、風俗で遊んでるんだ。俺、許せない」

横で聞いていた潤が大喜に同調する。

「まあ、兄さんもイロイロあるんじゃない? 時枝から見捨てられた状態だしね。忘れたいのか、何なのか」
「忘れたいって? 時枝さんのこと? 忘れられる訳ないじゃない。あの二人は、」

潤が段々興奮してきた。

「相思相愛、だろ。潤、分かってるよ。忘れたいのは、女々しい自分だよ。男を取り戻したいんだよ。雄として愛せないからね、今のあの人は」
「そうか。組長さんなりに、考えているのかも知れない」

潤が妙に納得した。

「勝手に進めるなっ!」
「あれ、どうして、お猿が怒っているんだ? そもそも、兄さんが風俗に行くぐらいでお猿が目くじら立てることもないと思うけど?」
「あるんだよっ! 勝手に一人で遊ぶ分には組長の好きにすればいいけど、あのボンクラ、オッサンを巻き込むんだ。オッサン可哀想に…組長命令で無理矢理ソープに連れて行かれて、3Pだとよ。あんた達だって、オッサンの純情ぶりは知ってるだろ。どれだけ傷付いたと思ってるんだ。ワンワン四十過ぎの男が泣いて俺に詫びを入れたんだぞ」

大喜の話に、黒瀬と潤が顔を見合わせると……

「ご、ごめんッ…ダイダイ、我慢できないっ」
「全くだ。その時の映像が目に浮かぶ…」

腹を抱えて笑い出した。

「笑い事じゃね―っ!」

大喜が大声を出す。

「いいか、あんたら変態夫婦は毎晩イイコトしているんだろうけどな、俺はボンクラ組長のせいで、一週間お預けなんだぞ! オッサン可哀想に、組長が久しぶりに事務所に顔を出すからって、はりきって家を出た日に、あんな目に遭って…俺に申し訳ないって、客間で寝てるんだぞ?」
「あ~~~、ごめんごめん。大森君…ダイダイにとったら辛いよな」

まだ笑い収まらないといった潤が、同情のコメントを寄せる。

「ふふ、覚えたてのお猿さんを、放っておくとは…佐々木もバカだね。猿はキリがないってこと、知らないのかな。動物の事典でも贈ってやろう」
「いい加減にしろ。俺は猿じゃねえっ! ちゃんとした人間だ。ただ年が若いんだ。毎晩だって、したいんだよっ! あんたなら、分かるだろ」

黒瀬には何をされるか分からないので、潤に大喜は詰め寄る。

「分かるけど、佐々木さんって、真珠入りだろ? 毎晩はきついんじゃない?」
「…オッサンは上手いんだ」

佐々木との結合を思いだし、大喜の顔が赤くなる。

「……それに、間が空いた方が辛いんだよ。分かるだろ」

あんたも、受けなら、と大喜が心の中で続ける。
思い当たる節があるのか、潤の顔もほのかに赤く染まる。

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秘書の嫁入り 夢(12)

「…ダイダイ…、本当に済まなかった」
「オッサンは悪くねぇし、浮気でもねえよ。オッサンに、怒ってもいないから、心配するな」
また、大喜が佐々木の唇にキスを落とそうとすると、佐々木がそれを躱(かわ)した。
「どうしたんだよ?」
「男としての、ケジメを付けさせてくれ。一週間、俺は大喜に触れない。寝るのも客間にする。みそぎをさせてくれ。女に負けた情けない下半身のまま、ダイダイに触れるわけにはいかないんだ」
「は? オッサン?」

何を言い出すんだと、大喜が目を見開く。

「蛇の脱皮とはいかないが、綺麗な身体に生まれ変わってから、触れさせてくれっ!」
「何だよ、それっ! さっき風呂入っただろ? 身体洗ったんだろ? それでいいじゃねぇか。一週間で、女に反応しない下半身になるわけないだろっ! バカバカしい。男ってもんは、女でも男でも、刺激に弱い下半身ぶら下げて生きてるんだよっ! 違うか?」

大喜が必死に佐々木を説得する。
朝帰りした佐々木を許しているのに、どうして、自分が触れて貰えないことになるのか納得できない。

「ダイダイ、分かってくれ。こんなことしでかした自分が許せないんだ。惚れたお前と暮らしていて、手が出せないことは苦行だと思う。だが、簡単に無かったことにできるほど、軽いことじゃないんだ。お前という大切な存在がありながら、俺は女と寝てしまったんだ。しかも、組長を止められなかった。時枝さんにも申し訳がたたない。男のケジメだ。俺に男を通させてくれっ!」

駄目だこりゃ、と大喜は項垂れた。
ヤクザ者の佐々木に「男を通させろ」と言われれば、大喜が引くしかない。

「…分かったよ、オッサン。綺麗なピカピカなオッサンになってから、俺に触れてくれよ。その代り、一週間だけだからな。それ以上だと、俺が干涸(ひか)らびる」

干涸らびるというのは大袈裟だが、一週間間が空くと、真珠入りの佐々木と交わるには大喜の負担はかなり大きくなる。

「ダイダイ、すまねぇ。ありがとう。一週間後、生まれ変わった俺を受け止めてくれっ!」

佐々木は立ち上がると、速歩で寝室を出た。
どこへ行くつもりだ、と大喜が追うと佐々木は客間に入り、鍵を掛けた。

「オッサン?」
『うぉおおおおおっ』

中から、獣のような佐々木の咆吼が聞こえてきた。

「…オッサンだけじゃなくて、俺まで被害者じゃねえかよ。組長のヤツ、覚えてろっ!」

このまま、大人しく引き下がるような大喜じゃなかった。
数日後、大喜は株式会社クロセの本社ビル前に立っていた。
就活の経験もないので、こういう企業に足を踏み入れるのはかなり緊張する。
深呼吸をすると、中に入った。

「あの、社長さんにお目に掛かりたいんですけど」

受付と書かれたブースで笑顔を振りまく綺麗な女性に声を掛けた。

「面会のお約束は?」
「ありません」
「申し訳ございませんが、社長はお忙しい方なので、アポイントメントのない方とは、お会い出来ません」

綺麗な顔は、丁寧に断りを入れてきた。
そこで引き返す大喜では、もちろんない。

「あのさ、俺、身内なんだけど? お姉さん、せめて内線で、会うか会わないか社長に聞いた方がいいよ? クビになっても知らないよ? 佐々木の所の大森が急用だって言ってくれればわかるから」

綺麗な顔が、一瞬ムッとした。
学生風情の突然の訪問者にクビを持ち出されて気分がいいはずがない。
が、そこは仕事だ。
直ぐに作り笑顔に戻り、お待ち下さいと、内線の受話器を手にした。

「社長に、お客様ですが…ええ…それは申し上げたのですが…佐々木さんの所の大森さんって方です。急用らしいです」

受付嬢が内線を掛けたのは、社長の黒瀬のデスクではなく、秘書課だった。

「…はい、では、」

話は終わったらしい。受付嬢が受話器を置いた。

「社長秘書が参りますので、少しお待ち下さい」
「会ってくれるってこと?」
「だと思いますが」
「良かった。お姉さん、世話になったな。ありがとう。ところで年は幾つ? 彼氏とかいるの? ここ、もう長いの?」

別にナンパをするつもりはないが、作り笑顔がいつまでもつのか、からかってやろうと、緊張が解けた大喜に悪戯心が芽生えていた。

「プライベートなことには、お答え出来ません…」
「大森君、何やってるの」

迎えに来たのは潤だった。

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秘書の嫁入り 夢(11)

「味はどうだ?」
「…美味い」
「なら、しけた面するなよ。もっと美味しそうに食えよ」
「…すまない」
「謝らなくていいから。味噌汁、お代わりは?」
「…胸が苦しくて…美味しいが、もう…」
「そうか。また落ち着いたら、腹も減るさ。風呂も湧かしてあるから、浴びてくれば?」

余程、大喜に後ろめたいのか、佐々木は終始視線を反らしたままだった。
これじゃあ、自分の方が息が詰まると、大喜は佐々木を風呂場へ押しやった。

「さっぱりしたか? 寝室で待ってろよ。ゆっくりじっくり、話を聞いてやるからさ」

風呂からあがった佐々木を二階に追いやると、大喜はヤレヤレと冷えた缶ビールを二缶持ち、自分も二階へ上がった。
大喜が寝室へ入ると、佐々木がすっかり項垂(うなだ)れベッドに腰掛けていた。

「朝からビールも悪くないだろ。素面(しらふ)だとオッサン話せそうもないから、ほら」

佐々木に一缶手渡し、その横に座る。

「オッサン、話せ。聞いてやるから。嘘は付くなよ。正直に話してくれれば、多分、許せると思うから」
「…多分…か…」
「細かいことは気にせず、話してみろ。あ~、朝のビールもウメ~」
「…ダイダイ、未成年だろ……」
「四捨五入すれば、二十歳だ。問題ない」

いつもなら、そんな言い訳通用するかと怒鳴られる所だが、今日の佐々木は違った。
自分に後ろめたいことがあると、人間、他人を叱れないらしい。
ヤケになっているのか、佐々木はプルトップを開けると、一気に缶の中身を流し込んだ。

「一気飲みかよ、オッサン」
「…はあ…、酔えない…。ダイダイ…大喜、俺は…」

佐々木が立ち上がったと思えば、大喜の足元にまた土下座をした。

「浮気をしちまった。許せっ! この通りだっ!」

髪の毛が抜けるんじゃないのか、というぐらい佐々木が頭を床にグリグリ押し付けている。

「浮気って、どうせ風俗だろ。ソープか?」
「組長がっ、組長がっ…俺は嫌だと拒否したんだっ! 本当だっ! ダイダイがいるのにって」
「いいって。そこは必死にならなくても。オッサンが自らソープに入ることは、天と地がひっくり返ってもないっていうか、無理だって分かってるから」

佐々木を宥めながら、『クソ組長めっ!』と内心では、勇一に毒づいていた。
大喜が腰をあげ、土下座中の佐々木の横に座る。

「オッサン、顔をあげろよ。ほら、」

肩に手を掛け、引っ張り起そうとするが、佐々木の頭は上がらない。

「自分じゃイヤだったんだろ? だったら土下座まですることない。必要以上に謝罪されると、もしかして、って、思うだろ。楽しんだのか?」
「違うっ!」
「じゃあ、顔あげろよ。俺、オッサンの顔みたい。朝まで一人だったし…寂しかったんだぞ?」

大喜の言葉に押されて、やっと佐々木の頭が床から離れた。
大喜が佐々木の顔を両手で挟み、自分と正面を向かせる。

「男前が台無しだ」

大喜が佐々木の唇に軽くキスを落とす。

「キスはさせてないんだろ?」
「あ、当たり前だっ! …だが……」

佐々木の視線が大喜から反れる。

「挿れちゃった、ってとこか? オッサンの真珠、風俗の姉ちゃんにパクリやられたのか」
「…ぅぐッ……」
「泣くなっ! 責めてるんじゃねえよっ。事実確認しているだけだ。どうせ、組長が逃げられなくしたんだろ。メガネのオヤジに出て行かれて、頭おかしくなったんじゃねえか? オッサンを巻き込んで、自分がバカしたかっただけだろ」
「…組長、ショックが多すぎて…」
「庇うなっ。オッサンの性格知ってて、俺がいることも知ってて、ソープに連れて行たんだ。あの男、今度会ったら殴ってやるっ!」

大喜が怒りを露わに言い放った。
佐々木がソープランドへ行ったことも、風俗嬢と一戦交えてしまったことも、大喜にはさほど気になるようなことではなかった。
むしろ、大喜だけというのは、極道に身を置く男してどうよ、と思う節もある。
許せないのは、怒りを感じるのは、佐々木がそういう場所に自ら納得して行ったのではないということだ。
愛を重んじる純情男が、どれだけ傷付いたことだろう、と傷付けた男、勇一に対してメラメラと怒りが湧き上がってくる。

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秘書の嫁入り 夢(10)

「はいはい、いい年した大人が泣かない。気持ち良かったでしょ? あとはユウイチと遊んでて下さい。ユウイチ、おいで」

時枝から身体を離した黒瀬がベッドの下で待たされていたユウイチを呼ぶ。
時枝の身体を仰向けにすると、時枝の上にユウイチを載せた。
時枝からは悲鳴は上がらない。
潤と時枝の放出したもので濡れた時枝の腹をユウイチがペロペロと舐めだした。

「…時枝さん、大丈夫?」
「大丈夫じゃない? もう、ユウイチとお友達のようだけど」

黒瀬にいいように扱われ、疲弊した身体はユウイチを拒む気力を時枝に与えなかった。
悲鳴をあげるような恐怖心も湧き上がって来ない。
ユウイチに舐められるよりも、惚れた男の弟と身体を繋いだことの方が問題のような気もするが、今はそれを考える気力もなかった。
ただ、頭にあるのは、何故、勇一じゃないんだ、ということだけ。
勇一の側を自ら離れたのは、昨日の朝だ。
依存は止めようという決意で、止める勇一を払い出てきたのに、勇一の顔が見たかった。

「時枝さん、犬は克服できたのかな?」
「大型犬は分からないけど、ユウイチは恐くないみたい。時枝はユウイチに任せて、潤、こちらへ」

黒瀬はまだイッてなかった。
時枝をイかせはしたが、自分が時枝の中で果てることはなかった。
装着していたゴムを外すと、潤を呼ぶ。
潤は時枝を跨ぎ、黒瀬の元に行く。

「…黒瀬、それ…」

仰向けになった黒瀬の中心が雄々しく勃っているのを見ると、潤の顔がフワ~っと嬉しさで桃色に染まった。

「時枝さんの中で、イってないんだ……」
「私の愛は潤だけに注ぎたいからね。潤、おいで」

潤が黒瀬の上に跨ると、躊躇なく腰を降ろす。

「一人で挿入してごらん」

黒瀬の先端で潤の蕾をつつきながら、開いていく。
毎晩交わす愛の行為で、指を使わず飲み込むことを潤の身体は習得していた。

「ぁあっ、やっぱり直に感じるのが、一番だよ…黒瀬…好き…」

もはや時枝の存在は、二人には関係なかった。
やるべきことはやったと、二人の世界に没入していく。

「…お前は…ソコまで…舐めるのか…? ユウイチ…あぁあ…もう、勝手にしなさい……」

 

 

「あんた…オッサンに一体何を…」

佐々木が自宅の玄関の土間で、大粒の涙を流しながら同居している大森大喜に土下座をしている。
その横には、勇一が立っていた。
帰ったぞという佐々木ではなく勇一の声で、大喜が朝食の準備をしていた台所から玄関へと顔を出すと、佐々木が下を向いたまま立っていた。
大喜が「オッサン?」と声を掛けると、いきなり土間へ座り込み、土下座を始めたのだ。

「…すまねぇ…、お前に合せる顔がないっ! この通りだっ! …ぐっ、組長が…、」
「少しは、佐々木だって、楽しんだろ? なんたって、ルミは名器の持ち主だからな。後はよろしく」
「…よろしくって、こらっ、待てっ! ルミってどういう事だっ!」

出ていこうとした勇一の上着の裾を大喜が掴んだ。

「離せ、ガキ。ちゃんと連れて帰ってやったんだから、問題ないだろうが。塒に隠れるっていうのを、俺がガキの元まで、送り届けてやったんだ。じゃあな」

大喜の腕を振り払い、勇一は具体的な説明をせずに出ていった。

「ああ、もう、泣くなよ。後でゆっくり話は聞かせてもらうけど、取り敢えず顔洗って、朝飯にしようぜ。な? 立てよ、服が汚れるぞ」
「…ダイダイ、俺を殴れ。…蹴ってもいいぞ」
「組長から、石鹸の匂いがしたから、だいたいの予想はついてるよ。朝帰りだしな。俺に申し訳ないと思うなら、朝飯だ。折角オッサンの為に作ったんだ。温かいうちに食おうぜ、」

まだ十代の大喜の方がよっぽど大人である。
四十過ぎの佐々木は、大喜に促され情けない顔のまま、食卓へついた。

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秘書の嫁入り 夢(9)

「…んっ、…あぅ…、やめてくれっ!」
「潤、愛し合おう…」
「うん」

黒瀬は時枝の中に入ったまま、潤と見つめあう。
視線と視線を絡め、まるで潤と交わっているようだ。
潤と視線を絡めたまま、激しく時枝の中を切り開く。
潤は潤で、時枝のモノを遠慮無く扱いていく。
後ろを黒瀬に、前を潤に嬲られ、時枝は堪らず前にある潤の身体にしがみついた。
三人がピタッと引っ付いた状態で、尚も行為は続けられた。

「ぁああっ、…ウソッ……、あっ、」

ユウイチに犯られている訳ではないので、恐怖心はないが、勇一の弟、しかも自分の上司と繋がってしまったという背徳感が、時枝を興奮させていた。
しかも、その嫁が、一部始終を自ら参加しながら見ているのだ。
黒瀬と潤による不道徳な行為に、時枝は情けないが感じていた。

「時枝さんの、凄いよ…あの時だって勃起しなかったのに…」

あの時とは、時枝が薬物で昂ぶった潤の身体を鎮めようとしたときのことだ。

「時枝、今の痴態を兄さんみせたら、あの人どう思うだろうね~。ますます、いじけるか、煽られて勃つか…カメラ仕込んであるから」

ギュッと時枝の内部が締まった。

「…録るなっ!」
「ふふ、冗談だよ。ほら、怒ってないで、もっと感じれば? 潤、根元握って」
「…ぐっ」
「ふふ、時枝は頭白くなるぐらい、勝手に感じてればいい。潤…」

前を堰き止められまま、激しく黒瀬に突かれる。
本宅へ戻ってから治療以外で触れられることのなかった場所は、はしたなく悦んでいた。
勇一に触れられることも見られることも拒んでいたというのに、自分がこんなに飢えていたのかと、思い知らされる。

「…黒瀬、俺も…ヤバイ…欲しい…」

潤にしがみつく時枝の指が、黒瀬に突き上げられる度に、潤の背に食い込む。
黒瀬の太い杭が自分の中に収まっている感覚が想像され、潤の身体の奥深いところが疼きだす。 
時枝を握りながら、潤自身の腰も揺れていた。

「もっと、欲しがってごらん。ほら…」

黒瀬の両手が、時枝を通り越し潤の腰に行く。
そのまま時枝を挟んだ形で潤の腰を掴むと、時枝に突き上げるリズムで潤を揺らした。
重ねているのは時枝の身体だが、黒瀬がセックスをしている相手は潤だった。

「…前を…離せッ…」
「まだ、イかせないよ、時枝。俺でイッてもいいの? これって、浮気じゃない?」
「…勝手に…、あぅ、人の身体に突っ込んで、何が…浮気だッ…クソッ……」
「な~んだ、分かってるじゃない、時枝。浮気じゃないんだから、もっと楽しめば? 俺より、ユウイチの方が良かった?」
「…バカなことを……言うなっ、比べられるかっ!」
「選べないほど、どっちもいいの? 欲張りだな。なんなら、大型犬も用意する? 雌に飢えた犬を数匹」
「…ヤメロッ! ぐっ、冗談でも、そんなこと……」
「本気だけど?」

黒瀬が一旦腰を下げ、一気に突き上げた。

「ン…あぁあああっ、」

黒瀬のサイズだと、狙わなくても時枝の弱い所を擦る。 
時枝の嬌声に潤の中心が揺れる。
時枝と違って、堰き止められてないので、既に蜜を流し始めていた。

「ふふ、もう、犬の話しても、震えは来ないみたい…時枝も意外と単純な身体しているよね~」

バカにしたような黒瀬の言葉だったが、その通りだった。 
犬を持ちだされ怒りは感じたが、恐怖で震えることはなかった。
それよりも今は、黒瀬に与えられた快感で震えていた。
黒瀬の手が潤の腰から潤の耳へと移動し、その耳を塞いだ。

「親に身体を裂かれた俺よりは…マシだと思うよ…時枝」
「――武史」

一瞬見せた、黒瀬の過去の傷跡。
潤は黒瀬が父親から受けた虐待に、性的暴行が含まれていることを知らない。
黒瀬の目は、悲しく揺れていた。
しかし、直ぐにいつもの黒瀬に戻る。
潤の耳からも手は離れ、また腰へと移動した。

「潤、先にイッていいよ。これで終わりじゃないから」

黒瀬が更に激しく時枝を突く。
その揺れで潤が感じ、時枝の腹は潤の垂らすもので、濡れていた。

「…黒瀬…、あぁ…、キスして」

黒瀬が潤の唇を塞ぐ。
その瞬間、潤が時枝の腹に自分の体液をぶちまけた。
そして、時枝の根元を握っていた手から力が抜けた。
一気に時枝の雄芯に堰き止められていたモノが駈けのぼった。

「ぁああっ、…勇一ッ!」

イく瞬間、時枝の瞼に恋しい勇一の顔が浮かんだ。
そして時枝の身体から、白濁の液体が数回に分けて放出された。

―――どうして、俺が、勇一以外の人間からイかされなければならないんだ?

放出してしまえば、身体はスッキリする。
同時に、無性に勇一が恋しかった。
どんなに激しく突かれ、どんなに無茶に抱かれようと、どんなに快感があろうと、勇一でなければ、身体も心も満たされなかった。

―――勇一に、愛されたい……

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秘書の嫁入り 夢(8)

「…う」
「―時枝さん? …黒瀬、」
「どうした、潤?」
「時枝さんの、少し大きくなってる」
「ふふ、やっぱりね。時枝、ユウイチに感じちゃった?」

時枝の精神に感じる余裕はなかったが、身体は反応を示した。
ユウイチに感じたというよりは、与えれる恐怖と、掘り起こされた犬からの感覚、それと潤の手による緩急差が激しい刺激に、時枝の一部は反応してしまったのだ。

「…ぁあ、…や…」
「いいじゃない、感じちゃえば。情けない兄さんより、こっちのユウイチの方がいい働きするんだから」
「ユウイチ、凄いね。時枝さんのこと大好きみたい。餌も満足に与えて貰えなかったのに…」
「犬と交わっても問題ないよ。子犬のユウイチじゃあ、入口舐めるぐらいが限度だけどね。ふふ、それでも、快感は与えてあげられるよねぇ、ユウイチ」

ユウイチの舌が時枝の中に入れるよう、黒瀬が時枝の窄みを指で左右に広げた。

「お舐め」

ユウイチの舌先が、時枝の体内に入った。

「ヒィイイイッ、…ゆ、るして…」

時枝に言葉が戻ってきた。

「時枝のくせに、可愛い懇願するんだ」

ユウイチが時枝の孔に舌を出したり入れたりして遊び始めた。
ひくつき孔が面白いらしく、黒瀬が手をユウイチから離しても、尻尾を振りながら時枝の孔から離れようとしない。

「潤、生のオモチャだと思って、時枝のモノで、少し遊んでやって。捏ねたりしていいから」
「いいけど、後で、絶対浮気したって、言うなよ」
「ふふ、言いたくなるかも。じゃあ、私の目を見て、私のだと思って触って。私にしているのと、同じだから」
「…そんなこと、したら…、俺が…」
「感じる?」
「いいよ。可哀想な時枝の為に、時枝の身体経由で、私を感じて」
「…うん、じゃあ、黒瀬のだと、思って触るから…」

黒瀬が何をしようとしているのか、何がしたいのか、潤には分かっていた。
黒瀬の言葉通り、潤は時枝の中心をゆっくりと扱き始めた。

「いい年して、全くこの秘書は、…恐怖と罪悪感の区別も付かないんだから、ふふふ、他人と犬に遊ばれた罪悪感が恐怖心を煽っているってこと、いい加減、気付けばいいものをね、ユウイチ。自分が犬たちと遊んでやったぐらいに思えないものかね」

はい、子どもの時間は終わりです、と黒瀬が時枝からユウイチを離し、ベッドの下に置いた。
ユウイチは突然離されたことが不満らしく、キャンキャン吠えたが、黒瀬にメッと睨まれると、ク~ンとその場に耳を垂れて座り込んでしまった。
動物の本能で、黒瀬には逆らってはいけないと分かるらしい。
ユウイチが自分の尻からいなくなり、やっと解放されるのかと時枝に安堵が走ったが、甘かった。
ユウイチの存在から与えられていた恐怖と刺激が去ると、神経が潤から与えれる甘い刺激を敏感に時枝に伝える。

「…ぁあっ、…潤さま…、駄目ですッ…」
「イイって、潤。潤は上手だからね。時枝直ぐにイクんじゃない?」
「バカ…恥ずかしいだろ。…黒瀬、俺、分かってるから…いいよ…。遠慮しなくて…」
「さすが、私の潤は、私を一番理解してくれる。愛してるよ」

間にいる時枝の頭が、二人より沈んだ位置にある。
その頭の上で、黒瀬と潤が見つめ合い、唇を重ねた。
もちろん、その間も潤の手は時枝を責めることを忘れてはいない。

「ふふ、潤の口付けで、私も準備OKだ。これは、時枝と兄さんへの貸しだからね。後で返してもらうよ」

黒瀬がグッと腰を時枝の腰に押し当てた。

「どう、時枝? 私のが当たってるだろ? 兄さんよりは大きいはずだから、裂けたらごめんね」

最初から最後はソコまでするつもりだったのか、黒瀬はゴムまで用意していたらしい。
潤との口付けで興奮させた雄芯に素早く装着させると、腰の位置を下方にずらした。

「…社長…、嘘でしょ…ご冗談を…そんな…」

黒瀬の先端が、さっきまでユウイチが舐めていた場所を捉える。

「黒瀬が冗談で俺以外を抱くと思ってるの? 黒瀬…俺…、ますます惚れてしまいそう」
「私もだよ。君への愛がなかったら、時枝なんてどうでもいいのだから…潤…、時枝経由で私を感じて」

黒瀬の先端が時枝の中にめり込んだ。

「ァああうっ」
「兄さんと違う味もいいだろ?」
「…武史っ、…本気で俺を……」

時枝が地に戻っていた。もう、取繕うことも無理のようだ。

「犯(や)るよ? 犬たちよりも俺の方が残酷かもしれないから、覚悟しててね。大丈夫、ちゃんと感じさせてあげるから」

グググと、黒瀬が時枝の中にねじ込んだ。

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秘書の嫁入り 夢(7)

「ひっ、」

驚き布団を剥ぐと、そこに存在していたのは……ク~ンと小さく鳴くまん丸お目々でモコモコの小動物……ユウイチだった。

「ん、ギャァアッ!」

叫ぶなり、時枝は身体を翻し、背後にいた潤にしがみついた。

「退けて下さいっ! ソレ、早くッ!」

潤の胸に顔を埋め、震えながら、後ろ手で時枝がユウイチを指す。

「時枝? 潤に何しているの。私の目の前でいい度胸しているよね」
「そんなことより、早く、ソレ、」
「ユウイチは、時枝と一緒に寝られて、喜んでるよ。ユウイチはもう、時枝とお友達だものね、ユウイチ」

ヒョイと黒瀬がユウイチを抱えると、潤にしがみついている時枝の背中にユウイチを沿わせた。
時枝の尿の匂いも味も知っているユウイチは、既に時枝の体臭にも慣れきっていて、ペロペロと時枝の浮き上がった背骨を舐めた。

「うっ」

ザラッとしたユウイチの舌に、悪寒が走り、時枝の皮膚が粟立つ。

「感じてるの、時枝? ユウイチ、もっと舐めておやり」

襲われた時と同じ感覚に、顔を舐められたとき同様、恐怖で自分を見失いそうになる。

「…社長…っ、…お願いですから…」

時枝の懇願など、無論黒瀬は聞くつもりはない。

「潤、時枝が意識飛ばさないように、ギュッと握ってやって」
「いいけど…後で浮気とか言うなよ?」
「ふふ、言わない。言うつもりなら、今ここに三人で寝てないよ。その代り、後で手は消毒してあげるから」
「…消毒って、洗うだけでいいよ。どっち握るの?」

竿か珠かと潤は訊いている。

「両方かな。ふふ、潰さない程度にね」

黒瀬のモノ以外、触ることに抵抗はあるのだが、潤は以前時枝に薬物で疼く身体を助けてもらった恩がある。

「時枝さん、ごめんね」

ユウイチの舌による攻撃で、失神寸前の時枝の股間に潤の手が伸び、珠と竿の付け根を両の手を使いギュッと握りしめた。

「ん、ぐっ!」

ことの外、潤の力が強かった。
痛みが走り、飛びそうになっていた時枝の意識が留まった。
時枝はユウイチの舌からも潤の手からも逃げられず、痛みと恐怖の狭間にいた。
その場から自ら逃げることも出来ず、時枝は額から冷たい汗を流し、震えるばかりだ。
もはや、懇願の言葉も出ない。

「恐いだけじゃないだろ。時枝、犬たちから蹂躙されて、何度も果ててたじゃないか」

DVDに映っていた時枝の真実。
けしかけられた犬に嬲られて、怯え失禁しながらも、時枝は何度も白濁のものをまき散らしていた。
時枝にしてみれば、自分の身体がどんな状態だったのか、どんな反応を示していたのかという細かい事など、覚えていなかった。
数人の外国人に輪姦され、オモチャで弄ばれ、犬と交わり、まさに便所扱いの地獄の数日だった。

「身体は忘れてないと思うけど? 恐怖が忘れられないのと同時にね」

忘れてしまいたい、快感も痛みもあるのだ。
それを幼い頃に父親によって与えられていた黒瀬は、容赦がない。
忘れようとするな、思い出せと言わんばかりに、ユウイチを嗾ける。
そう、この男は、潤を助けるときにも「中途半端は駄目だ」と、心に傷を負った潤をこれ以上ないというぐらい痛め付けた。
ユウイチを時枝の背筋に沿って尻の溝まで移動させた。 
ユウイチの舌が、時枝の尻の溝に入り込むのを見届けると、一旦ユウイチから手を離し、更に奥まで舌が届くよう時枝の尻を左右に割った。

「潤、手を緩めて」

黒瀬の命で潤の手から力が抜けると、止っていた血流が一気に時枝の雄芯を駆け抜けた。
痛みと恐怖でこちこちに固まっていた時枝の身体が、一瞬緩んだ。
その隙にユウイチの舌が時枝の窄みへ届いた。

「ぁあっ、」
「ほら、ユウイチ、好きなだけ舐めなさい」

ユウイチのざらつく舌が時枝の襞を舐め始めた。

「ヤ、…ヤ、」

時枝が目を見開き、目の前の潤に助けてくれと訴えた。

「潤、また握って」
「ごめんなさい、時枝さん」

現実から逃げられないように、また時枝の前が潤の手によって拘束された。

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秘書の嫁入り 夢(6)

「いやあ、楽しかったな、佐々木」

バンと、勇一が佐々木の背中を叩く。

「・・・」
「ぅたく、空気の読めないヤツだ」
「・・・・・・」

ズル、ズルと小さな音が聞こえるだけで、佐々木は顔もあげず、勇一の横を歩いている。
夜風に(といっても、もう時間的にはいつも勇一が起きる五時に近いが)当たって帰ろうと勇一が言いだし、少々風の冷たい秋の夜道を歩いていた。
そう、ソープ帰りの二人だった。
勇一が久しぶりに組に顔を出し、組長としての仕事をこなしたまでは良かった。
佐々木は正直ホッとした。
自分が黒瀬に組長代理を頼んだものの、自分を含め組員の過酷で緊張を強いられる日々に、後悔がないといったら嘘になる。
しかし、黒瀬しかいなかったのだから仕方なかった。
時枝が出ていき、落ち込んでいるであろう勇一が仕事に精を出す姿をみれば、勇一の誘いを佐々木が断れるはずがない。
溜っているうっぷんもあるだろう。
きっと今夜は明け方まで飲み明かすのだろうと、勇一の誘いを簡単に受け(もっとも、断れる立場ではないが)自宅で待つ大喜に今日はいつ帰れるかわからないと電話を入れた。
それがこんなことになろうとは…と勇一の隣を歩く佐々木の顔はグチャグチャに濡れていた。
涙と鼻水で。

「男たるもの、たまには外で遊ばないとな。浮気の心配をさせるぐらいじゃないと、飽きられるぞ、佐々木」

また、バシッと勇一の手が佐々木の背中を叩く。

「お前の真珠に、ルミだってよがってたじゃないか。俺も入れてみようかな」

そう、佐々木の真珠入りのソコは、プロの口と手により、見事に雄々しく立ち上がり、上から腰を沈めたルミの体内に収まったのだ。
もっとも、ルミと佐々木が結合したのはその一回だけで、ルミに絞り取られた後は、佐々木はベッドから逃げ、床で泣きじゃくっていた。
その間、勇一はルミと何かを吹っ切るように、いや、何かと戦っているかのように、ルミとの激しく淫ら行為に耽っていた。

「…こんな激しい組長さん…ルミ初めて…凄い…」

彼女が本気で勇一に凄いと口にしたのは、初めてかもしれない。
彼女の言葉のほとんどは客を喜ばす為のリップサービスなのだ。

「ほら、帰るぞ。可愛いガキが待ってるんだろ?」
「帰れません…アッシは…あっちの塒(ねぐら)に籠もります…」
「馬鹿言え。お前を帰さなかったら、あの煩いガキに朝からギャーギャー言われるの、俺だろうが。サッサ、歩け」
「……そんな……組長~~~」

佐々木には、勇一がどうしてソープに行ったのか理解出来なかったし、自分が巻き込まれた理由も分からなかった。
勇一のこの理解しがたい行動の意味を後々知ることになるが、それは当面先のことで、とにかく佐々木は大喜を裏切ってしまったと自分を責め、溢れる涙と鼻水でグチャグチャの状態だった。

 

 

腹に温かいモコモコした湯たんぽのような物を感じ、時枝がゆっくり瞼を開いた。

「…うそっ、」

自分の視界が信じられず、寝ぼけているか、まだ夢の中に違いないと再び目を閉じ、心の中で十を数えた。
そして、再度瞼を開く。

「―――そんなバカな」

あり得ないと、パチパチと瞬きをしてみる。

すると、目の前の信じがたい光景の一部が動いた。

「朝からブツブツ煩いよ。潤が起きるだろ、シッ」

ウエーブがかったロン毛を気怠そうに振りながら、黒瀬が頭を枕から上げ、肘を付き手で顎を支えた。
布団から出ている黒瀬の上半身は裸である。

「…一体、どういう事ですかっ! あなた、まさか…、いや、幾ら何でも…」
「一緒に寝た。ふふ、まさか、こんな朝を時枝と迎える日が来るとはね~」
「えっ、…嘘でしょっ! 私とあなたがっ? そんなわけ…あるはずないっ!」
「どんなわけだったら、あるの、時枝?」
「だって、あなたには、潤さまがっ!」

慌てふためく時枝の背中からウ~~~ンと声がする。

「…煩いなぁ~、俺がどうしたの…」

まさか、と時枝が後ろを振り向く。
目を擦って欠伸をしている潤がいた。
潤も衣類を着けている様子はない。

「あっ、あなた達っ、何をっ!」
「なにをって、そりゃ、この状況みたら、分かるだろ? 時枝、大人なんだから。私も潤も裸で、時枝も何も着てないってことは、答えは一つじゃない?」

時枝の脳裏に浮かんだ答えは一つだが、それを認めるわけにはいかない。

「そんなはず、あるわけないでしょっ!」

時枝の大声を出す。
すると、その声に反応したのか、時枝が腹に感じていたモコモコが急に動き出した。

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秘書の嫁入り 夢(5)

「あ~~~、黒瀬っ、俺、もう、腹が痛いよ~」
「ふふ、頑張っている姿が、これ程面白い男も珍しいね~」
「ねえ、助けてあげなくていいの? あれじゃあ、ユウイチ、ゲージ壊しちゃうよ」
「壊れるように、細工してあるから。じゃあないと、ユウイチ、空腹で死んじゃうからね」
「壊すこと、前提なんだ。そうだよね…菜箸じゃ上手くいったところで、満足な量食べるのに、一日掛かりそうだし。時枝さんより、ユウイチの方が気の毒になってきた」

黒瀬の手により、ゲージのネジは少し強い力が加わると外れるように、緩められていた。
ユウイチが数回体当たりをすると、ゲ―ジが開くように四方に崩れた。
途端、ユウイチが飛び出た。
ピョーンと放物線を描いて、餌の入った皿に飛び付くと、一心不乱に食べ始めた。

「…なんて…こと…あぁ…」

檻から出た獣と一緒の空間。
ガリガリと音を立て餌をかみ砕く姿は、小さいながらに「犬」だった。
自分を欲して飛びかかってきた犬と何ら変わりはないように、時枝には思えた。
既に腰が抜けた状態の時枝。
立てずに、膝行(いざ)って後ずさる。
あっという間にユウイチの皿は空になったが、ユウイチの空腹は満たされなかった。
お預けの時間も長く、中途半端な食事で、ユウイチの機嫌は悪かった。
見ると、自分を苛めた人間が側にいる。
満たされない空腹を埋めるのは、その意地の悪い人間から餌をもらうしかないと、ユウイチは悟った。

「うぅ~~~~っ」

可愛く強請るという子犬らしい行動は、既にユウイチの中から消えていた。
何がなんでも、そいつから餌を奪ってやると、床を這う時枝に向って先程同様の威嚇を始めた。

「な、何ですかっ! …食べたんでしょっ!…アッチ、行きなさいっ! もう、用はないはず……ヒィッ!」

おどおどしている人間は、所詮動物からしたら、自分より下なのだ。
ユウイチは自分の方が優位だと本能で悟ったのか、時枝がシッ、シッと手で払おうとしても、逃げるどころか時枝を追い詰めていった。
時枝とユウイチの距離がもう一メートルもない。

「ひィイッ! 来るなっ!」

時枝が大声を出した。
それが余計にユウイチを刺激したのか、ユウイチが時枝に向って飛びかかった。

「ギャアアァ―――ッ!」

さすがに時枝も我慢の限界だった。
ユウイチから襲われ、時枝は見事に『あの場で、犬たちに嬲られていた自分』に戻ってしまった。

「…止めてッ…あぁああっ!」

ユウイチは時枝の怯えを面白がり、時枝の顔を時枝の胸に乗ったまま、ペロペロ舐め始めた。
時枝は、ユウイチの舌のザラッとした感触で、自分が今いる場所がどこかも分からなくなっていた。

「黒瀬、ヤバイよ。時枝さん、白目剥いてる」
「しょうがないね。手の掛かる秘書だ」

黒瀬と潤が時枝の所に駆けつけた時、時枝は白目を剥き、口から泡を噴き、しかも失禁していた。
そして、その時枝の濡れた股間部分をユウイチが布の上から舐めていた。

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秘書の嫁入り 夢(4)

勇一が佐々木を天国へ誘って、いや、地獄に落としてルミと身体を使った大人の遊びに、半ば自棄クソで興じている頃、とある一室では、時枝が「ユウイチ」と格闘していた。

「…ひぃっ、…啼かないで…くださいっ!」

ゲージの中のユウイチがキャンキャンと吠えている。

「…ええ…、お腹が空いているのでしょ? …今、なんとか、しますから……」

ユウイチに罪もないし、時枝を脅したくて啼いているわけでもないのは、時枝だって重々承知だ。
小動物相手に身の危険を感じる方がおかしいのだ。
だが、動物が牙を剥き、本能そのままに嬲(なぶ)られた記憶もおぞましい感覚も、簡単に拭いきれる類の物ではなかった。 
震えだけで済んでいるから、これでも少しはマシな方だ。
一生消えないトラウマだろう。
しかし、黒瀬だって潤だって、トラウマを抱え生きている。
勇一だって、自分のせいで心に負った傷は深いはずだ。 
消えないトラウマを無理に消そうとしても無駄だ。
抱え、生きていける強さを身に付けるしかないのだ。
何かあるかもしれない、と時枝がキッチンへ向う。
潤が用意してくれていたのか、ドッグフードの袋が置いてあった。
皿に少し取ると、ユウイチの元に戻る。
問題はどうやって、これをユウイチに与えるかだ。
ゲージの蓋を開けて皿を中に入れてやればいいだけのことなのだが、ゲージの中に手を入れる勇気がない。
もし、開けた瞬間に、飛びかかられでもしたら、それこそ泡を噴いてしまいそうだ。
匂いがするのか、見て餌だと分かるのか、ユウイチの鳴き声が一層激しくなる。
ゲージの前に皿を置く。
知恵を絞って食べてくれ、と時枝が祈るが……そんなこと出来るわけがない。
ユウイチは可哀想に、目の前に餌があるというのに、お預けをくらった状態だ。
ユウイチが狂ったようにゲージの中でクルクルと回っては吠え、回っては吠え、時枝を責めるように睨み付けていた。
そうだ、と時枝がまたキッチンへ行く。
菜箸を手に戻って来た。
長い菜箸でドッグフードを摘み、ユウイチの口元へ持っていく作戦に出た。
一粒摘み、ゲージの隙間からユウイチの口へ腕だけ伸ばし、運ぶ。
最初の三回はゲージに届く前に下に落ちた。
次の五回はゲージの中に菜箸が入った瞬間にユウイチの待てないという吠えに時枝の手が震え、落としてしまった。
そして、やっとユウイチの口元に届いた時、喜び過ぎたユウイチが口を開けた瞬間、ユウイチの息で落ちた。
時枝も汗だくで取り組んだが、ユウイチはもう我慢の限界だった。
見せられただけではなく、目の前まで届いているのに食べられない。
ゲージの中で落ちた粒は、ゲージの隙間に嵌り、前足で掻き出そうとしても取れず、ユウイチのフラストレーションは限界値に達していた。

「ウゥ~~~~! グ~~~ッ!」

子犬らしからぬ唸り声を上げ、時枝を威嚇(いかく)し始めた。 
小さな牙も見せ、早く餌を寄越せと、時枝を脅し始めた。 
もはや、時枝を、自分を苛める敵だとユウイチは思っているらしい。
とはいえ、普通の人間からみたら、子犬の威嚇なんぞ可愛いものだ。

「…落ちついて…、下さいっ、…ユウイチ…良い子は…吠えない…し、人間を泣かせたりしないんです……」

しかし今の時枝が可愛いと感じるわけもなく、冷や汗を垂らし、なんとか威嚇をやめさせようと子犬相手に説得を始めた。
そんなもの、子犬が理解するはずもない。

「ウッ、キャンッ、グ~~~~~~~ッ、ウゥ~~~ッ、」

ユウイチだって必死なのだ。
威嚇だけでは餌が貰えないと判断したのか、今度は狭いゲージ内で暴れだし、ゲージに体当たりを始めた。

「…ユウイチッ、…怪我しますよっ…、あぁあ、ゲージが壊れてしまう……ユウイチッ、落ち着いてっ、話せば分かる! あなた、賢いんでしょっ! …吠えないでっ、…ゆっくり、話し合いましょッ!」

本人は必死なのである。
別に笑いを取ろうとしているのではない。
だが三十四にもなろう男が、子犬相手に「話せばわかる」と説き伏せている姿は、悲しいぐらい滑稽だった。
この様子を盗み聞き、いや、盗み見している二人がいた。 
時枝を迎えにいく前に黒瀬が小型カメラを部屋の死角に取り付けていたのだ。
一応名目は、精神的に不安定な時枝の様子が心配だから、ということだったが……

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