秘書の嫁入り 夢(8)

「…う」
「―時枝さん? …黒瀬、」
「どうした、潤?」
「時枝さんの、少し大きくなってる」
「ふふ、やっぱりね。時枝、ユウイチに感じちゃった?」

時枝の精神に感じる余裕はなかったが、身体は反応を示した。
ユウイチに感じたというよりは、与えれる恐怖と、掘り起こされた犬からの感覚、それと潤の手による緩急差が激しい刺激に、時枝の一部は反応してしまったのだ。

「…ぁあ、…や…」
「いいじゃない、感じちゃえば。情けない兄さんより、こっちのユウイチの方がいい働きするんだから」
「ユウイチ、凄いね。時枝さんのこと大好きみたい。餌も満足に与えて貰えなかったのに…」
「犬と交わっても問題ないよ。子犬のユウイチじゃあ、入口舐めるぐらいが限度だけどね。ふふ、それでも、快感は与えてあげられるよねぇ、ユウイチ」

ユウイチの舌が時枝の中に入れるよう、黒瀬が時枝の窄みを指で左右に広げた。

「お舐め」

ユウイチの舌先が、時枝の体内に入った。

「ヒィイイイッ、…ゆ、るして…」

時枝に言葉が戻ってきた。

「時枝のくせに、可愛い懇願するんだ」

ユウイチが時枝の孔に舌を出したり入れたりして遊び始めた。
ひくつき孔が面白いらしく、黒瀬が手をユウイチから離しても、尻尾を振りながら時枝の孔から離れようとしない。

「潤、生のオモチャだと思って、時枝のモノで、少し遊んでやって。捏ねたりしていいから」
「いいけど、後で、絶対浮気したって、言うなよ」
「ふふ、言いたくなるかも。じゃあ、私の目を見て、私のだと思って触って。私にしているのと、同じだから」
「…そんなこと、したら…、俺が…」
「感じる?」
「いいよ。可哀想な時枝の為に、時枝の身体経由で、私を感じて」
「…うん、じゃあ、黒瀬のだと、思って触るから…」

黒瀬が何をしようとしているのか、何がしたいのか、潤には分かっていた。
黒瀬の言葉通り、潤は時枝の中心をゆっくりと扱き始めた。

「いい年して、全くこの秘書は、…恐怖と罪悪感の区別も付かないんだから、ふふふ、他人と犬に遊ばれた罪悪感が恐怖心を煽っているってこと、いい加減、気付けばいいものをね、ユウイチ。自分が犬たちと遊んでやったぐらいに思えないものかね」

はい、子どもの時間は終わりです、と黒瀬が時枝からユウイチを離し、ベッドの下に置いた。
ユウイチは突然離されたことが不満らしく、キャンキャン吠えたが、黒瀬にメッと睨まれると、ク~ンとその場に耳を垂れて座り込んでしまった。
動物の本能で、黒瀬には逆らってはいけないと分かるらしい。
ユウイチが自分の尻からいなくなり、やっと解放されるのかと時枝に安堵が走ったが、甘かった。
ユウイチの存在から与えられていた恐怖と刺激が去ると、神経が潤から与えれる甘い刺激を敏感に時枝に伝える。

「…ぁあっ、…潤さま…、駄目ですッ…」
「イイって、潤。潤は上手だからね。時枝直ぐにイクんじゃない?」
「バカ…恥ずかしいだろ。…黒瀬、俺、分かってるから…いいよ…。遠慮しなくて…」
「さすが、私の潤は、私を一番理解してくれる。愛してるよ」

間にいる時枝の頭が、二人より沈んだ位置にある。
その頭の上で、黒瀬と潤が見つめ合い、唇を重ねた。
もちろん、その間も潤の手は時枝を責めることを忘れてはいない。

「ふふ、潤の口付けで、私も準備OKだ。これは、時枝と兄さんへの貸しだからね。後で返してもらうよ」

黒瀬がグッと腰を時枝の腰に押し当てた。

「どう、時枝? 私のが当たってるだろ? 兄さんよりは大きいはずだから、裂けたらごめんね」

最初から最後はソコまでするつもりだったのか、黒瀬はゴムまで用意していたらしい。
潤との口付けで興奮させた雄芯に素早く装着させると、腰の位置を下方にずらした。

「…社長…、嘘でしょ…ご冗談を…そんな…」

黒瀬の先端が、さっきまでユウイチが舐めていた場所を捉える。

「黒瀬が冗談で俺以外を抱くと思ってるの? 黒瀬…俺…、ますます惚れてしまいそう」
「私もだよ。君への愛がなかったら、時枝なんてどうでもいいのだから…潤…、時枝経由で私を感じて」

黒瀬の先端が時枝の中にめり込んだ。

「ァああうっ」
「兄さんと違う味もいいだろ?」
「…武史っ、…本気で俺を……」

時枝が地に戻っていた。もう、取繕うことも無理のようだ。

「犯(や)るよ? 犬たちよりも俺の方が残酷かもしれないから、覚悟しててね。大丈夫、ちゃんと感じさせてあげるから」

グググと、黒瀬が時枝の中にねじ込んだ。

Posted in

秘書の嫁入り 夢(7)

「ひっ、」

驚き布団を剥ぐと、そこに存在していたのは……ク~ンと小さく鳴くまん丸お目々でモコモコの小動物……ユウイチだった。

「ん、ギャァアッ!」

叫ぶなり、時枝は身体を翻し、背後にいた潤にしがみついた。

「退けて下さいっ! ソレ、早くッ!」

潤の胸に顔を埋め、震えながら、後ろ手で時枝がユウイチを指す。

「時枝? 潤に何しているの。私の目の前でいい度胸しているよね」
「そんなことより、早く、ソレ、」
「ユウイチは、時枝と一緒に寝られて、喜んでるよ。ユウイチはもう、時枝とお友達だものね、ユウイチ」

ヒョイと黒瀬がユウイチを抱えると、潤にしがみついている時枝の背中にユウイチを沿わせた。
時枝の尿の匂いも味も知っているユウイチは、既に時枝の体臭にも慣れきっていて、ペロペロと時枝の浮き上がった背骨を舐めた。

「うっ」

ザラッとしたユウイチの舌に、悪寒が走り、時枝の皮膚が粟立つ。

「感じてるの、時枝? ユウイチ、もっと舐めておやり」

襲われた時と同じ感覚に、顔を舐められたとき同様、恐怖で自分を見失いそうになる。

「…社長…っ、…お願いですから…」

時枝の懇願など、無論黒瀬は聞くつもりはない。

「潤、時枝が意識飛ばさないように、ギュッと握ってやって」
「いいけど…後で浮気とか言うなよ?」
「ふふ、言わない。言うつもりなら、今ここに三人で寝てないよ。その代り、後で手は消毒してあげるから」
「…消毒って、洗うだけでいいよ。どっち握るの?」

竿か珠かと潤は訊いている。

「両方かな。ふふ、潰さない程度にね」

黒瀬のモノ以外、触ることに抵抗はあるのだが、潤は以前時枝に薬物で疼く身体を助けてもらった恩がある。

「時枝さん、ごめんね」

ユウイチの舌による攻撃で、失神寸前の時枝の股間に潤の手が伸び、珠と竿の付け根を両の手を使いギュッと握りしめた。

「ん、ぐっ!」

ことの外、潤の力が強かった。
痛みが走り、飛びそうになっていた時枝の意識が留まった。
時枝はユウイチの舌からも潤の手からも逃げられず、痛みと恐怖の狭間にいた。
その場から自ら逃げることも出来ず、時枝は額から冷たい汗を流し、震えるばかりだ。
もはや、懇願の言葉も出ない。

「恐いだけじゃないだろ。時枝、犬たちから蹂躙されて、何度も果ててたじゃないか」

DVDに映っていた時枝の真実。
けしかけられた犬に嬲られて、怯え失禁しながらも、時枝は何度も白濁のものをまき散らしていた。
時枝にしてみれば、自分の身体がどんな状態だったのか、どんな反応を示していたのかという細かい事など、覚えていなかった。
数人の外国人に輪姦され、オモチャで弄ばれ、犬と交わり、まさに便所扱いの地獄の数日だった。

「身体は忘れてないと思うけど? 恐怖が忘れられないのと同時にね」

忘れてしまいたい、快感も痛みもあるのだ。
それを幼い頃に父親によって与えられていた黒瀬は、容赦がない。
忘れようとするな、思い出せと言わんばかりに、ユウイチを嗾ける。
そう、この男は、潤を助けるときにも「中途半端は駄目だ」と、心に傷を負った潤をこれ以上ないというぐらい痛め付けた。
ユウイチを時枝の背筋に沿って尻の溝まで移動させた。 
ユウイチの舌が、時枝の尻の溝に入り込むのを見届けると、一旦ユウイチから手を離し、更に奥まで舌が届くよう時枝の尻を左右に割った。

「潤、手を緩めて」

黒瀬の命で潤の手から力が抜けると、止っていた血流が一気に時枝の雄芯を駆け抜けた。
痛みと恐怖でこちこちに固まっていた時枝の身体が、一瞬緩んだ。
その隙にユウイチの舌が時枝の窄みへ届いた。

「ぁあっ、」
「ほら、ユウイチ、好きなだけ舐めなさい」

ユウイチのざらつく舌が時枝の襞を舐め始めた。

「ヤ、…ヤ、」

時枝が目を見開き、目の前の潤に助けてくれと訴えた。

「潤、また握って」
「ごめんなさい、時枝さん」

現実から逃げられないように、また時枝の前が潤の手によって拘束された。

Posted in

秘書の嫁入り 夢(6)

「いやあ、楽しかったな、佐々木」

バンと、勇一が佐々木の背中を叩く。

「・・・」
「ぅたく、空気の読めないヤツだ」
「・・・・・・」

ズル、ズルと小さな音が聞こえるだけで、佐々木は顔もあげず、勇一の横を歩いている。
夜風に(といっても、もう時間的にはいつも勇一が起きる五時に近いが)当たって帰ろうと勇一が言いだし、少々風の冷たい秋の夜道を歩いていた。
そう、ソープ帰りの二人だった。
勇一が久しぶりに組に顔を出し、組長としての仕事をこなしたまでは良かった。
佐々木は正直ホッとした。
自分が黒瀬に組長代理を頼んだものの、自分を含め組員の過酷で緊張を強いられる日々に、後悔がないといったら嘘になる。
しかし、黒瀬しかいなかったのだから仕方なかった。
時枝が出ていき、落ち込んでいるであろう勇一が仕事に精を出す姿をみれば、勇一の誘いを佐々木が断れるはずがない。
溜っているうっぷんもあるだろう。
きっと今夜は明け方まで飲み明かすのだろうと、勇一の誘いを簡単に受け(もっとも、断れる立場ではないが)自宅で待つ大喜に今日はいつ帰れるかわからないと電話を入れた。
それがこんなことになろうとは…と勇一の隣を歩く佐々木の顔はグチャグチャに濡れていた。
涙と鼻水で。

「男たるもの、たまには外で遊ばないとな。浮気の心配をさせるぐらいじゃないと、飽きられるぞ、佐々木」

また、バシッと勇一の手が佐々木の背中を叩く。

「お前の真珠に、ルミだってよがってたじゃないか。俺も入れてみようかな」

そう、佐々木の真珠入りのソコは、プロの口と手により、見事に雄々しく立ち上がり、上から腰を沈めたルミの体内に収まったのだ。
もっとも、ルミと佐々木が結合したのはその一回だけで、ルミに絞り取られた後は、佐々木はベッドから逃げ、床で泣きじゃくっていた。
その間、勇一はルミと何かを吹っ切るように、いや、何かと戦っているかのように、ルミとの激しく淫ら行為に耽っていた。

「…こんな激しい組長さん…ルミ初めて…凄い…」

彼女が本気で勇一に凄いと口にしたのは、初めてかもしれない。
彼女の言葉のほとんどは客を喜ばす為のリップサービスなのだ。

「ほら、帰るぞ。可愛いガキが待ってるんだろ?」
「帰れません…アッシは…あっちの塒(ねぐら)に籠もります…」
「馬鹿言え。お前を帰さなかったら、あの煩いガキに朝からギャーギャー言われるの、俺だろうが。サッサ、歩け」
「……そんな……組長~~~」

佐々木には、勇一がどうしてソープに行ったのか理解出来なかったし、自分が巻き込まれた理由も分からなかった。
勇一のこの理解しがたい行動の意味を後々知ることになるが、それは当面先のことで、とにかく佐々木は大喜を裏切ってしまったと自分を責め、溢れる涙と鼻水でグチャグチャの状態だった。

 

 

腹に温かいモコモコした湯たんぽのような物を感じ、時枝がゆっくり瞼を開いた。

「…うそっ、」

自分の視界が信じられず、寝ぼけているか、まだ夢の中に違いないと再び目を閉じ、心の中で十を数えた。
そして、再度瞼を開く。

「―――そんなバカな」

あり得ないと、パチパチと瞬きをしてみる。

すると、目の前の信じがたい光景の一部が動いた。

「朝からブツブツ煩いよ。潤が起きるだろ、シッ」

ウエーブがかったロン毛を気怠そうに振りながら、黒瀬が頭を枕から上げ、肘を付き手で顎を支えた。
布団から出ている黒瀬の上半身は裸である。

「…一体、どういう事ですかっ! あなた、まさか…、いや、幾ら何でも…」
「一緒に寝た。ふふ、まさか、こんな朝を時枝と迎える日が来るとはね~」
「えっ、…嘘でしょっ! 私とあなたがっ? そんなわけ…あるはずないっ!」
「どんなわけだったら、あるの、時枝?」
「だって、あなたには、潤さまがっ!」

慌てふためく時枝の背中からウ~~~ンと声がする。

「…煩いなぁ~、俺がどうしたの…」

まさか、と時枝が後ろを振り向く。
目を擦って欠伸をしている潤がいた。
潤も衣類を着けている様子はない。

「あっ、あなた達っ、何をっ!」
「なにをって、そりゃ、この状況みたら、分かるだろ? 時枝、大人なんだから。私も潤も裸で、時枝も何も着てないってことは、答えは一つじゃない?」

時枝の脳裏に浮かんだ答えは一つだが、それを認めるわけにはいかない。

「そんなはず、あるわけないでしょっ!」

時枝の大声を出す。
すると、その声に反応したのか、時枝が腹に感じていたモコモコが急に動き出した。

Posted in

秘書の嫁入り 夢(5)

「あ~~~、黒瀬っ、俺、もう、腹が痛いよ~」
「ふふ、頑張っている姿が、これ程面白い男も珍しいね~」
「ねえ、助けてあげなくていいの? あれじゃあ、ユウイチ、ゲージ壊しちゃうよ」
「壊れるように、細工してあるから。じゃあないと、ユウイチ、空腹で死んじゃうからね」
「壊すこと、前提なんだ。そうだよね…菜箸じゃ上手くいったところで、満足な量食べるのに、一日掛かりそうだし。時枝さんより、ユウイチの方が気の毒になってきた」

黒瀬の手により、ゲージのネジは少し強い力が加わると外れるように、緩められていた。
ユウイチが数回体当たりをすると、ゲ―ジが開くように四方に崩れた。
途端、ユウイチが飛び出た。
ピョーンと放物線を描いて、餌の入った皿に飛び付くと、一心不乱に食べ始めた。

「…なんて…こと…あぁ…」

檻から出た獣と一緒の空間。
ガリガリと音を立て餌をかみ砕く姿は、小さいながらに「犬」だった。
自分を欲して飛びかかってきた犬と何ら変わりはないように、時枝には思えた。
既に腰が抜けた状態の時枝。
立てずに、膝行(いざ)って後ずさる。
あっという間にユウイチの皿は空になったが、ユウイチの空腹は満たされなかった。
お預けの時間も長く、中途半端な食事で、ユウイチの機嫌は悪かった。
見ると、自分を苛めた人間が側にいる。
満たされない空腹を埋めるのは、その意地の悪い人間から餌をもらうしかないと、ユウイチは悟った。

「うぅ~~~~っ」

可愛く強請るという子犬らしい行動は、既にユウイチの中から消えていた。
何がなんでも、そいつから餌を奪ってやると、床を這う時枝に向って先程同様の威嚇を始めた。

「な、何ですかっ! …食べたんでしょっ!…アッチ、行きなさいっ! もう、用はないはず……ヒィッ!」

おどおどしている人間は、所詮動物からしたら、自分より下なのだ。
ユウイチは自分の方が優位だと本能で悟ったのか、時枝がシッ、シッと手で払おうとしても、逃げるどころか時枝を追い詰めていった。
時枝とユウイチの距離がもう一メートルもない。

「ひィイッ! 来るなっ!」

時枝が大声を出した。
それが余計にユウイチを刺激したのか、ユウイチが時枝に向って飛びかかった。

「ギャアアァ―――ッ!」

さすがに時枝も我慢の限界だった。
ユウイチから襲われ、時枝は見事に『あの場で、犬たちに嬲られていた自分』に戻ってしまった。

「…止めてッ…あぁああっ!」

ユウイチは時枝の怯えを面白がり、時枝の顔を時枝の胸に乗ったまま、ペロペロ舐め始めた。
時枝は、ユウイチの舌のザラッとした感触で、自分が今いる場所がどこかも分からなくなっていた。

「黒瀬、ヤバイよ。時枝さん、白目剥いてる」
「しょうがないね。手の掛かる秘書だ」

黒瀬と潤が時枝の所に駆けつけた時、時枝は白目を剥き、口から泡を噴き、しかも失禁していた。
そして、その時枝の濡れた股間部分をユウイチが布の上から舐めていた。

Posted in

秘書の嫁入り 夢(4)

勇一が佐々木を天国へ誘って、いや、地獄に落としてルミと身体を使った大人の遊びに、半ば自棄クソで興じている頃、とある一室では、時枝が「ユウイチ」と格闘していた。

「…ひぃっ、…啼かないで…くださいっ!」

ゲージの中のユウイチがキャンキャンと吠えている。

「…ええ…、お腹が空いているのでしょ? …今、なんとか、しますから……」

ユウイチに罪もないし、時枝を脅したくて啼いているわけでもないのは、時枝だって重々承知だ。
小動物相手に身の危険を感じる方がおかしいのだ。
だが、動物が牙を剥き、本能そのままに嬲(なぶ)られた記憶もおぞましい感覚も、簡単に拭いきれる類の物ではなかった。 
震えだけで済んでいるから、これでも少しはマシな方だ。
一生消えないトラウマだろう。
しかし、黒瀬だって潤だって、トラウマを抱え生きている。
勇一だって、自分のせいで心に負った傷は深いはずだ。 
消えないトラウマを無理に消そうとしても無駄だ。
抱え、生きていける強さを身に付けるしかないのだ。
何かあるかもしれない、と時枝がキッチンへ向う。
潤が用意してくれていたのか、ドッグフードの袋が置いてあった。
皿に少し取ると、ユウイチの元に戻る。
問題はどうやって、これをユウイチに与えるかだ。
ゲージの蓋を開けて皿を中に入れてやればいいだけのことなのだが、ゲージの中に手を入れる勇気がない。
もし、開けた瞬間に、飛びかかられでもしたら、それこそ泡を噴いてしまいそうだ。
匂いがするのか、見て餌だと分かるのか、ユウイチの鳴き声が一層激しくなる。
ゲージの前に皿を置く。
知恵を絞って食べてくれ、と時枝が祈るが……そんなこと出来るわけがない。
ユウイチは可哀想に、目の前に餌があるというのに、お預けをくらった状態だ。
ユウイチが狂ったようにゲージの中でクルクルと回っては吠え、回っては吠え、時枝を責めるように睨み付けていた。
そうだ、と時枝がまたキッチンへ行く。
菜箸を手に戻って来た。
長い菜箸でドッグフードを摘み、ユウイチの口元へ持っていく作戦に出た。
一粒摘み、ゲージの隙間からユウイチの口へ腕だけ伸ばし、運ぶ。
最初の三回はゲージに届く前に下に落ちた。
次の五回はゲージの中に菜箸が入った瞬間にユウイチの待てないという吠えに時枝の手が震え、落としてしまった。
そして、やっとユウイチの口元に届いた時、喜び過ぎたユウイチが口を開けた瞬間、ユウイチの息で落ちた。
時枝も汗だくで取り組んだが、ユウイチはもう我慢の限界だった。
見せられただけではなく、目の前まで届いているのに食べられない。
ゲージの中で落ちた粒は、ゲージの隙間に嵌り、前足で掻き出そうとしても取れず、ユウイチのフラストレーションは限界値に達していた。

「ウゥ~~~~! グ~~~ッ!」

子犬らしからぬ唸り声を上げ、時枝を威嚇(いかく)し始めた。 
小さな牙も見せ、早く餌を寄越せと、時枝を脅し始めた。 
もはや、時枝を、自分を苛める敵だとユウイチは思っているらしい。
とはいえ、普通の人間からみたら、子犬の威嚇なんぞ可愛いものだ。

「…落ちついて…、下さいっ、…ユウイチ…良い子は…吠えない…し、人間を泣かせたりしないんです……」

しかし今の時枝が可愛いと感じるわけもなく、冷や汗を垂らし、なんとか威嚇をやめさせようと子犬相手に説得を始めた。
そんなもの、子犬が理解するはずもない。

「ウッ、キャンッ、グ~~~~~~~ッ、ウゥ~~~ッ、」

ユウイチだって必死なのだ。
威嚇だけでは餌が貰えないと判断したのか、今度は狭いゲージ内で暴れだし、ゲージに体当たりを始めた。

「…ユウイチッ、…怪我しますよっ…、あぁあ、ゲージが壊れてしまう……ユウイチッ、落ち着いてっ、話せば分かる! あなた、賢いんでしょっ! …吠えないでっ、…ゆっくり、話し合いましょッ!」

本人は必死なのである。
別に笑いを取ろうとしているのではない。
だが三十四にもなろう男が、子犬相手に「話せばわかる」と説き伏せている姿は、悲しいぐらい滑稽だった。
この様子を盗み聞き、いや、盗み見している二人がいた。 
時枝を迎えにいく前に黒瀬が小型カメラを部屋の死角に取り付けていたのだ。
一応名目は、精神的に不安定な時枝の様子が心配だから、ということだったが……

Posted in

秘書の嫁入り 夢(3)

「組長さん、いいの? 佐々木さん放心状態だったよ~」
「興ざめするぐらい、ギャ~ギャ~騒ぐからだ。浮気浮気って、煩いヤローだ」
「とか、なんとか言って、実は組長さんが一番浮気って言葉に敏感なんじゃないのぉ。最近、すっかりご無沙汰だったくせに。エイッ」

ルミの泡だらけの指が、勇一の乳首を捻りあげた。

「こら、悪戯するな。ふん、浮気上等じゃねぇかよっ。浮気で泣かせるぐらいじゃねえと、男としてどうかと思ってな」

チラリ、勇一の本音が漏れる。

「そんなこと言って、後で時枝さんに叱られてもし~らないっ。あたし、時枝さんも好きだから、たまにはココに来るように言ってよ。自分だけが浮気ってフェアじゃないよ、組長さん。時枝さんのテクもあたし好きなんだから~~~」
「なんだよルミ。今から可愛がってうやろうという男を目の前に、他の男のテク話か? オイ、覚えてろよ。今日は、啼かせてやるからな」

ルミの手が勇一の股間に伸びる。

「うわっ、組長さんが本気だしてくれるんだ~。楽しみ~。でも、啼かされるのは、組長さんかもよ~」

ギュッと、ルミの手が勇一の竿を握りしめた。

「っ、悪戯するなっ。イテェだろう」
「ふふ、大丈夫だよ。珠じゃないんだから。ちょっとだけお仕置き。佐々木さん、可哀想だったから~。組長さんも色々アチコチで、罪作りだよね~~~。今日は、あたし相手に目一杯懺悔して帰ってね」
「何だよ、それ。まったく、桐生の俺様相手にそんなことほざく風俗嬢はお前ぐらいだ」
「今後もご贔屓にね。洗い終わったけど、どうする? ココで一戦?」

ルミが、自身の豊満な胸に泡をつけ、勇一の背中に擦りつけながら勇一に抱きつき、耳元で囁いた。

「そうだな…」

勇一がルミの手首を掴むと、桶に湯を汲み、バシャッと背後のルミにかけた。

「うわっ、」
「握ってくれた仕返しだ。ベッドに行くぞ」

ルミの手を持ったまま、前を隠すこともなくベッドへ向う。
途中、床にへたり込んでいる佐々木を拾いあげだ。

「そうら、二人揃ってダイブだ」

ベッドに着くなり、勇一がルミと佐々木の背中を押し、ベッドの上に倒す。

「あぁん、組長さんっ、乱暴!」

ルミはふくれ、

「え? え、え、え、え―――っ!?」

現実に戻った佐々木が、素っ頓狂な声を上げた。
勇一の手が、あっという間に佐々木から下衣を剥いだ。

「ルミ、佐々木の真珠、しゃぶってやれよ」
「佐々木さん、ごめんね。許してね」

佐々木が逃げるより、ルミが佐々木の一物をパクッと口にする方が早かった。
佐々木にとって、今そこはただ一人の人間のために存在している大事な場所だった。
一人の人間を悦ばし、睦み合う為の、心と躰を結び付ける器官だった。
ルミが嫌いだとか、風俗嬢を見下しているわけではないが、そこに触れていいのは、ただ一人なのだ。
佐々木はルミの口から逃れようと、咥えられたものを引き抜こうとする。
が、手を添えられているし、ルミの顔を押し退けることは、ルミの顔を傷付けそうでできない。
結果、ズルズルと後退るだけになるのだが、ルミも一緒に付いてくるので、意味がなかった。

「佐々木、いい加減にしろ。楽しめや。真珠が泣くぞ」

真珠よりも何よりも、佐々木が泣きそうだった。
後退る方向を間違えたのだ。
ベッドヘッドに向って下がった為、背中にボードの彫刻が当たっていた。
VIPルームのベッドは、彫刻が施された薄いピンクのロココ調なのだ。
グリグリと佐々木の背中に、彫刻が擦れる。
上衣は着けたままなので、痛くはないが、逃げられない。

「いいぞ、ルミ。そのまま咥えてろ」

佐々木を咥えたルミを、勇一がバッグから突き上げた。

「ぁあ~、組長さんったら、いきなり~~~」
「こら、佐々木のから、離すな」

こうして佐々木を巻き込んで、勇一の『お遊び』の長い一夜が始まった。

Posted in

秘書の嫁入り 夢(2)

「…組長…、まさか…」
「ツベコベ言わず、ついてこい」
「…アッシは…その、事務所で待ってますから」
「お前も一緒に遊ぶんだ」
「…一緒にって…、別々でもいいじゃありませんか。アッシは別のコにしますんで…」
「とかいって、お前のことだ。廊下で俺が終わるのを待ってるだけだろうが。大丈夫、支配人には連絡済みだ。指名はルミにしておいたから、二人一緒でも問題ない」
「……組長…、落ち込んでいるからって、浮気はいけません。浮気は……」

付き合えと言うので、気分転換に一杯やるのかと思えば、勇一が向った先は意外な店だった。
桐生経営の「ソープ・不夜城」だ。
質の良い女の子が揃っており、時枝と深い関係になる前は、時枝を誘って足を運んでいたという、ソープランドだ。 
中でもルミは不夜城でナンバーワンの指名率を誇るソープ嬢で、勇一の馴染みだ。

「風俗で遊ぶのが浮気になるのか? 最近の奥様方でも、そんな堅いこというのは少ないぞ」
「多い少ないの問題じゃないでしょっ! 時枝さんというお方が有りながら、他の人間と情交を交わすというのは、浮気ですっ!」

佐々木が止めるのも聞かず、VIPルームへと勇一の足は一直線だ。

「なら、浮気でいいや。うるせ~な。本命がいるから、浮気って言うんだろう。本気じゃないなら、問題ない。とにかく、付き合えっ!」
「無理ですっ! アッシに浮気は出来ませんっ!」

佐々木が勇一の腕を掴み、勇一の歩みを阻止しようとするが、逆に手首を掴まれ、腕をねじ上げられた。

「テメェのガキに、操を立てるのは立派だが、組の代表に逆らうってことは、それ相応の覚悟が出来てるんだろうな、佐々木?」

勇一の凄みを、久しぶりに佐々木は見た。

「…逆ギレ?」
「何か、言ったか? あ?」
「…くっ、いえっ…、何も…」

更に捻られ、四十過ぎの男の顔が苦痛に歪む。

「真珠を嵌め込んだ男が、女々しいこと言ってるんじゃねえ~。お前の真珠は、一穴主義か?」

当たり前じゃないですかっ! と、声に出さず、佐々木は反論した。

「一穴が大事なら、大事なソコを満足させるよう、人知れず学習っていうのも、男には大事なんじゃねえのか?」

浮気の口実を無理矢理与えてるだけでしょう、組長っ!
ハイとは言わない佐々木に、勇一が、目で「否定することは許さん」と脅しをかける。

「組長さ~~ん、なに大騒ぎしてるの? 早く入んなよ~。佐々木さん、久しぶり~~~。やっとあたしと遊ぶ気になったの? 嬉しいっ!」

薄いピンクのバスローブに身を包んだルミが、VIPルームから顔を出した。
佐々木を確認にすると、ぴょんぴょんとウサギのように跳ねてきて、勇一に手首を取られ身動きができない佐々木に飛びついた。

「良い男が、そんな顔してたら台無し」

苦痛に歪む佐々木の顔を両手で挟むと、チュッと佐々木の唇にキスをした。

「おい、ルミ、順番が違うんじゃねえのか? 俺より、佐々木が先か?」
「いじめっ子は、後回し! さあ、中へ入ろうよ」

ルミが佐々木の手首から、勇一の手を剥がす。
キスをされ呆然と立ち竦む佐々木をルミが引っ張り、勇一より先に部屋へ連れ込む。

「組長さんも、早く~」

勇一も部屋へ入ると、佐々木がペタンと床に座り込み、ブツブツと何かを呟いていた。

「佐々木、うるせ~ぞ。さっさと脱げっ!」
「…そんなこと言っても…組長っ、俺は…アア…どうしよう…浮気しちまった…」
「キスの一つや二つ、お前だって経験済みだろうが。気になるなら、気にならないようにしてやる」

何を考えたのか、いや、何も考えてなかったのか、それとも、少しおかしくなったのか、勇一が座り込んでいる佐々木の前に腰を降ろすと、佐々木の顎を掴み、自分の唇を佐々木の唇に重ねた。

「ん!!!!」
「いやぁん、組長さ~~ん」

これには、佐々木だけじゃなく、ルミまで驚き目を見開いた。

「これで問題解決だ」

一人勇一だけが納得し、さあ、一戦交えるぞと、ルミの手を引きガラス張りの浴室へ向う。

「お前もさっさと準備しろ」

佐々木に、一言だけ残して。
もう、佐々木の心は、この場を離れていた。

「…ブンブンブン…蜂が飛ぶ…」

所謂(いわゆる)現実逃避というやつだ。
そんな佐々木のことなどお構いなしに、勇一は素っ裸になると、ルミに身体を洗わせていた。

Posted in

秘書の嫁入り 夢(1)

「お帰りなさいっ!」
「うわっ、組長だっ! お早うございますっ!」
「組長ぅうううっ、俺ら、組長がぁあああああ!」

桐生の五代目を襲名してから、組員に取り囲まれ、涙されたことがあっただろうか?

 

時枝に去られ、勇一は、心にぽっかりと穴が空いたような状態で、事務所に顔を出した。
本宅から一緒だった佐々木が「きっと皆、大喜びですよ」と言っていたが、実際はそのレベルを越えていた。
久しぶりの事務所。
自分の落ち込みなど下の者に見せる訳にもいかないと、大きく深呼吸をしてからドアを開けた。

「…」

勇一の顔に一斉に視線が集まった。
そして、

「組長ぉぉおおおおおっ!」

一同に叫ばれ、思わずドアを閉めてしまった。
車を駐車場に回した佐々木が上がってくると、入りましょう、と勇一を中へ通した。
入った途端、佐々木を押し退け、勇一の周りに若手の組員一同が取り囲み、熱烈歓迎を受けたのだ。
何が凄いかといえば、皆、涙している。
そこまで復帰を喜ばれるとは思わなかった勇一は、呆気にとられ、皆に言葉を掛けてやることも忘れていた。

「こらっ、てめぇら、組長が困ってらっしゃるのが、わからねぇのか? 組長が好きなら、困らせるんじゃねえ」
「…若頭、だって、俺たちゃ、心の底から嬉しいんですっ!よ~く、分かりましたっ! 組長の厳しさが愛だってこと…それに比べ…」
「佐々木、俺の不在中、何かあったのか?」

やっと勇一が口を開いた。
明らかにこの度を超えた歓迎ぶりは、何かがあったせいだろう。

「…あったというか…何というか…。こいつら、初めて『怯える』ということを学んだというか…。仕事の厳しさというか、抗争中でもなくても、緊張を強いられる仕事があるんだということを学んだと言いましょうか…、完璧で完全以外は認めないという代理の元で、命を掛けて仕事をしていましたので……」
「なるほど。武史か。あいつは自分の所の社員には甘いが、こと極道者になると容赦無いからな。特にうちの者には…」

一人一人の顔を見ると、精神的にかなり辛かったのか、皆、ゲッソリとしている。
決して勇一が甘い組長だと言うわけではない。
組の代表としては、年が若い方なので、舐められないよう、厳格な態度で臨んでいる。

「組長っ! 俺ら頑張りますっ! 組長が不在の時でも他の組に舐められないようします! シマも守りますっ、ですから、組長~~~」

囲んでいた組員達が、若頭の佐々木を押し退け、勇一に抱きつく。

「おい、お前ら…」
「あの代理だけは…金輪際……、武史さまが…あんなに…酷い…あ、イヤ、…厳しい方とは存じませんでしたっ!」

佐々木のように年数の長い人間なら黒瀬のことをよく知っているが、年数の短い連中は、黒瀬の華やかな姿に惑わされ、黒瀬の本質を知らない。
そこまで深く接する機会がなかったのだ。

「もう、二度と、あの代理に預けないで下さいっ! 組長~~~~っ!」

組は組でも、此処はヒヨコ組だったのか? 園児の集団じゃないか、と勇一と佐々木は顔を見合わせた。

「分かったから、離れろっ! 鼻水が付くだろうがっ! あ~、ウザッ、佐々木、どうにかしろ」
「てめ~ら、いい加減にしないと、代理にお越し頂くぞっ!」

ひぇえええっ、と蜘蛛の子を散らすように勇一から皆が離れた。

「ここまで、怯えさせるとは…一体武史のヤツ……」
「組長、ボン、仕事はちゃんとして下さいましたので…あの…礼はちゃんとして下さい……それと、お陰で、うちの結束は固くなったようです…」
「色々と、済まなかったな。今日からは俺が顔を出すから、安心して、仕事に励んでくれ」
「はいっ!」

俺の第一は何なんだろう。
勝貴をあんな目に遭わせた責任も敵も今だとらず、勝貴の身体を愛してもやれず、勝貴に逃げられ…組なんてどうでもいいと思っていたが、やはり、組は捨てられない…。
酷い男だと思うし、エゴだと思うが、勝貴も組も大事だ。
勝貴の為に身を引いてやることも俺にはできそうもない。
このまま、俺の元に帰ってこないことがあったら、俺はストーカーになってしまいそうだ…それにしても…こいつら、アホだ。
こいつらの単純なアホさに、今は救われるな。

「組長、大丈夫ですか?」

時枝が出ていき、気落ちしていた勇一を佐々木は心配していた。

「ああ、大丈夫だ。佐々木、今晩ちょっと付き合え」
「はい、どちらへ」
「ちょっとな」
「かしこまりました」

行き先を聞かず、付き合うと返事したことに、後で佐々木は後悔することになるのだが。

「さあ、まずは俺のいない間の各組の動きから聞こうか?」

勇一は、久しぶりに組長の自分に戻った。

Posted in

秘書の嫁入り 犬(37)/終

「あの写真、兄さんいい顔してたよね。時枝もだけど…。どうせなら、写真じゃなくて、生で鑑賞したいかも」
「初めてじゃないの? 時枝さんが攻めるのって?」
「あれ、言わなかった? 素敵な写真があるんだよ。どうしても私に見せたかったみたいで、二人がいつもの逆で楽しんでいる最中の写真がね。写真撮って私に送り付けてくるなんて、時枝も兄さんも変態だよね」
「社長っ!」

それは違うでしょ。
あなたが、要求したことでしょう。
と、言えなくて時枝が黒瀬を睨んだ。
潤を傷付けた代償として、させられたことは内緒なのだ。
時枝が大きな声を出すものだから、子犬のユウイチが驚いて鳴き始めた。
ブルッとした時枝の手を尽かさず潤が手を重ねる。

「潤ったら、また浮気してる」
「俺と時枝さんなんて、絶対ない。だって、この人俺相手に勃たないもん」
「そんなこと、わかんないだろ? 潤は可愛いんだから」
「イギリスでも押さえつけてただけで、勃たなかったし、福岡でも…あっ」

時枝の甲の上の潤の手が、自分の口元へ移動した。
ヤバッ、と慌てて口を覆った所で、黒瀬の目も耳も見逃すはずがなかった。

「福岡? 潤、どういうこと? 時枝と何かあったの?」
「あ…いや…、大した事は…ないと…思うぞ。ねぇ、時枝さんっ!」
「ええ、勇一が潤さまにしたことと比べれば…アレはただの人助けでしたまでのこと」

時枝の横に座っていた黒瀬が立ち上がり、子犬の入ったゲージを抱え戻って来た。

「隠してたってことは、やましいことがあるんじゃないの? 時枝、どういうことか話してもらおうか」

ゲージをこともあろうか、時枝の膝の上に置いた。

「ヒィイイッ! 社長ッ、」
「黒瀬っ!」

潤が慌ててゲージを抱え上げた。

「もう、ホント、大したことないんだって。むしろ助けてもらったの。後でそのことは俺がゆっくり説明するから…気に入らないなら、その時、俺にお仕置きすればいいだろ?」

含みを持った言い方で、上目使いで潤が黒瀬に言う。
それを理由に、今夜は激しくやろうね、と誘っているのだ。
潤もかなり黒瀬の扱いが上手くなってきた。

「ふふふ、そう。後で潤が、説明してくれるの。楽しみにしておこう。じゃあ、本題に戻して、兄さんの中っていいの? あの兄さんもよがるの? 写真じゃ声までは分からなかったから…」
「あ、いいこと思いついたっ!」

急に潤が大声を上げた。
またユウイチが驚き、キャンキャン吠える。

「シッ! ユウイチ。潤の邪魔しない」

途端鳴き止む。
さすが黒瀬である。

「ほら、俺達のマンションに組長さん呼んで、あの時の逆って言うのはどう? 内線をオンにして」
「…潤さま? あの、あの時と言うのは、もしかして……」
「訊くまでもないだろう? 私の秘書はソコまで鈍いの? もちろん、時枝が兄さんと結ばれた記念すべき第一夜の時だよ、ね、潤」

答えたのは潤ではなく黒瀬だった。

「うん、それでね、組長さんが時枝さんを拒むようなことがあれば、俺と黒瀬で乗り込むの。拒まず『ザ・合体』ってなったら……」

勢いがあった潤の言葉が先細り、頬がほんのり赤くなる。

「なったら、そりゃ、私達を楽しませてもらわなければね。なれない組の仕事は押し付けられ、迷惑極まりないんだから、お楽しみはちゃんと頂かないとね。ふふ、さすが私の潤。素敵なアイディアだ」
「な、何を…勝手な…」
「勝手? 勝手なのは時枝と兄さんだろ? 勝手に空港からいなくなって中国出張をすっぽかすは、勝手に組の仕事放り出すは…時枝、上司の俺に報告無しに、第三者の指示に従ったアホは誰? これだけ俺と一緒に色々やってきて、簡単な罠に引っ掛かったくせに」

今まで誰も時枝を責めなかった。
勇一にいたっては、お前は悪くないの一点張りだ。
やはり、ここに戻ってきて正解だったかもしれない。
全くこの男は、イヤになるぐらい気遣いも遠慮もない、と自分をアホ呼ばわりする上司が今は有り難い。

「兄さんは、組長失格の腑抜けぶり発揮だし、父親と同じ仕事するの嫌だって知ってて、組の仕事するように仕向けるのって虐め? しかも、出来の悪い組員ばかりで…片っ端から殺したくなるのを、どれだけの忍耐で抑えているか…つくづくうちの社員の優秀さが身に染みたよ」

そうだった。
この男は桐生を憎んでいる。
黒瀬を苦しめた父親と同じ仕事を引き受けるはずがないのだ。
今回この男に負担を掛けてしまったことは事実だ。

「…分かりました。確かに勝手をしました。秘書失格です。勇一のことはお任せしますから、いいように取りはからって下さい。…私が…勇一を……ですか…」

はあ、どうなることやらと深い溜息が洩れる。

「じゃあ兄さんの前に、こっちの『ユウイチ』の世話、よろしくね。仕事の件は後でメールしておくよ」

潤、行こう、と黒瀬が潤を誘い、『ユウイチ』を残して一つ上の自分達の部屋へ戻っていった。

秘書の嫁入り ~犬~  了

★秘書の嫁入り ~夢~ へ続く

Posted in

秘書の嫁入り 犬(36)

「…そんな…ことって…。信じられない」

潤の目が潤む。

「絶対、組長さん、愛してる。愛情がなくなるなんてことない。だって、時枝さんと組長さんは、そんな簡単な絆じゃないじゃないか」
「だからかもしれません。絆が深い分、彼のショックも大きかったのでしょう」
「何、大袈裟に考えているの? よくあることじゃない。男は普通、繊細だからね。出産に立ち合ったら、その後、妻を女と見れない、妻以外の人なら勃つけど、妻とは他の女を想像しないと出来なくなったっていう男性は、意外と多いよ」

繊細とも出産とも無縁の男が、口を挟む。

「黒瀬も…もし、俺が女で、出産に立ち合って欲しいって希望したら、そんな風になる?」
「ならない。私は潤がそこからゴジラでも蛇でも恐竜でも妖怪でも宇宙人でも産み落としても大丈夫。私は潤に感じるエロスは潤に何があっても失われることはない…この愛情は普通の人間の愛情とは深さも幅も違うし」

はあ、と時枝が溜息を付いた。

「…勇一は、普通の感覚を持ち、普通に傷付くんです…社長とは違います…繊細なんです」
「分かってるじゃない、時枝。だから、深刻に考えず、兄さんの下半身の情けなさを、嗤(わら)ってやればいいのに」
「黒瀬、それは男として、余計傷付くと思うぞ?」
「楽しいじゃない。ヤクザの組長が、どこまで傷付くか見てみたい。あの人が、潤にしたこともあるし…これって、きっと罰かも…」

時枝と潤が顔を見合わせた。

『まだ、根に持っていたんだ…』

黒瀬の執念深さを改めて思い知った二人だった。

「黒瀬…そのことはもう。でも、組長さん、俺と黒瀬の為には鬼にでも悪魔でもなれるというのに、時枝さんの事となると…」

『…鬼、悪魔って…結局この二人は…?』
時枝は、二人にはないと思っていた共通点を見た気がした。
潤と黒瀬は違いすぎるから惹かれ合ったと思っていた。 
自分の人を見る目がまだまだ甘いと、この時感じた。

『似たもの同士って事か…』

「ふふふ、潤、兄さんの弱点は時枝だね。なのに、愛がないみたいな捉え方されている兄さんって、結構可哀想かも」
「社長っ! 私は別に勇一に愛がないとは申していませんがっ!」
「だけど自分を欲しがってくれない勇一は同情しかない…ああ、俺はもう愛されてない…勇一のバカバカバカ…って、感じだろ?」
「・・・」

その通りだった。
結局自分は、勇一を責めているのだ。
勇一の為に、罠と知りつつ男の言いなりになって、あんな酷い目に遭ったと言うのに…と。
時枝は反論出来なかった。

「ふふ、兄さん同様、時枝もこと兄さんの事になると、物事の判断がちゃんと出来ないよね。時枝、一つ忘れていることがあるよ」
「…何ですか?」
「時枝は勃つの?」
「…なっ、社長っ! なんてこと訊くんですかっ!」

自分のことを振られると弱い。
勇一のことを最初にふられ時より、時枝は赤面だ。

「勃つなら問題ないじゃない。繋がりたいなら、別に兄さんが駄目なら、時枝が兄さんに挿れればいいだけのこと」
「なっ、」
「黒瀬、凄いっ! 天才だっ! 頭良いっ!」
「ふふ、潤に褒められると、何よりも嬉しいね」
「そうか、そうだよね。時枝さんが情けない組長さんを組み伏せればいいんじゃない? ふふふ、楽しそう~」
「ふふふって、市ノ瀬さまっ、社長みたいな笑い浮かべないで下さいっ!」

時枝が照れているのか、途惑っているのか、それとも、自分の一大事を笑いのネタにされていると怒っているのか…とにかく潤がプライベートでは市ノ瀬の姓を名乗っていないことをすっかり忘れ、抗議した。

「黒瀬です! 俺、黒瀬潤ですから。時枝さんも情けない組長さんを捨てる気ないなら、さっさと桐生の人間になれば、いいんだよ」

と潤が口を尖らせる。

「どうなの、時枝。誤魔化しても駄目だよ。勃つの、勃たないの、どっち?」
「……それは、その…勇一とは逆なんです…彼にだけ、身体が反応するようで…でも、触れられると身体が萎縮して」
「ソコも?」
「いえ、ソコは…問題なくて…元々私のは…人様より…」
「何、それ、自慢? だったら問題ないじゃない。兄さんがこれで拒めば、その時は愛情を疑えば良いんだよ。ふふふ、過去に経験しているじゃない。兄さんの中って良いの?」

経験が無いわけではないのだ。
過去に一度、黒瀬の怒りを買い、勇一を時枝が掘る写真を撮らされたことがあった。

Posted in