「…まさかぁ、失神だよ…ね?」
恐る恐る、潤が二人が交わっているベッドに近付いて行く。
橋爪に巻き付けていた手もダラリと落ちている。
「…時枝さん?」
潤が時枝の肩を指でちょんちょんと突いた。
「うるせーっ、邪魔するなッ!」
橋爪が潤を一喝する。
「邪魔してないだろっ。あんた、時枝さんに何したんだよっ! いい加減終わりにしろ!」
「こいつの望み通り、犯してやってるだけだろうが。…なっ、に?」
夢中になりすぎて、橋爪は時枝の意識が飛んでいることに気付いてなかった。
潤に反論され、そこで気付いた。
「…いつだ?」
気付かないのも無理はない。
時枝の中は、動いていた。
橋爪を締め付け、離すまいと絡むように律動を繰り返していた。
そういえば、勇一、勇一という耳障りな連呼がここ数分止んでいた。
「こんな身体で激しいセックスに耐えられるはずないだろ。誰かさんが蜂の巣みたいに撃ったんだからッ! 終わりにしろよ。時枝さんを殺す気かよ」
「はい? 俺は殺し屋だ。だいたい、誰が望んでこんなバカバカしいことになってるんだ? あ? そんなにお前はこいつの事が分っているか? お前は、そこの変態の事だけ心配してろっ!」
「…少なくとも、殺し屋のあんたより、俺の方が時枝さんのこと、分ってる。どんなに組長さんを愛していたかなど、今のあんたには分らないじゃないかっ!」
そこの変態と呼ばれた黒瀬は、珍しく傍観を決め込んでいる。
潤が橋爪に激しく応戦するのを愛おしそうに見つめていた。
「言いたい事はソレだけか? 指を出せ。いかにお前がこいつのことを理解していないか証明してやるッ!」
「指で、何が証明出来るって言うんだッ!」
「人差し指だけ貸せ。そうすれば、自分がいかに自意識過剰な愚か者か、分るだろうよ」
潤が、ムッと敵意剥き出しの顔をする。
そして、眉間に皺を寄せ、困ったように黒瀬を見た。
黒瀬は、優しく笑みを浮かべた。潤の判断に任せるよ、と言うことらしい。
潤が橋爪に指を出すと、潤の指を自分の雄が収まったままの時枝の孔に這わせた。
「何がしたいんだっ!」
「俺のに沿わせて挿れてみろ」
「俺は時枝さんから、早く抜け、と言ってるんだっ。そんな拷問みたいな真似出来るかっ。あんたじゃあるまいしっ、」
数年前に、橋爪、いや勇一にされたことを潤はリアルに思い出し、身体がゾクッと震えた。
「いいから、サッサと挿入しろッ!」
橋爪が潤の指の関節を持ち、強引に中に押し込んだ。
「…時枝さ…ん、な、んで」
ネットリと絡みついてきた時枝の内壁。
解した時とは明らかに違う律動。
橋爪の雄で広がったソコに、潤の指など辛い存在のはず。
だが、時枝のソコは悦びを見せていた。
潤は、慌てて指を抜いた。
「…意識ないのに、…どうして、」
潤にも分った。
終わりにしたくないのは、むしろ時枝の方なのだ。
意識が飛んでいても、細胞の一つ一つが、愛しい男を離したくないと訴えているのを感じだ。
「…こんなに、組長さんを欲していたんだ。…こんなに、深く……。この三年間、必死で仮面を被って生きていたんだ……くっ、くっ、…うっ」
涙を静かに流しながら、潤が左右の手をギュッと強く握りしめる。
爪の先が皮膚を刺すぐらい固く握った右の拳を振り上げた。
「…くっ、そぉおおッ!」
潤の頭に血が逆流していた。
その昔、ヒースロー空港で黒瀬を平手で叩いた時も、冷静さは残っていた。
怒りに任せ、出せる力の全てを拳に込めた。