秘書の嫁入り 夢(5)

「あ~~~、黒瀬っ、俺、もう、腹が痛いよ~」
「ふふ、頑張っている姿が、これ程面白い男も珍しいね~」
「ねえ、助けてあげなくていいの? あれじゃあ、ユウイチ、ゲージ壊しちゃうよ」
「壊れるように、細工してあるから。じゃあないと、ユウイチ、空腹で死んじゃうからね」
「壊すこと、前提なんだ。そうだよね…菜箸じゃ上手くいったところで、満足な量食べるのに、一日掛かりそうだし。時枝さんより、ユウイチの方が気の毒になってきた」

黒瀬の手により、ゲージのネジは少し強い力が加わると外れるように、緩められていた。
ユウイチが数回体当たりをすると、ゲ―ジが開くように四方に崩れた。
途端、ユウイチが飛び出た。
ピョーンと放物線を描いて、餌の入った皿に飛び付くと、一心不乱に食べ始めた。

「…なんて…こと…あぁ…」

檻から出た獣と一緒の空間。
ガリガリと音を立て餌をかみ砕く姿は、小さいながらに「犬」だった。
自分を欲して飛びかかってきた犬と何ら変わりはないように、時枝には思えた。
既に腰が抜けた状態の時枝。
立てずに、膝行(いざ)って後ずさる。
あっという間にユウイチの皿は空になったが、ユウイチの空腹は満たされなかった。
お預けの時間も長く、中途半端な食事で、ユウイチの機嫌は悪かった。
見ると、自分を苛めた人間が側にいる。
満たされない空腹を埋めるのは、その意地の悪い人間から餌をもらうしかないと、ユウイチは悟った。

「うぅ~~~~っ」

可愛く強請るという子犬らしい行動は、既にユウイチの中から消えていた。
何がなんでも、そいつから餌を奪ってやると、床を這う時枝に向って先程同様の威嚇を始めた。

「な、何ですかっ! …食べたんでしょっ!…アッチ、行きなさいっ! もう、用はないはず……ヒィッ!」

おどおどしている人間は、所詮動物からしたら、自分より下なのだ。
ユウイチは自分の方が優位だと本能で悟ったのか、時枝がシッ、シッと手で払おうとしても、逃げるどころか時枝を追い詰めていった。
時枝とユウイチの距離がもう一メートルもない。

「ひィイッ! 来るなっ!」

時枝が大声を出した。
それが余計にユウイチを刺激したのか、ユウイチが時枝に向って飛びかかった。

「ギャアアァ―――ッ!」

さすがに時枝も我慢の限界だった。
ユウイチから襲われ、時枝は見事に『あの場で、犬たちに嬲られていた自分』に戻ってしまった。

「…止めてッ…あぁああっ!」

ユウイチは時枝の怯えを面白がり、時枝の顔を時枝の胸に乗ったまま、ペロペロ舐め始めた。
時枝は、ユウイチの舌のザラッとした感触で、自分が今いる場所がどこかも分からなくなっていた。

「黒瀬、ヤバイよ。時枝さん、白目剥いてる」
「しょうがないね。手の掛かる秘書だ」

黒瀬と潤が時枝の所に駆けつけた時、時枝は白目を剥き、口から泡を噴き、しかも失禁していた。
そして、その時枝の濡れた股間部分をユウイチが布の上から舐めていた。