その男、激情!75

「貸せ」

名前一つ聞き出すのに、さっきから進まないことに勇一が痺れを切らした。
黒瀬の手から佐々木の手首をもぎ取った。

「佐々木、邪魔するなッ。誰だ、続きを言え」
「ふふ、それはですね、橋本さん、違った、橋爪という男ですよ」

ワ~~と、佐々木が懲りもせずまだ声を被せ邪魔を試みたが、それは勇一の鉄拳によって一秒で阻止された。
よって、ハッキリ名前を聞き取ることが出来た。

「橋爪?」
「台湾マフィアの李が差し向けた殺し屋です。腕は相当悪いと思いますけど」
「腕が悪い?」
「良かったら、本当に時枝は地獄でしょう? アレだけ銃弾を浴びているというのに、肝心の心臓は外れている」
「そうなのか、佐々木? 橋爪というヤツが勝貴を半殺しにしたヤツで間違いないんだな?」
「そ、そ、その通ですっ! はい、橋爪という男ですっ! 決して組長ではありません」

佐々木と勇一以外の三人が顔を見合わせる。

―――――ゴリラなだけのことはある。
―――――佐々木さん、自分で直接言いたかったから、黒瀬を止めた? …なわけはないか。
―――――オッサン、それ、そいつだと言ってるぞっ!

三人三様、心の中で佐々木に対し、突っ込みを入れていた。

「アホか。俺を出すな。今、関係ないだろ」

勇一の言葉に、また三人が顔を見合わせた。

―――――兄さん、佐々木と同レベル?
―――――自分は論外だと思っているって所が…少しムカツク。
―――――覚えてないと逃げるつもりかっ! 許せねぇっ。

今度は勇一に対して、三人が声に出さずに突っ込みを入れた。

「あっ、」

佐々木が、自分の吐いた言葉の意味を今更ながらに理解した。

「もちろんですっ。決して組長は関係ありませんっ!」
「ソコを強調して言うなっ! まるで俺が関係しているように聞こえるじゃねぇかっ! そうか、橋爪だな。台湾の李か。桐生の総力を挙げて勝貴の仇をとってやるっ!」
「敵ですか? それも楽しいかもしれませんね~~~」
「他人事のように、言うなっ!」
「やだな、兄さん。他人事でしょ? 潤じゃなくて時枝なんですから。十分に他人事です。そんなことより、時枝の所に戻らなくていいんですか? さっきから兄さんを呼んでますよ?」

耳を澄ませば、医務室から微かな声で「勇一」と、呼んでいるのが聞こえる。

「続きは後だ。待ってろっ、…いや、一緒に来い。四人とも一緒に来い」

死後の世界にいると思い込んでいる時枝に、生存を理解させる為に、勇一は黒瀬、潤、佐々木、大喜を医務室へ入れた。

「…皆さんも、地獄に? 一体、何があったのですか? まさか、俺達の邪魔をするために、無理心中とか?」

ベッドの上の時枝が、それこそ亡霊でも見ているような顔付きだ。

「ふふ、二人の邪魔をするのに、心中する必要ないけど? 第一、地獄が桐生の医務室と同じ造りなんて、閻魔さまの趣味悪すぎると思わない?」
「…社長まで…勇一と同じレベルのことを。死んだことに気付いてないんですね…。私と勇一が死んでいるのだから、その前にいるあなた達も死んでいます」

あのなぁ、と勇一が口を挟もうとしたが、黒瀬がちょっと待って、と制止した。

「ふふ、残念ながら、全員生存中」
「…社長ともあろう方が、…三途の川を渡るときに、記憶をなくしてしまわれたんですね…」
「なんの記憶? 教えて、時枝」
「…それは、…ちょっと、ここでは…」

時枝が、勇一をチラッと見る。

「そうですよ、そんなこと、どうでも良いことですっ!」

横から佐々木がチャチャを入れる。