その男、激情!104

(土曜日上乗せ追加分1)

「元組長は?」
『時枝組長でしたら、自室でリハビリ中です』
「そうか。なら、伝えてくれ。勇一組長は今日帰りが遅くなる。今日は泊まりかもしれないが、俺が一緒だから心配しないように、と」

時枝に、勇一と大喜が駆け落ちしたなど告げる訳にはいかないと、こみ上げて来る嗚咽を押し殺し、伝言を頼んだ。

『かしこまりました。組長と若頭は、仕事がたて込んでいて、今日はお戻りにならないかもということですね。お仕事ですよね?』

刺のある言い方だった。
まさか出勤第一目から夜遊びで時枝を一人にするつもりじゃ、という家政婦頭の疑いがそのまま言葉に出ていた。

「当たり前の事を聞くなっ!」

ブチッと電源を切るなり、携帯を壁に向かって投げつけた。
木村が、それ、俺の携帯ですっ、と慌てて拾いあげたが、見事に液晶画面が割れていた。

「若頭、壊れてますよぅ」
「知るかっ。出掛けてくるっ!」

赤鬼の顔は、大洪水だった。
バンと窓が揺れるぐらい激しくドアが閉まり、佐々木が消えた。

「…携帯…、ぁああ、俺、何か、罰が当たることしたか? ……結構真面目に、ヤクザやってると思うけど……」

それから一時間程、壊れた携帯を胸に抱き締め、木村は独り言をブツブツと呟いていた。

 

潤の携帯が鳴ったのは、クロセの社長室で黒瀬との甘い休憩時間を過ごしている時だった。

「佐々木さんからだ。…あん、ダメだって、出ないと」
「私より、佐々木を優先する気?」
「…そうじゃないけど、…急用かもしれないし…んもう、…あ、…ばかっ、――もっとぅ、」

潤の意識と手から携帯が離れた。

「ふふ、次は、どこ?」
「ピアス、…ピアス、」

下半身の敏感な所に、装着されたオパールのピアスを黒瀬が歯で捉えると、軽く引っ張った。

「ん、…くっ、」

嬌声を噛み殺し、潤がビリッとした快感に耐えていたその時、

「失礼しますっ」

慌てた様子の男が、社長室に飛び込んで来た。
佐々木だ。

「…佐々木、さん。黒瀬、…佐々木さん」

社長の椅子に腰掛け身悶えている潤と、跪(ひざまず)き、潤への奉仕活動中の黒瀬。
黒瀬が横目で佐々木を捉えたが、潤への行為を中断しようとはしなかった。

「…ぁあん、――何事…、ですか」

佐々木が荒い鼻息をたて、二人の側に近付いて行く。
普段ならこの状況下、赤面し目を背けるはずの男が二人の行為などお構いなしといった感じだ。
二人の邪魔をした段階で、黒瀬からこの後どんな仕打ちが待ち受けているのか、予測できるだろうにその余裕もないようだ。

「消えましたっ!」

机に両手を叩きつけて、佐々木が唾を飛ばした。

「…潤、挿れてもいい?」

黒瀬の指が、潤の蕾を解しに掛っていた。

「ボンッ! アッシの話をちゃんと聞いて下さいっ!」

隣の秘書課にも届いたであろうというぐらいの怒鳴り声。
佐々木の顔が羞恥とも泣き顔とも違う理由で赤くなっていた。

「…いぃ、…そこ、…好きっ、――黒瀬、佐々木さんが……、」
「潤、返事がまだだよ。私のモノを、この中で愛してくれる?」
「ボン、それどころじゃ、ないんですっ!」

佐々木が潤と黒瀬の側に回り込み、命知らずにも、黒瀬の肩を揺さぶった。
さすがに無視できないと思ったのか、潤の中を解していた指を抜くと、その手で佐々木の股間を下から殴った。

「くっ、」

佐々木が股間を押さえ、前屈みになる。
赤から青に変わった顔に脂汗を浮かべ、必死で何かを話そうとしていたが、息にしかならなかった。