その男、激情!99

「ふん、結局成長してないって、ことだろ」
「うるせ~、それ以上、無駄な挑発をするな」
「ハイハイ。ガキはガキなりに大人の階段を昇りました、ってか。…武史と嫁は、見た目には何ら変わりなかったな」
「あの二人は、特別だろ。あんだけイチャついてれば老ける暇もないだろ。でも、潤さんは仕事凄いぜ。時枝のオヤジの替わり、ちゃんとやってるもんな。みんなそれぞれこの三年、イロイロあったんだよ。それなのに…あんたときたら…」
「文句あるなら、全部吐き出せ。包み隠さず話してくれるんだろ?」
「急かすな。話してるだろ。ソープに行ったことは覚えてるんだな。黒瀬さんの所に迎えに行ったことは?」
「…あぁ。…行った。勝貴のヤツ、あいつ、」

突然、勇一の顔が赤くなった。

「どうしたんだ? あんた、汗掻いてるぞ」
「…何でもないっ」
「何でもないって、いう顔じゃないだろ」

勇一の脳裏に、時枝に掘られている自分の姿が浮かんでいた。

「…勝貴の技はスゴイッてことだ。気にするな」
「ナニ思い出してるんだか。自慢かよ」
「…まあな」
「それから三日後、あんたは撃たれた。結婚式の直後だった」
「結婚式? 式挙げたのか、お前達?」
「俺達? ハア…やっぱり、覚えてないか。俺達じゃねえよ。自分の式だろ。あんたと時枝のオヤジの式」
「…嘘だ。俺達は、まだ…」

勇一の顔から、既に赤味は引いていた。
本当に挙げたのなら、それは強く心に残っているはずだ。
どうして、記憶に一欠片もない?
勇一が、胸の中で自問する。

「医務室でも変なこと言ってたもんな。結婚式まであと少しって。その少しは、ちゃんと来たんだよ。迎えに行ってから僅か三日で、あんたと時枝のオヤジは式を挙げたんだ。この辺からあんたの頭、配線グチャグチャだ。専門医に掛った方がいいぞ」
「…本当なのか。俺と勝貴は…」
「ああ。結構笑える式だった。黒瀬さんが手配した日本海の岸壁に建つチャペルだった。といっても、本物のチャペルじゃないぜ、映画のセットだったんだ…あんたは袴、時枝のオヤジは白のスーツだった。神父代行が黒瀬さんだったのが間違いだったと思うけど。でも時枝のオヤジは、そりゃ、幸せそうだった。鬼の目にも涙だった…なのに」

大喜が口を噤む。
天国と地獄を僅かな時間差で味わうこととなった時枝の事を思うと、胸が絞りとられるように痛む。
沈黙。
風が静かに二人の間を流れる。

「…続けろ」

静寂を勇一が破った。

「式の後だった。あんた達はチャペルから出て散策していた。俺とオッサンは迎えのマイクロバスを待つために、少し離れた空き地にいた。現われたのは、迎えのバスじゃなくて、バイクに乗った二人組だった。手にはライフルを持ってて…オッサンが腕と足を撃たれた」

あの時の事の佐々木の血を思いだし、大喜の身体がブルッと震えた。

「…佐々木を撃ったのは、橋爪か?」
「橋爪? 悪りぃけど、それは有りえない。百パーセントないから」

小馬鹿にしたように大喜が言った。

「言い切れるのか?」
「ああ。言い切れる。いいから、俺の話を聞けよ。――っと、言っても…、ここから先は、俺が実際目にした訳じゃあ、ない。俺はオッサンの側にいたから。オッサンが、重傷を負いながらも、あんた達に知らせようと立ち上がった時、ライフルの音が聞こえて来た。その音が、あんたの胸に残る傷の正体だ。潤さんの話によると、バイクに乗った二人連れが狙っていたのは、時枝のオヤジだ。拉致した一味と関係あると思う。時枝のオヤジを狙って弾は発射された。それを、あんたが身体を盾にして、時枝のオヤジを守った」
「…良かった…」

勝貴が撃たれなくて良かった、と思った途端、勇一の口から言葉がポロッと出た。