その男、激情!83

否定しない大喜に、潤が掛ける言葉を失った。
黒瀬が、大喜から手を離すと、潤に行こうと促した。

「黒瀬、でも、…」
「いいから、行ってくれ。忙しいんだ」

出て行こうとしない潤の背中を大喜が押した。
バタンとドアを閉めると、内側から鍵を掛けた。
鍵の掛かる音で潤も諦めたらしく、黒瀬と共に歩き出した。
足跡が遠のいて行くと大喜はスポーツバッグに身の回りのものを詰め始めた。
黒瀬と潤が台所に着くと、出前のステーキと寿司も届いており、食卓の上は所狭しと皿と膳が並んでいた。

「どうぞ、温かいうちに、」

二人を佐々木が出迎える。
潤が佐々木の顔を観察するようにジッと見た。

「潤さま、アッシの顔に何か?」
「別に。普通の顔だなって思って」

ブスッと言いながら、席に着く。

「この顔を普通と表現できる潤は優しいね。左目の横の傷といい、鬼瓦のような目付きといい、ゴリラの中でも下の下じゃない?」
「ゴリラでも何でもいいけど、どうして、佐々木さんが落ち着いていられるのか不思議」
「ふふ、いいじゃない? そうなる運命だったんだよ。運命には逆らえないから。兄さんたちみたいに切れたはずの糸がしつこく繋がっていた、ってこともあるし、私と潤みたいに、日々愛が深まっていくと運命づけられている者もいるし」

さあ、食べよう、と黒瀬が箸を持つ。
それにならい、潤も食べ始めた。

「難しい話で…あの、何か…アッシに問題でも?」
「問題? 佐々木さん、ダイダイ放って置いていいんですか?」

呆れきった、という潤の顔。

「今頃、荷物まとめているかもしれないのに」
「そうなんですよ。ダイダイ、実家に帰るって言っていたので、その準備をしているんでしょう。給仕もしませんで、申し訳ございません。ダイダイの躾がなってないというお叱りでしたか」

世間一般に嫁が夫に言うところの『実家に帰る』という意味と同じ意味で、大喜がその言葉を口にしたとは佐々木は思っていなかった。
佐々木は、大喜が実家に用事で帰ると思っていた。
深く頭を下げた理由も佐々木に、出掛ける自分の代りに、黒瀬達の朝食の世話をお願いしたのだと思っていた。
誤解をしたままの佐々木の言葉は、誤解の連鎖を生んだようだ。

「あんた、それでも男かよっ!」

箸を放り投げ、潤が立上がる。

「ひっ、お、落ち着いてくだせぇ、…潤さまっ、」

切れた潤を見たことは、数回ある佐々木だが、それが自分に向けてとなると、初めてだ。

「潤、凛々しい姿もいいね。惚れ直すよ」

黒瀬は箸を休めることなく、嬉しそうに潤を見つめていた。

「躾がどうとか言ってる場合か! 見損なったよ。愛には真摯な男だと思っていたのにっ! 冷静に語っている場合じゃないだろっ! は? そんなに別れたかったのかよ。だったら、あの時、組長さんに激怒していたのは何だったんだよ」

潤のいうあの時とは、橋爪を名乗る勇一に大喜が拉致られた時のことだ。

「何を仰有っているんですか? 別れたい?…誰と誰がですか?」
「ゴリラと小猿に決ってるじゃない」

佐々木の質問に、潤より先に黒瀬が答えた。

「ゴリラって、アッシですか? アッシとダイダイが、別れる? 何のことだかサッパリ」
「イイ加減にしろよ、佐々木さん。実家に帰るってダイダイ言ったんだろッ! それを止めなかったんじゃないの? 違う? 別れたくなかったら、身体を張ってでも止めるのが、男じゃないの」

まだ、佐々木はピンと来てなかった。
自分が止めなかったことが、どうして別れたいと繋がるのか。
だが、潤の憤った様子から、自分が何かとんでもない間違いを犯したらしいことは推測できた。

その男、激情!82

「将来の雇い主に、もっと丁寧な話し方できないの? ふふ、時枝がここにいたら、厳しく叱られてたよ」
「残念だったな、ココに時枝さんはいないし、黒瀬さん、あんた、もう俺の将来の雇い主じゃない」
「ダイダイ、どういうこと?」

潤がベッドから跳ね起き、大喜の前に立つ。

「どうもこうも、言葉通りだ。朝食の準備が出来てるから。出前はまだだけど、桐生の朝食はセッティング済みだ」
「ココで食べるって、佐々木から聞かなかった? 下に降りていっただろ?」
「聞いてない。話あるんだろ? 三人で仲良くあのいい加減な男と時枝のオヤジの話するんだろ? 部外者は邪魔しないから、盛り上がればいいよ」
「部外者? ダイダイ、さっきから変だよ。機嫌悪そうだし。佐々木さんとケンカした?」
「は? ケンカ??? 俺がオッサンとケンカするわけないだろ。いいからサッサとこの部屋から二人とも出て行ってくれよ。俺だって忙しいんだよっ!」

自分の前に立っていた潤の腕を大喜が掴むと、寝室の外へ出そうと引っ張った。

「ヒィッ!」

その大喜の腕を今度はベッドから降りて来た黒瀬がねじり上げた。

「相変わらず煩い小猿だ。私の潤に暴力は許さないよ。佐々木が拾って来た頃と何の進歩もないところが、本物の猿だね。ふふ、人間に進化する前に、家出でもするらしいけど」
「えええっ?」

声をあげたのは潤だ。

「結婚の協力もしてあげたんだから、離婚の協力もしてあげようか? ふふ、こっちの方が面白そうだけど」

本気で黒瀬は面白がっていた。
退屈しのぎの話題は一つでも多い方がいいのだ。
しかも、時枝と勇一達とは違い、この二人の関係はシリアスモードに欠けており、当人同士には不幸な出来事でも見てる側には余興にしか感じられなかった。
特に黒瀬には。

「黒瀬っ!」

だが、潤は違った。
一人っ子の潤にとって、大喜は弟のような存在だし、佐々木には黒瀬が廃人同様に陥ったとき、組の仕事そっちのけで世話をしてくれた恩がある。
しかもこの三年、時枝の為に陰に日向にと動いてくれたのは、他ならぬこの佐々木だ。
そんな二人の危機と知れば、潤が黙っている訳がない。

「ダイダイ、佐々木さんと何かあったのか? さっきの事? ダイダイが組長さんに話そうとしたのを止めたこと怒っているの?」

自分と黒瀬が原因とは、潤はこれっぽっちも思っていない。

「だから、ケンカとかしてないって、言っただろ。サッサと下に降りて朝食食べろよ。冷めるぞ」
「ふふ、潤行こう。ゴリラと猿のことなんて、今はどうでもいいんじゃない?」

黒瀬は、朝食の方が大事だという意味で言った。

「…どうでも、いいって…。でも、確かに優先順位的には…悪いけど組長さんと時枝さんか」

と、潤は医務室の二人のことを言っているのだと解釈した。
潤の言葉に、どうせ俺はその程度だよ、と大喜が内心でやさぐれていた。今の二人の状況を考えれば潤が言っていた事は当然のことだが、大喜の心は今現在かなり荒れていた。
佐々木の言葉と潤の言葉が重なり、自分が佐々木にとっても桐生にとっても、どうでもいい存在に思えてならなかった。

「俺の事なんかどうでもいいだろっ。サッサと下に行けよ」
「ふふ、お山に帰る猿は放っておけばいい。人間社会には馴染めなかったって、分ったんじゃない?」
「…そうかも…しれないな」

ボソッと大喜が呟いた。

その男、激情!81

「ふ~ん、自分達の行為を鏡に映して悦んでるの。佐々木って、そういう趣味があったんだ。ロマンティックな変態ゴリラだったとは、最悪」
「いや、アレはっ、…その、ダイダイが、アッシの背中の、…菩薩が…えっとですね」
「ダイダイのせいにするなんて、佐々木さん見損なったよ」

潤は佐々木をからかっているに過ぎないのだが、佐々木の方は肩を落としてしょげた。

「オッサン、どこだよっ!」

タイミングよく大喜の声が階下から飛び込んで来た。 佐々木が、失礼します、と寝室を慌てて出て行った。

「二階で何してたんだ? あの二人はどこだ」

しかめっ面の大喜が、二階から降りて来た佐々木に責め口調で訊いた。

「…二階で朝食を召し上がりたいと仰有って…」
「はあ?」

大喜の不機嫌丸出しの声に、佐々木の声が先細りになっていく。

「……寝室に…その、何だ…」
「寝室? 入れたのか? オッサン、あの二人を俺とオッサンの愛の寝室に、入れたのかよっ!」

ヤバイと、佐々木は思った。
大喜が不機嫌を通り越して、激怒しているのが分る。
潤と黒瀬は、佐々木の趣味だと思っていた寝室だったが、実は大喜が少しずつ今の部屋へと変えていったのだ。
鏡も佐々木の言った通りで、大喜の要望で取りつけたものだった。

「許せ、ダイダイッ!」

佐々木が手を合わせ、大喜を拝むように謝罪した。

「俺はまだ仏じゃないっ!」

大喜が佐々木の合わさった手を振り払った。

「俺と組の仕事のどっちが大事なんだ、ってことは言うつもりはない。比べられるようなモノじゃないと思っているし、オッサンの魂は桐生そのものだって俺はちゃんと理解している」

胸ぐらを掴むと、身長差のある佐々木を見上げた。

「あ、ありがとう。さすがダイダイだ」
「だけどな、あの二人は違うだろっ! 俺とあの二人のどっちが大事なんだっ! 答えろっ!」
「…ダイダイ、そりゃ、もちろん、」
「もちろん?」
「もちろん、三人とも大事だ…」
「・・・」

大喜が佐々木を見上げたまま、固まった。
瞬きするのも、口を閉じるのも忘れていた。

「ダイダイ?」

佐々木の呼び掛けに、ハッと我に返った大喜が、佐々木から静かに離れた。

「実家に帰らせて頂きます」

静かにそう告げると、佐々木に深く頭を下げた。

「…実家?」

大喜の放った言葉の意味するところが、佐々木には分ってなかった。
大喜はクルッと向きを変え佐々木に背を向けると、佐々木を置いたまま、一人で寝室へと向った。

「あんた達、人の寝室で何してんだ?」
「やだな、見て分らない?」

オーガンジーの布の越しに、二人の人間が重なっているのが、大喜の目には映っていた。

「分るから、訊いてるんだよ」

本番中ではなかった。
服は着ている。
だが、大喜が寝室へ入った時、水音が聞こえる程、黒瀬と潤はハードなキスをしていた。
それも、自分と佐々木が愛を育んでいた大事なベッドの上で。
真っ白な純白のレースの寝具は、自分達の純粋な愛の証のように感じていた。
それを穢されたような気がして、大喜には許せなかった。
もちろん、一番許せないのは、寝室にこの二人を入れ、自分とこの二人を同等に評価した佐々木なのだが。

その男、激情!80

「…あのぅ、そろそろ、抜いていいか?」

このままだと、また硬さを取り戻しそうだ。
勇一の問いかけに、時枝が濡れた瞼を上げた。
三十代の男のものと思えぬ、迷子の子犬のように切なげに潤んだ目が、勇一を見上げた。

「俺さまのミルク、飲みたいなら、またいつでも飲めるだろ? もう、身体休めた方がいいんじゃないのか? マジ、腹下すって。俺さまのミルクには元気いっぱいのオタマジャクシが暴れているから」

絡めた舌を離し、時枝が唇を緩めた。
そうっと、勇一が時枝の口内から自分の分身を引き抜いた。

「…勝貴、…そんな目で見るなって」

口を半開きにしたまま、水分で光る目で勇一を見ている。

「…勇一、」
さっきまで、水分を飛ばしながら勇一を怒鳴っていた時枝はいなかった。
儚げで、今にも消えそうな時枝が、掠れる声で勇一の名を呼んだ。
引き寄せられるように、勇一が時枝の唇に自分の唇を重ねた。
ビクッと、時枝の身体が撓った。
キスをされているというのに、時枝は目を閉じるどころか、驚いたように目を丸くした。
勇一もビリッと微電流が唇の薄い皮膚から流れたように感じ、驚きを覚えた。
だが、勇一はそれを自分が放った液体のせいにした。

―――キスなんて、いつもしているじゃないか…

怪我だけでなく、泣き疲れているはずの時枝をこれ以上興奮させたくなくて、労るような優しい口付けを施した。
時枝は目を見開いたまま、静かにそれを受けた。

「…ゴメン、勇一」

勇一が頭を上げると、時枝が瞼を閉じながら、掠れる声で謝罪した。

 

 

「・・・恥ずかしいって、こういうコトいうのかも」

黒瀬と共に、佐々木の寝室へ入った潤がぼそり、呟いた。

「悪趣味の一言に尽きるね」

黒瀬が軽蔑したように、冷たく言い放った。

「だから、イヤだったんですよぅ…」

二人を追ってきた佐々木は、今にも泣きそうな顔だ。

「ダイダイも、恥ずかしいんじゃないの? 彼の趣味じゃないでしょ、コレ」
「佐々木に感化され、喜んでたりして~。きっとお猿のエプロンもこの路線じゃない?」
「…ダイダイのエプロンは、ピンクで…もっと、ロマンティックなヤツでして……」

泣きそうな佐々木の黒目が、一瞬ハートマークを刻んだ。

「ますます、恥ずかしいよ、佐々木さん。裸に着せてるんじゃないの?」
「な、なんて破廉恥な事をっ、仰有るんですか!」

顔全体を赤にして、佐々木が潤に抗議した。

「破廉恥って、それを言うならこの寝室だと思うけど、ね、黒瀬」
「全くだ。猿と交わるのに、純白のレースとフリルのベッドメイキングは必要ないと思うけど。天蓋まで付けて。家具までプリンセス仕様になってるし」

前はシックな部屋だった。
少なくとも佐々木が一人暮らしの時は、無駄のない機能重視のシンプルな部屋だった。
が、しかし…
今、この部屋は恐ろしく変貌を遂げていた。
いわゆる姫系インテリアだ。
部屋中の壁は淡いピンク。
そのピンクの壁に、白い猫足のロココ調の家具が横並びに配置されいている。
中央には、周りをオーガンジーの布でふんわりと囲った天蓋付のベッド。
そのベッドはレースとフリルをふんだんに使った寝具一式で飾られている。大小のハート型クッションまでベッドには置かれていた。

「黒瀬あれ見て」

潤がベッドの上を指した。
オーガンジーの布の間から、鏡が覗いていた。

その男、激情!79

「…勇一…、俺のだ…。俺のっ、」

時枝が、勇一の分身に向って手を伸ばそうとする。
指先が、小刻みに震えていた。

「俺より、ココなわけ?」

あまりに切羽詰った表情を時枝が見せるので、勇一が冗談交じりに言う。

「…ああ、そうだ」

言葉とは裏腹に、そんなわけあるか、どアホ、と時枝の心が言っているのが勇一には聞こえた。

「全身、お前のモノだよ。どうぞ、お触り下さい」

勇一が自分の中心を時枝の指先に持って行く。
時枝の指先が、勇一のツルッとした先端に触れる。
触った瞬間、ブルッと勇一の全身が震えた。
時枝が、アッと小さく声をあげ、指を退いた。

「凄く、くるな。いつも触らせているのに、不思議だぁ、久しぶりの気がするぜ。遠慮要らないから、触れ」

時枝の指に、勇一は身体に電流が走ったように感じた。
少し触れられただけの場所が熱い。

「…裏切ったら、」

一度離れた手をまた勇一の分身に戻すと、今度は強い意志を持って握りしめた。
ギュッと力を込められ、くっ、と勇一の口から音が漏れる。

「針千本じゃなくて、コレを根元から切り落としてやるからなっ! 本体が俺を一人にするなら、剥製にして俺の側に置く」
「はは、冗談にしては、」

物騒な時枝の言葉を笑って済まそうとした勇一から、笑みが消えた。
泣きっ面で腫れ上がった瞼を大きく見開き、時枝が強い眼光を放ちながら勇一を睨んでいる。
握られた場所に、圧が更に加わる。

―――こいつ、本気だ… 真剣に言ってやがる。

「冗談じゃないんだな。勝貴、切り落とすつもりか」
「ああ。不慮の事故でも許さないっ! 許さないっ、…勇一……勇一っ、」

一旦乾いていた時枝の双眸がまた濡れる。

「ははは、俺さま、愛され過ぎだし、勝貴、可愛い過ぎだろ。うわっ、バカ、そんなに急に…」

時枝の手が、勇一を扱きだした。
勇一の熱い分身に時枝が直に触るのは、実に三年ぶりだった。
直に伝わる勇一の熱、皮膚感、膨張していく感触、何一つ変わっていない。
生きている…勇一は生きていた……自分の手の中で脈打つ勇一の生を感じながら、時枝の心は喜びで震えていた。

「ちょ、ちょっと、勝貴、手加減しろよ」

一息吐く間も与えない程、時枝の手が弱い所を攻めるのであっという間に勇一の雄は噴出寸前となる。

「…俺のだっ、自由にさせろっ!」
「そうだけどな、勝貴。もう、ヤバイって。っ、ってぇええ、」

ギュッと根元を握られ、勇一の欲望は堰き止められた。

「…飲みたいっ、」
「はい?」
「飲ませろっ、」
「・・あの、勝貴ちゃん、飲むって、俺さまのミルク?」
「他に何があるって言うんだっ、どアホ!」

勇一を怒鳴るのと同時に、時枝は勇一から手を離した。
そして、水分たっぷりの目を閉じると、口を丸く開いた。

「勝貴っ、オイ、」

何の為に開けられた口なのか、勇一にもすぐに分った。

「腹くだしても知らね~ぞ。…しょうがないな…」

ブツブツ言いながら勇一は、時枝の頭の方に回り込んだ。
時枝を覗き込むように上半身を前に倒し、時枝の口に猛ったモノをゆっくりと入れた。
半分入った所で時枝の舌が絡みつき、勇一の精を搾りとろうとする。

「ファラしたいんじゃなくて、飲みたいだけか」

口に入りきれなかった根元部分を勇一が手で扱く。

「んっ、」

鼻に抜けた声を出し、勇一が爆ぜた。
時枝の口の中に、懐かしい味が広がった。
勇一以外の味もこの三年間で覚えてしまった時枝を、嬉しさと後悔が同時に襲う。
咥えたまま、閉じた目から静かに涙を流す時枝。
その顔を見ていると、勇一の中に説明のつかない自責の念が生まれた。

―――俺のせいだ。許せ勝貴。
―――ん? 何が俺のせいなんだ…?
―――勝貴が、マズイもの口に含んで切ない顔するからか?

 

その男、激情!78

「お猿に、何て言ったの? ふふ、ご褒美で釣ったとか?」

騒いでいた大喜が、佐々木の呟きで静かになったことに、黒瀬が興味を示した。

「…いや、別に…特別な事は…。聞分けの良い子が好きだと…それから、いや、以上です」

言い切った佐々木の顔と服から露出している皮膚の全部が、真っ赤になった。

「ごちそうさま」

赤くなった佐々木を見て、潤が茶化した。

「どこで朝食を頂こうかな? ゴリラとお猿の寝室でもいいけど」
「それは、ご勘弁をッ!」
「何を慌てているの? 見られてマズイものでもあるの?」
「…あ、ありませんっ!」
「ふ~~ん、あるんだ。じゃあ、朝食は寝室で」
「ボンッ!」

と、叫んだ後、自分の失言に気付いた佐々木が慌てて口を押さえた。
黒瀬は何より「ボン」と呼ばれるのを嫌う。

「佐々木、殺さない代りに、寝室決定ね。ふふ、動物同士の交わりの場って、興味あるよね、潤」
「黒瀬、失礼だぞ。立派な人間同士の交わりだろ? でも、興味はあるかも。他人の寝室って、ちょっと興奮する」
「ふふ、興奮した潤を、食べるのも悪くないね」
「武史さまっ! それは、本当にご勘弁をっ! あのベッドは、アッシとダイダイの…その…あの……」

しどろもどろの佐々木を無視し、黒瀬は佐々木宅へ着くなり、二階にある佐々木と大喜の寝室へ向った。

 

 

「…勇一、…触りたい。勇一に、触りたい」

黒瀬達が出て行った医務室。
時枝が、勇一に点滴で繋がれた腕を数センチだけ持ち上げ、勇一を呼ぶ。

「勝貴、大人しく寝てろ。幾らでも触らせてやるから」

勇一が床に膝を付き、自分の頬を時枝の掌に当てた。

「――勇一、…桐生勇一、心も躰も勇一だよな……地獄じゃなく、二人ともこの世だ…」

涙腺が壊れてしまっているらしく、時枝は勇一の顔を見る度に、涙を流す。

「また、その話か? 安心しろ、俺は勝貴が大好きな頼れる男、勇一様だろ」

勇一の言葉に、ふわぁ、と泣き顔が緩み、その後、ムッとした表情を見せた。

「違う。…好きじゃない…、勇一なんか、好きじゃないっ、」

まさか、そんな言葉が返って来るとは思わず、勇一が「え?」と、間抜けな声をあげた。

「好きとか嫌いとか…そんな子供じみた次元じゃないっ! 惚れてるんだっ! 大惚れなんだっ!」

愛の告白のはずなのだが、勇一は自分が怒られているように感じた。
時枝の放つ言葉には、明らかに「怒」が含まれていた。

「か、勝貴っ、…落ち着け。あ、有り難う…」
「金輪際、俺から離れたら…、うっ、……」
「離れたらって…俺が、寝室で寝てたことを怒っているのか?」
「馬鹿ッ! そんな…ことじゃっ、…くっ、そうだよ……ああ、俺を一人にするなっ!」

時枝が言葉を呑み込んだ事を、勇一も感じていたが、それを言及する気にはなれなかった。
時枝が涙を流しながら勇一を睨むように見つめる視線の奥に、言葉では表せない時枝の感情が込められているのが分った。
それが何なのか、何故か訊くのが怖かった。

「悪かったよ。約束するから、泣くな。男前が台無しだ。指切りしようぜ、勝貴」
「…針千本で、済ませる気か? 裏切ったら…俺を一人にしようとしたら、針千本なんかで許せるかっ! 出せっ!」
「出せ?」
「…言っただろ。…触りたいってっ…。…顔しか触らせない気か…」

恨めしそうな顔で、時枝が掌の中の勇一の頬を軽く叩く。

「指切りは、しなくていいのか?」
「…だから、出せ」
「もちろん、ソレはこれを出せってことだよな…」

下着姿で大喜から医務室に連れて来られた勇一は、佐々木が掛けてくれた着流しを上から羽織っているだけだ。
勇一は立ち上がると、トランクスを下にずらし、中から自分の分身を取りだした。

その男、激情!77

「武史、一つ訊いていいか?」
「何ですか、兄さん」
「どうして、俺は勝貴が撃たれた事を覚えてないんだ? 病室でお前に空砲を浴びせられたんだよな?」

黒瀬が何と答えるのか、皆の視線が黒瀬の口元に集まった。

「兄さん、二つ訊いてますけど? ふふ、怒りで頭に血が上り過ぎたんでしょ。それか、空砲の衝撃で倒れた時に、頭を強く打ったからか。脳の造りが単純な分、衝撃に弱かっただけじゃないですか?」

そんな理由で納得するとは思えなかったが、

「そっか。まあ、人間頭を強く打てば、そんなこともアリだな」

勇一は、あっさり納得した。
そんな馬鹿な、と答えた黒瀬も含め誰もが思った。
大喜は何か言いたげな様子だったが、佐々木が大喜の耳元で『何も言うなよ』と先手を打った。

「勝貴、こんな大変な状態の勝貴から、一瞬でも離れていたこと、許せよ。ベッドで目覚めるとは…不覚だ。今日から、俺もココで寝起きする」
「それがいいんじゃない? 橋爪の情報収集は、佐々木でも出来るだろうし、数日ぐらい、兄さんが時枝に付いていても、桐生は回るから」

『今、でしゃばって、組に出て来られても、困るしね』と黒瀬が腹の中で続けたことを、時枝も佐々木も読み取っていた。
もちろん、潤も。
更に時枝に向け、黒瀬が続けた。

「意識戻ったなら、しばらく兄さんと一緒にいたいよね?」

『兄さんをしばらく足止めして置いて』という意味だ。

「もちろんです」
「我々は、退散するよ。ふふ、ごゆっくりどうぞ。もっとも楽しい事は何も出来ないだろうけど」

『その身体でもできることあるよね? ここから、出さないように』

「勇一が側にいるだけで、幸せですから」

『余計なお世話です。さっさと密談でも雑談でもどうぞ』

「ふふ、時枝の惚気なんて耳障りなだけだから、潤、行こう」

潤を促しながら、黒瀬は佐々木を見る。

「ダイダイ、お二人の邪魔になるから、我々も退散するぞ」

チッ、と大喜が舌打ちをし、

「分ってるって」

勇一を睨んだ後、佐々木と共に医務室を出た。

「やっと再会だね、組長さんと時枝さん」

医務室を出た潤が、しみじみと言った。

「どうするんだよ、これから」

大喜が誰に向けるともなく呟いた。

「こらから? もちろん食事だけど?」

黒瀬が、当然だろ、と言わんばかりの口調で大喜の呟きに答えた。

「はぁ?」
「お腹空いたよ。朝食は本宅で食べようと思って、私も潤も抜いてきたからね」
「うん、俺もお腹ペコペコ。ホッとしたから、余計に空いてきたよ」
「何言ってるんだよ、黒瀬さんも潤さんもっ。そんなこと今はどうでもいいだろッ」
「ダイダイッ!」

黒瀬と潤相手に切れ掛けた大喜の口を佐々木が慌てて手で塞いだ。

「お猿、ギャンギャン煩いよ。ふふ、佐々木の部屋でゆっくり極上の寿司でも食べながら、兄さんの悪口大会でもすれば、猿の気が収るらしい」
「ボ、あ、いえ、武史さま、朝から寿司ですか?」
「ステーキでもいいけど? 潤は何が食べたい?」
「そうだな…黒瀬、激しかったから、結構体力消耗しているし…寿司もお肉も両方食べたいかも…でも、桐生の朝食も捨てがたい」
「OK。佐々木、寿司とステーキと、桐生の朝食を用意して」
「かしこまりました。分ったな、ダイダイ。今直ぐ手配してくれ」

まだ口を佐々木から塞がれている大喜が、ウ~ウ~、と手の下で何か言っている。
その耳元で佐々木が何かを呟くと、大喜は大人しくなった。
大喜だけ朝食の手配で本宅内に残り、黒瀬、潤、佐々木の三人は、本宅内の佐々木の自宅へと向った。

その男、激情!76

「佐々木、ウルサイ。空砲で死ぬ人間って、珍しいと思うけど? せいぜい怪我か火傷ぐらいじゃない?」
「何の話だ?」

勇一が、怪訝な顔で黒瀬に訊く。

「時枝がベッドの上で兄さんと死にたいってしつこいから、拳銃で二人を撃つ真似をしただけですよ」
「…真似?」
「ええ。音に驚いて、気絶しただけです。ふふ、残念ながら、二人とも生きていますよ」
「白々しく俺の額について言っていたのに、お前の仕業か」

苦々しく勇一が吐き捨てる。

「ふふ、覚えてないとは、思いませんでしたよ。老化現象ですかね」
「うるせーよっ。でも、勝貴、これで分っただろ。俺達は生きてるんだぞ。勝貴も俺も、こいつらも。だから、早く元気になれ」

勇一が時枝のベッドの横で跪き、点滴で伸ばしている時枝の手を握りしめた。

「…生き、…てる? 勇一も? 本物の勇一が? …生きて、ここに? …俺のこと、俺のことっ、」

―――俺のことを分る勇一が…、
胸の裡で続けながら、時枝の視界は勝手にあふれ出す涙で歪んでいた。

「全く、結婚式まであと少しだっていうのに」

勇一の言葉に、大洪水中の時枝も含め全員が固まった。

…まさか?

勇一以外の皆が同じ疑問を持った。

「―――組長さん?」

口火を切ったのは潤だった。

「結婚式って?」
「決ってるだろ、俺と勝貴の式だ」
「…二回目の?」

大喜が、恐る恐る訊いた。

「アホか。俺も勝貴も初婚だ!」
「…時枝のオヤジとも?」

更に大喜が、控えめに訊いた。

「このガキ、ナニ言ってるんだ? 当たり前だろっ」

―――やっぱり

勇一以外が顔を見合わせる。
黒瀬は小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、潤は少しムッとし、佐々木は嬉しそうに、そして大喜は呆れ顔だった。

「延期でも籍だけ先に入れるぞっ! 時間が出来た分、セットではなく本当の教会でも神社でも、どこでも手配可能だ。な、だから、早く元気になれ。その間に、俺が敵とってやるから」
「…勇一、――すまない。こんな身体で…。お前には心配と迷惑ばかりかけて」
「時枝さんが謝ることはないよ、時枝さんのせいじゃない」

今度は大喜ではなく、潤が口を開いた。

「そうだ、勝貴のせいじゃない」

と続けた勇一の背中に、他四人それぞれに、それは勇一のせいだという意味の視線を投げつけた。

「勇一の為にも…俺は早く元気になってみせるから…仇なんて事は…」
「大丈夫だ。もう、誰が勝貴をこんな目に遭わせたか、仕入れた」
「え?」

勇一の言葉に、時枝の大洪水が突然止まった。

「橋爪というイかれた野郎が実行犯で、裏に台湾の李だ。俺に任せとけ。桐生の総力を挙げて、息の根を止めてみせる」
「ふん、あんた、出来ると思ってるんだ。そんなことが」

小馬鹿にしたように大喜が言った。

「なんだとぉおおっ、このクソガキッ!」

時枝の手を握りしめたまま、鬼の形相で勇一が大喜を振り返った。

「勘弁してやって下さいっ!」

佐々木が、慌てて頭を下げた。

「なんだよ、オッサンだって、出来ないって思ってるくせに」
「ダイダイッ!」

佐々木が焦って唾を飛ばしながら叫んだ。
だが、大喜の言葉を佐々木は否定しなかった。

「ホント失礼なゴリラと猿だ。兄さんに出来ないはずないだろ。ふふ、楽しくなってきた。兄さんが、腕の悪い殺し屋さんをどう料理するのか、見物だね」
「社長ッ!」

ベッドの上から、時枝が黒瀬を睨む。

「ん? 何か問題でもあるの、時枝?」
「…いえ、」

言葉に反して、時枝は『大有りだろッ』と黒瀬を睨みつけた。

その男、激情!75

「貸せ」

名前一つ聞き出すのに、さっきから進まないことに勇一が痺れを切らした。
黒瀬の手から佐々木の手首をもぎ取った。

「佐々木、邪魔するなッ。誰だ、続きを言え」
「ふふ、それはですね、橋本さん、違った、橋爪という男ですよ」

ワ~~と、佐々木が懲りもせずまだ声を被せ邪魔を試みたが、それは勇一の鉄拳によって一秒で阻止された。
よって、ハッキリ名前を聞き取ることが出来た。

「橋爪?」
「台湾マフィアの李が差し向けた殺し屋です。腕は相当悪いと思いますけど」
「腕が悪い?」
「良かったら、本当に時枝は地獄でしょう? アレだけ銃弾を浴びているというのに、肝心の心臓は外れている」
「そうなのか、佐々木? 橋爪というヤツが勝貴を半殺しにしたヤツで間違いないんだな?」
「そ、そ、その通ですっ! はい、橋爪という男ですっ! 決して組長ではありません」

佐々木と勇一以外の三人が顔を見合わせる。

―――――ゴリラなだけのことはある。
―――――佐々木さん、自分で直接言いたかったから、黒瀬を止めた? …なわけはないか。
―――――オッサン、それ、そいつだと言ってるぞっ!

三人三様、心の中で佐々木に対し、突っ込みを入れていた。

「アホか。俺を出すな。今、関係ないだろ」

勇一の言葉に、また三人が顔を見合わせた。

―――――兄さん、佐々木と同レベル?
―――――自分は論外だと思っているって所が…少しムカツク。
―――――覚えてないと逃げるつもりかっ! 許せねぇっ。

今度は勇一に対して、三人が声に出さずに突っ込みを入れた。

「あっ、」

佐々木が、自分の吐いた言葉の意味を今更ながらに理解した。

「もちろんですっ。決して組長は関係ありませんっ!」
「ソコを強調して言うなっ! まるで俺が関係しているように聞こえるじゃねぇかっ! そうか、橋爪だな。台湾の李か。桐生の総力を挙げて勝貴の仇をとってやるっ!」
「敵ですか? それも楽しいかもしれませんね~~~」
「他人事のように、言うなっ!」
「やだな、兄さん。他人事でしょ? 潤じゃなくて時枝なんですから。十分に他人事です。そんなことより、時枝の所に戻らなくていいんですか? さっきから兄さんを呼んでますよ?」

耳を澄ませば、医務室から微かな声で「勇一」と、呼んでいるのが聞こえる。

「続きは後だ。待ってろっ、…いや、一緒に来い。四人とも一緒に来い」

死後の世界にいると思い込んでいる時枝に、生存を理解させる為に、勇一は黒瀬、潤、佐々木、大喜を医務室へ入れた。

「…皆さんも、地獄に? 一体、何があったのですか? まさか、俺達の邪魔をするために、無理心中とか?」

ベッドの上の時枝が、それこそ亡霊でも見ているような顔付きだ。

「ふふ、二人の邪魔をするのに、心中する必要ないけど? 第一、地獄が桐生の医務室と同じ造りなんて、閻魔さまの趣味悪すぎると思わない?」
「…社長まで…勇一と同じレベルのことを。死んだことに気付いてないんですね…。私と勇一が死んでいるのだから、その前にいるあなた達も死んでいます」

あのなぁ、と勇一が口を挟もうとしたが、黒瀬がちょっと待って、と制止した。

「ふふ、残念ながら、全員生存中」
「…社長ともあろう方が、…三途の川を渡るときに、記憶をなくしてしまわれたんですね…」
「なんの記憶? 教えて、時枝」
「…それは、…ちょっと、ここでは…」

時枝が、勇一をチラッと見る。

「そうですよ、そんなこと、どうでも良いことですっ!」

横から佐々木がチャチャを入れる。

その男、激情!74

「どうなってるんだっ!」

医務室前には、腕を組んだ大喜が壁にもたれて恐い顔をして立っていた。
その横には佐々木が、困った顔で突っ立っている。

「時枝さん、気がついたんだ」

中の会話は外の二人にも聞こえてたらしい。

「俺の質問に答えろ。誰にやられたんだっ! どうして、勝貴は自分が死んだと思っているんだっ」
「誰に? は? あんたがそれを訊くのか? 時枝さんを蜂の巣みたいに狙撃したヤツのことを、あんたに教えたらいいのか?」
「そうだ。サッサと言え」

勇一が大喜の胸ぐらを掴む。

「教えてやるよっ」
「ダイダイッ!」

横から佐々木が大声で割り込む。

「なんだよ、オッサン、邪魔するな」
「ふふ、そうだよ、佐々木」

佐々木でも大喜でもない、別の声が飛び込んできた。

「武史!」

弟の黒瀬が、その伴侶の潤を伴って勇一達の方へ近付いて来た。

「兄さん、お久しぶりの気がしますが…額の傷はどうしたんですか? 火傷みたいですけど」

勇一は、大喜の胸ぐらを掴んでいた手を、自分の額に移動させた。顔も洗ってないので、今朝はまだ鏡を覗いてなかった。

「ツッ」

手にカサッと何かが触れ、痛みが走った。
盛り上がった瘡蓋(かさぶた)を指でなぞると、円になっている。
円の内部に指を滑らせると、ジュクっとした感触とヒリヒリした痛みが襲った。

「えらく間抜けな顔になっていますよ。どうしたんですか?」
「知るかっ! 酔っぱらって、電球にでもぶつけたんだろ。今はそんなことはどうでもいいっ。勝貴は誰にやられたんだっ!」

今度は黒瀬に詰め寄った。

「大声出さなくても聞こえてますよ。鼓膜が破れたら、どうしてくれるんですか。潤の可愛い喘ぎ声が聞こえくなったら、兄さんでも許しませんよ」

バカァ、と、横にいる潤が頬を染める。
自分の大事な人間が痛々しい姿を晒しているというのに、惚気(のろけ)ているとしか思えない二人に、勇一が怒りを露わにした。

「ふざけるなっ!」
「ふざけていませんよ。俺はいつでも本気ですけど? 時枝のように堅物ではありませんけど、冗談なんて滅多に口にしませんよ。やだな。兄さん、ボケちゃいました?あなたが一番ご存じでしょ?」
「ウルサイッ! その堅物が変な事を口走っているんだぞっ。身体だけじゃなく、脳までイかれてるっ! 誰にやられたか、サッサと言えっ」
「ふふ、兄さんだけが知らないとは…笑えますね。教えてあげましょう。それはですね、」
「ボンッ、やめて下さいっ!」

また、佐々木が邪魔をする。
ご丁寧に今度は黒瀬の口を自分の手で塞いだ。

「オッサン、ヤメロッ、殺されるぞッ!」

大喜が慌てて、佐々木の側に駆け寄った。
が、時既に遅し…

「ヒィッ!」

黒瀬が佐々木の自分の口を塞いだ佐々木の手首を掴むと、捻り上げた。

「ゴリラに可愛がられて、少しはまともになったかと思えば、相変わらずの学習能力のなさプラス低脳さに磨きが掛った?」
「止めてくれよ。それ以上したら、オッサンの手首折れてしまうっ! 潤さん止めて」
「悪いのは、佐々木さんじゃない? 黒瀬の邪魔したんだから。ダイダイだって、さっき言おうとしてたのに、佐々木さんが邪魔したんだよ」

そんな~っと、大喜が泣きそうな顔をする。
黒瀬のことだから、折るのは間違いないと思ったのだろう。