秘書の嫁入り 青い鳥(14)

「いるなら、いるって言え。変態野郎!」
「変態は酷いな。そんなこと言うなら、着るもの出さないからな。俺は変態だから、裸の勝貴を鑑賞しながら夕飯にする」
「アホなこと言ってないで、俺にもバスローブ貸せ。あと、俺の眼鏡は?」
「やだ、貸さない。眼鏡はリビングのTVの上だ。そのコリコリした乳首、見ながら、飯食うことにした」
「した、って勝手にするなっ! このド変態がっ!」

何故に三十四にもなろうという男が、裸で食事をしないといけないんだ?
そんな事出来るか、と断固として断るはずだった。
はずだったのだが……

「こういうの、初めてだよな。あ~、新鮮でいい」

勇一が箸を振り上げ、時枝を指す。

「行儀悪いだろが。箸で、人を指すな」
「裸で食事中の勝貴に言われても、説得力ない。はは、マジ、いい眺めだ」

結果として時枝は勇一の申し出を断れきれなかった。
たまには自分の言うこともきいてくれと甘えられ、恥ずかしい姿を見せ合うのが信頼関係だとぬかされ、変態になるのは勝貴の前だけだ、俺の愛の深さだと、宣言されれば、ノーと言えない時枝だった。
その代わり、ちゃっかり交換条件を時枝も出した。
自分だけが裸のままというのも不公平だと、勇一のバスローブも脱がせた。
三十過ぎの男二人が、全裸で仲良く食卓を囲む。

「それにしても、見事にお前の欲望を満たす為の料理の数々だな」

テーブルの上に並べらた、ステーキにレバニラに鰻にスッポンスープに、マムシ酒。

「勝貴にはまだまだ、負けるけど、結構俺も腕を上げてきたと思わねぇか? ちょっと見ない間にお前、ガリガリになってるからさ、体力付けてやろうと、思って。さっきだって、最初は、すげ~、早かったし」
「何が、早かったんだ?」
「イくのが。あっという間に出しただろ。クッ」

勇一の顔が、歪む。
時枝が臑を力加減無しで、蹴飛ばしたのだ。

「つ、疲れてたんだっ! しょうがないだろっ。お前の弟の世話とその嫁の教育と、俺は心骨削ってやってるんだ…。それに、お前が……」

言い掛けて、時枝の顔が赤くなる。

「う~っ、まだ、イテェ。分かってるって。疲れてたし、俺の身体が良かったんだろ。ッテェ、蹴るな!」

また蹴りを飛ばした。

「……身体だけじゃ、ない……」

赤くなりながら、ボソッと時枝が洩らした。

「…そりゃ、ないぜ…不意打ちだ、その可愛さ…卑怯だぞ、勝貴。弁慶の痛みも吹っ飛ぶ。ダメだ…これ以上、可愛いこと言われたら、食事どころじゃなくなる。先に飯だ。食ってから、じっくり色々とな…へへ…」
「可愛いとか、言うな、アホ。俺は、市ノ瀬じゃないぞ。形容詞が違うだろうが…」

と言いつつも、時枝は悪い気がしない。
身体の関係を持った当初はバカにされているようで嫌だった言葉も、今では素直に愛情表現だとして受け取れるようになっていた。
だが、それを素直に表現しないのが時枝なのだ。
嬉しく思いながらも、反論を忘れない。

「市ノ瀬と比べられるか。勝貴の方が、数倍イイ男だ。少なくとも俺には、お前じゃないと」
「…勇一、聞いてる方が恥ずかしいから、もうやめろ。武史が聞いたら、殺されるぞ?」
「安心しろ。この部屋に盗聴器はない」
「あってたまるかよ…。飯だろ。折角作ったのが、冷めるぞ。マムシの酒まで用意してあるところが、お前の魂胆丸見えだ。付き合ってやる。食うぞ」

勇一の目が、ギラリと光った。

「付き合うって、食後の運動のことだよな?」
「こんな姿で座らせて、こんなメニュー用意して、この後やることは、それ以外何がある? 映画鑑賞しようと、言うつもりはない。褒美、もう欲しくないのか?」
「勇一、感激でございます! さすが、勝貴ちゃん、大人な発言! ああ、スッポンのスープとマムシ酒、お取り寄せしておいて、正解! ご褒美、まだまだ、頂かせていただきたく……」

突然、勇一が立ち上がると、椅子を持って時枝の横に移動した。

「折角だから、胸だけじゃなくて、勝貴のムスコも眺めながら食事がしたいです!」
「バカッ、箸でそんなとこ、突くなっ!」

勇一の箸が、時枝の竿をつつく。

「へへ、動いた。良い眺めだ」
「お返しだ」

時枝の箸も、勇一の竿を…軽くつつくのかと思えば、挟み持ち上げた。

「ひっ、イテェ!」
「ざまあ、見ろ。いい加減、食事させろ。冷えると不味くなるぞ。褒美の続き、早く欲しいだろ?」
「欲しいです!」

遊びだしたら切りがない勇一を制止し、やっと食事が始まった。
勇一が桐生の本宅で食事を作ることはない。
時枝のマンションでも作らない。
というか、時枝が作らせない。
唯一、作るのがこの隠れ家として借りている部屋だけだ。
時枝の為だけに料理を作る。

「味はどうだ?」
「まあまあだ。食える」
「食えるって…勝貴…、美味しくないか?」
「だから、まあまあだって、言ってるだろ。美味くなかったら、食わない。オイ、どこ見てるんだよ!」
「どこって、ソコ」

勇一の視線は時枝の股間を向いていた。