「どうなってるんだっ!」
医務室前には、腕を組んだ大喜が壁にもたれて恐い顔をして立っていた。
その横には佐々木が、困った顔で突っ立っている。
「時枝さん、気がついたんだ」
中の会話は外の二人にも聞こえてたらしい。
「俺の質問に答えろ。誰にやられたんだっ! どうして、勝貴は自分が死んだと思っているんだっ」
「誰に? は? あんたがそれを訊くのか? 時枝さんを蜂の巣みたいに狙撃したヤツのことを、あんたに教えたらいいのか?」
「そうだ。サッサと言え」
勇一が大喜の胸ぐらを掴む。
「教えてやるよっ」
「ダイダイッ!」
横から佐々木が大声で割り込む。
「なんだよ、オッサン、邪魔するな」
「ふふ、そうだよ、佐々木」
佐々木でも大喜でもない、別の声が飛び込んできた。
「武史!」
弟の黒瀬が、その伴侶の潤を伴って勇一達の方へ近付いて来た。
「兄さん、お久しぶりの気がしますが…額の傷はどうしたんですか? 火傷みたいですけど」
勇一は、大喜の胸ぐらを掴んでいた手を、自分の額に移動させた。顔も洗ってないので、今朝はまだ鏡を覗いてなかった。
「ツッ」
手にカサッと何かが触れ、痛みが走った。
盛り上がった瘡蓋(かさぶた)を指でなぞると、円になっている。
円の内部に指を滑らせると、ジュクっとした感触とヒリヒリした痛みが襲った。
「えらく間抜けな顔になっていますよ。どうしたんですか?」
「知るかっ! 酔っぱらって、電球にでもぶつけたんだろ。今はそんなことはどうでもいいっ。勝貴は誰にやられたんだっ!」
今度は黒瀬に詰め寄った。
「大声出さなくても聞こえてますよ。鼓膜が破れたら、どうしてくれるんですか。潤の可愛い喘ぎ声が聞こえくなったら、兄さんでも許しませんよ」
バカァ、と、横にいる潤が頬を染める。
自分の大事な人間が痛々しい姿を晒しているというのに、惚気(のろけ)ているとしか思えない二人に、勇一が怒りを露わにした。
「ふざけるなっ!」
「ふざけていませんよ。俺はいつでも本気ですけど? 時枝のように堅物ではありませんけど、冗談なんて滅多に口にしませんよ。やだな。兄さん、ボケちゃいました?あなたが一番ご存じでしょ?」
「ウルサイッ! その堅物が変な事を口走っているんだぞっ。身体だけじゃなく、脳までイかれてるっ! 誰にやられたか、サッサと言えっ」
「ふふ、兄さんだけが知らないとは…笑えますね。教えてあげましょう。それはですね、」
「ボンッ、やめて下さいっ!」
また、佐々木が邪魔をする。
ご丁寧に今度は黒瀬の口を自分の手で塞いだ。
「オッサン、ヤメロッ、殺されるぞッ!」
大喜が慌てて、佐々木の側に駆け寄った。
が、時既に遅し…
「ヒィッ!」
黒瀬が佐々木の自分の口を塞いだ佐々木の手首を掴むと、捻り上げた。
「ゴリラに可愛がられて、少しはまともになったかと思えば、相変わらずの学習能力のなさプラス低脳さに磨きが掛った?」
「止めてくれよ。それ以上したら、オッサンの手首折れてしまうっ! 潤さん止めて」
「悪いのは、佐々木さんじゃない? 黒瀬の邪魔したんだから。ダイダイだって、さっき言おうとしてたのに、佐々木さんが邪魔したんだよ」
そんな~っと、大喜が泣きそうな顔をする。
黒瀬のことだから、折るのは間違いないと思ったのだろう。