その男、激情!65

訪れた奇跡だった。
もう、本当に死んでもいい。
欲しければ、こんな命くれてやる。
時枝は肩の痛みを無視し、両腕とも自分の上に被さろうとする橋爪に伸ばした。

「邪魔だ、退けろっ!」

時枝が伸ばした手を振り払うと、傷を負った時枝の上半身に橋爪は手を突いた。

「ぐッ」
痛みに顔をしかめながらも、時枝はその手から受ける勇一の重みさえ、勇一の生存の証だと嬉しかった。

「犯されたいんだろッ、ド変態!」

貶し言葉を吐きながら、勇一が時枝の中に突き進んだ。

「ぅあぁ―っ、ぁああう、ゆう…いっ、」

時枝が、首を左右に激しく振る。
拒絶するように激しく振られた首は、時枝のこの上もない喜びの表われだった。

「ぁあう、勇一ッ、勇一ッ、勇一ィイイイッ!」

『勇一』と呼ぶなと言われたことなど、完全に時枝から消えていた。

「うるさいッ!」

橋爪が、時枝の頬を音が出るぐらい激しく叩いた。
時枝の顔に既に眼鏡はなかったが、それでも強く叩かれれば被害は大きい。
時枝の鼻から赤い筋が垂れてきた。
潤が駆け寄ろうとしたが、黒瀬が止めた。
どうしてだよ、と潤が黒瀬の手を振り払おうした。

「よく見てご覧、アノ顔」

黒瀬が、時枝の顔を指した。
叩かれ腫れた頬、鼻血の垂れた顔、目からは大粒の涙、だが、幸せで堪らないという表情に、潤も納得した。

ズッシリとした熱の塊が自分の中に埋まる感触、それは黒瀬や他の男達とはまるで違う物だった。
初めて自分の中に押し入って来たときから、勇一だけが時枝の心まで満たしていた。
どんなに乱暴に抱かれても、彼だから本能以上の悦びに繋がった。
勇一が消え、黒瀬に乱暴に犯され、桐生の組を率いるようになり、他の男達と遊ぶようになっても、渇ききった心を満たすようなセックスなど一度もなかった。
どんなに激しい交わりでも、無茶なプレイでも、それは虚しさしか時枝に残さなかった。
心がないセックス。
それは、今も同じかもしれない。
だが、違うのだ。
時枝の想いの分、勇一に犯されることは、暴力でもなければプレイでもなかった。

―――なんなんだ、こいつの身体はっ!

時枝が歓喜している一方で、橋爪は時枝の身体に、説明し難い融合感を感じていた。

―――喰われているのは、俺の方か?

溶かされるんじゃないかと思うぐらい、熱い。
ドロドロした物が纏わり付いてくる感じがする。
あくまでも感じるだけで、実際は潤っているだけだろう。
橋爪の経験ではない感触が時枝の中にはあった。

「くっ、…お前、…どうなってるんだっ!」

良すぎるのだ。
今までに突っ込んだどの女よりも、橋爪の雄を興奮させる感触。
いや、感触だけじゃない。
時枝から発せられる汗の匂いも、犯されているというのに、嬉しそうに勃起した先端から漂う時枝の匂いも。
腰の動きが止まらない。
乱暴に突き上げても、もっと激しくと、挑発するようにドロドロの内部が締め付けてくる。
野生の獣そのものに、自分の下に組み敷いた獲物を、ただ、犯したくて堪らない。
突いて突いて突き上げて、息の根を止めたくなるほど。

―――この身体は、俺のものだっ!

「ぁああうっ、…ゆう、…ぃちっ」

時枝が、懲りずにまた手を伸ばす。

「何度言っても分らないやつだっ!」

橋爪が、時枝の両腕を腕を乱暴に掴んだ。

「何をするつもりだ!」

時枝ではなく、潤が怒鳴る。

「うるせーっ、外野は黙ってろ」

橋爪は潤を一喝すると、時枝の傷の状態などお構いなしに、

「来いっ!」

時枝の腕を力任せに引き寄せ、上半身を起こそうとした。
時枝本人の力が入らないその身体は、かなり重く、腕だけで持ち上がるようなものではない。
下手をすると脱臼ものだろう。

「手伝えっ!」

潤と黒瀬に、橋爪は横柄に命じた。

「人使いの荒い人だ。私をこき使うとは、ふふ、高くつきますよ」

黒瀬が潤を促し、二人掛かりで時枝の上半身を起こしてやる。