その男、激情!64

橋爪が何を考えていようと、二人には関係なかった。 
潤は、今すべき、自分の役割を理解していた。
黒瀬が素早く臨戦態勢に入れるよう、黒瀬を挑発するように口を半開きにし、濡れた視線を黒瀬に返した。

「ふふ、私の準備も完了。兄さんの目の前で時枝を犯れるなんて、楽しくてたまらない。あの時の報復が、今頃になって出来るなんてね。状況も似てるし。ふふふ」
「あの時? …アノ償いは、もうしたはずですっ!」
「たったアレだけで? 大丈夫、私は兄さんほど鬼畜ではないから、道具など使わないよ」

黒瀬が、時枝に先端を押し付けた。

「ハッ、嫌ですっ」
「一気に突いてあげるから」

黒瀬が先がグッと中に押し込められた。

「嫌、ヤメロ――ッ!」
「ふふ、久しぶりだけど、時枝のココは覚えてくれているみたいだよ。口ほどには嫌がってない」
「違うっ、勇一の前で変な事言うなっ!」

知られたくなかった。
勇一がいない間に黒瀬と寝たことなど、例え、それが「橋爪」を名乗る男でも、時枝は知られたくなかった。

「ふん、結局、こいつもただの淫乱だってことだろ。だから、自分を殺そうとした俺に犯せとか言えるんだ。変態野郎」

吐き捨てるように、橋爪が言った。

「サッサと突っ込んでやれ。俺に仕事を早くさせろ」

無性にイライラする。
仕事が出来ないからイラつくのか、この馬鹿げた行為を見せつけられるからなのか。
縋るように俺を見る時枝の目が気にくわないからなのか。

「ふふ、ではご要望にお応えして」

黒瀬がチラッと潤を見た後、時枝の内部を突き上げた。

「ヒィッ、勇一ィイイ―――ッ!

時枝の絶叫が、部屋中に響き渡った。
瞬間、橋爪は黒瀬を殴り飛ばしていた。
ベッドから転がり落ちた黒瀬が、切れた口の端を手の甲で拭いながら、橋爪を見上げた。
獣のごとく、どう猛な目をした橋爪が、ベッドの上でファスナーに手を掛けていた。
何が起きているのか、一番分かっていないのは、橋爪本人だった。
自分の中に突如湧き上がってきた強い衝動に橋爪は支配されていた。
とにかく黒瀬が許せず、淫乱と自ら時枝を罵ったくせに、時枝の体を汚していいのは自分だけなんだと、黒瀬の場所を奪った。

「俺が犯してやるッ!」

突然の交代劇。

「――勇一ィ、」

時枝の涙が、歓びに変わろうとしていた。

「その名で呼ぶなッ」

時枝は、勇一と名前が零れないようにと口をギュッと閉ざし、数年ぶりに触れようとする愛しい男を見つめた。
ファスナーを開き、太腿まで下衣を一気に下げた橋爪の中心には、雄々しく勃起した物が存在していた。
黒瀬みたいに、自慰で成した訳ではない。
そんな兆候など時枝の悲鳴を聞くまで一切なかったのに、橋爪を支配する激しい衝動に連動して、筋を浮き立つぐらい成長していた。

「この中に入れりゃ、いいんだろ」

黒瀬の規格外を含んだ後で、時枝のソコはまだ小さく口を開いていた。
そこに、遠慮なく橋爪が先端を押しつけた。

「ゅう、…」

間違いなく、勇一だった。
何一つ変わっていない感触だった。
勝手な言いぐさで体の関係を持った時から、この体を愛し続けた、勇一の雄の象徴。
勇一が橋爪になろうと、自分を殺そうとしようと、そこは雄として自分の前で勃起している。
生きている。
勇一は生きている。
勇一、と名を呼びたい時枝が開きかけた唇をギュッと噛み、心の中で『勇一』と叫ぶ。