秘書の嫁入り 夢(6)

「いやあ、楽しかったな、佐々木」

バンと、勇一が佐々木の背中を叩く。

「・・・」
「ぅたく、空気の読めないヤツだ」
「・・・・・・」

ズル、ズルと小さな音が聞こえるだけで、佐々木は顔もあげず、勇一の横を歩いている。
夜風に(といっても、もう時間的にはいつも勇一が起きる五時に近いが)当たって帰ろうと勇一が言いだし、少々風の冷たい秋の夜道を歩いていた。
そう、ソープ帰りの二人だった。
勇一が久しぶりに組に顔を出し、組長としての仕事をこなしたまでは良かった。
佐々木は正直ホッとした。
自分が黒瀬に組長代理を頼んだものの、自分を含め組員の過酷で緊張を強いられる日々に、後悔がないといったら嘘になる。
しかし、黒瀬しかいなかったのだから仕方なかった。
時枝が出ていき、落ち込んでいるであろう勇一が仕事に精を出す姿をみれば、勇一の誘いを佐々木が断れるはずがない。
溜っているうっぷんもあるだろう。
きっと今夜は明け方まで飲み明かすのだろうと、勇一の誘いを簡単に受け(もっとも、断れる立場ではないが)自宅で待つ大喜に今日はいつ帰れるかわからないと電話を入れた。
それがこんなことになろうとは…と勇一の隣を歩く佐々木の顔はグチャグチャに濡れていた。
涙と鼻水で。

「男たるもの、たまには外で遊ばないとな。浮気の心配をさせるぐらいじゃないと、飽きられるぞ、佐々木」

また、バシッと勇一の手が佐々木の背中を叩く。

「お前の真珠に、ルミだってよがってたじゃないか。俺も入れてみようかな」

そう、佐々木の真珠入りのソコは、プロの口と手により、見事に雄々しく立ち上がり、上から腰を沈めたルミの体内に収まったのだ。
もっとも、ルミと佐々木が結合したのはその一回だけで、ルミに絞り取られた後は、佐々木はベッドから逃げ、床で泣きじゃくっていた。
その間、勇一はルミと何かを吹っ切るように、いや、何かと戦っているかのように、ルミとの激しく淫ら行為に耽っていた。

「…こんな激しい組長さん…ルミ初めて…凄い…」

彼女が本気で勇一に凄いと口にしたのは、初めてかもしれない。
彼女の言葉のほとんどは客を喜ばす為のリップサービスなのだ。

「ほら、帰るぞ。可愛いガキが待ってるんだろ?」
「帰れません…アッシは…あっちの塒(ねぐら)に籠もります…」
「馬鹿言え。お前を帰さなかったら、あの煩いガキに朝からギャーギャー言われるの、俺だろうが。サッサ、歩け」
「……そんな……組長~~~」

佐々木には、勇一がどうしてソープに行ったのか理解出来なかったし、自分が巻き込まれた理由も分からなかった。
勇一のこの理解しがたい行動の意味を後々知ることになるが、それは当面先のことで、とにかく佐々木は大喜を裏切ってしまったと自分を責め、溢れる涙と鼻水でグチャグチャの状態だった。

 

 

腹に温かいモコモコした湯たんぽのような物を感じ、時枝がゆっくり瞼を開いた。

「…うそっ、」

自分の視界が信じられず、寝ぼけているか、まだ夢の中に違いないと再び目を閉じ、心の中で十を数えた。
そして、再度瞼を開く。

「―――そんなバカな」

あり得ないと、パチパチと瞬きをしてみる。

すると、目の前の信じがたい光景の一部が動いた。

「朝からブツブツ煩いよ。潤が起きるだろ、シッ」

ウエーブがかったロン毛を気怠そうに振りながら、黒瀬が頭を枕から上げ、肘を付き手で顎を支えた。
布団から出ている黒瀬の上半身は裸である。

「…一体、どういう事ですかっ! あなた、まさか…、いや、幾ら何でも…」
「一緒に寝た。ふふ、まさか、こんな朝を時枝と迎える日が来るとはね~」
「えっ、…嘘でしょっ! 私とあなたがっ? そんなわけ…あるはずないっ!」
「どんなわけだったら、あるの、時枝?」
「だって、あなたには、潤さまがっ!」

慌てふためく時枝の背中からウ~~~ンと声がする。

「…煩いなぁ~、俺がどうしたの…」

まさか、と時枝が後ろを振り向く。
目を擦って欠伸をしている潤がいた。
潤も衣類を着けている様子はない。

「あっ、あなた達っ、何をっ!」
「なにをって、そりゃ、この状況みたら、分かるだろ? 時枝、大人なんだから。私も潤も裸で、時枝も何も着てないってことは、答えは一つじゃない?」

時枝の脳裏に浮かんだ答えは一つだが、それを認めるわけにはいかない。

「そんなはず、あるわけないでしょっ!」

時枝の大声を出す。
すると、その声に反応したのか、時枝が腹に感じていたモコモコが急に動き出した。