その男、激情!96

「どうした? サッサと乗れ」
「あんた、直々の運転かよ」
「心配するな、免許はある」

桐生組関係車両が並ぶ駐車場。
スモークを貼った組長専用車とは別に、国産の三ナンバーも並んでいた。
その一つに勇一が乗り込み、中から助手席のドアを開けた。

「チェ、あんたとドライブかよ」
「一番邪魔が入らない場所だろ。人に聞かれることもない」
「ハイハイ、乗りますよ」

渋々大喜が乗り込む。

「勝貴がいたら、ハイは一つと叱られてたぞ」
「だろうな」

シートベルトを締めた大喜が、チラッと運転席の勇一を見た。
すぐに視線を前方に戻すと、は~あ~と怠そうに溜息を付く。

「変な所に連れこんで、変なことするなよ」

前方を向いたままで、大喜が早口で呟く。

「ガキには、必要無い心配だろ。ケツの青いガキを襲う趣味はねえよ。頭下げてお願いするなら、考えてやるけどな」

勇一がアクセルを乱暴に踏み込み、車が発車した。

「ぐっ、」

大喜の腹にシートベルトが食い込んだ。

「…吐かせたいのか? ったくよ、都合の悪いこと、忘れたで済ませようっていうのが、気にいらね~んだよ」
「どういう意味だ?」
「あんたと二人っきりのドライブ、コレが初めてじゃねえし、あん時、俺はあんたに襲われ掛けたんだ」
「夢の中の話と現実を一緒にするな、くそガキ」
「夢? 寝ぼけてるのはどっちだ。皆があんたに気を遣うと思ったら、大間違いだからな」
「ああ、くそガキは、俺に気など遣わないよな」

ははは、と何故か楽しそうに勇一が笑った。

「…大丈夫…、…じゃ、ねえよな…?」

普通だったら怒るか嫌味で返される所だ。

「ソコがテメェを呼んだ理由だ」

今度は、笑いのないシリアスな口調。

「なに、それ」
「俺に言いたいことあるんだろ。俺に償わせたいことってなんだ? 俺がしたことを償わないと組長と認めないって、啖呵切っただろ」
「…ああ、言った」
「それは、勝貴に関係する。違うか?」
「…違わない」
「俺は、一日でも早く『橋爪』のヤローを殺りたい。あん時、武史より先に俺に教えようとしたよな。だが佐々木はソレを止めようとした。佐々木は俺に隠し事している。イヤ、佐々木だけじゃない。橋爪に辿り着く手掛かりを隠している。そうだろ?」
「ああ。その通りだ」
「――橋爪の情報を知っていながら、組のヤツラは俺に隠しているのか」
「それは違う。組の人は知らない。オッサンだけだと思う」
「…それと、武史と潤か」
「だけじゃない。時枝のオヤジが抜けている」
「全部話せ」

車が、急停止した。
反動で、大喜の上半身が前のめりになる。
また、シートベルトが大喜の身体に食い込んだ。

「…うっ、…吐くっ、吐きそう…」
「くそガキ、二日酔いだったな。車内はゴメンだぜ」

勇一がウィンドウを下げてやると、大喜はシートベルトを外し身を外に乗りだし、嘔吐した。

「コラッ、ボティを汚すなよっ」
「…はぁ、…はぁ、それしか言うことないのかよ…。一体誰のせいだ。知りたいこと教えて欲しいなら、礼を尽くせよ、桐生勇一」

真っ青な顔で唇についた胃液を拭いながら、大喜が勇一を睨む。