その男、激情!62

「ふふ、橋爪さん、犯すの? それとも、」

橋爪の銃口は時枝の額が捉えていた。
その橋爪の後頭部に黒瀬が別の銃を当てた。

「犯されたい? もちろん、私から、」
「…それ、本物か?」

玩具で騙されたことを橋爪は思い出した。

「本物かどうか撃ってみたら分りますけど、その場合、あなたは確認できないでしょ? このカラッポの頭に風穴が開いた後にどう確認するですか? ふふ、信じる信じないは自由ですけど」
「…ふん、肉親と言いながらも、犯そうとしたり、殺そうとする。実際そういうことが出来る男らしいな、お前は」

犬を使って嬲られたのは、昨夜のことだ。
その際、黒瀬の一物を尻に押し付けられた。
あの緑龍の女帝の血を引くなら、兄と呼びながらもその命を絶つことぐらい平気だろう。

「あぁ、もう一つ、オプションがありましたね。私があなたの前で時枝を犯す、というのも面白いかもしれません。さあ、どれにします?」

この男が時枝を犯す?

「…そんなこと、そこに突っ立ているヤツが、許すはずないだろっ」

橋爪は、横目で潤を捉えた。

「……許す。俺は黒瀬が時枝さんを俺の目の前で犯しても、許す。あんただって、昔、俺を時枝さんの前で犯したんだ。同じ事じゃないか」

頭が変になりそうだ。
誰か一人、普通の思考のヤツはいないのかっ!?

「嫌です!」

声を上げたのは、時枝だった。
額を橋爪が構える銃から外し、橋爪の頭を通り越し、黒瀬を睨んだ。

「それは嫌ですっ! 勇一の前で社長に犯されるなんて話が違いますっ! …やっと会えた勇一の前で、…俺は、勇一にっ、…その為に準備をしたんだっ、」
「準備? 何をした?」

橋爪が訊いた。

「鈍い男だね、あんたも。分るだろ? 受け入れやすいように柔らかくしてあるんだよ。俺が黒瀬より先に来た理由はその準備の為」

答えたのは潤だった。
潤は答えただけではなかった。
橋爪の所まで行くと、銃を持ってない左手の手首を掴んだ。

「確かめてみればいい」

掴んだ手を、毛布の下の時枝の秘部に持って行き、橋爪の手を押し付けた。

「勇一ッ!」

時枝が、思わず叫んだ。
心身共に待ち望んでいた男と、時枝が接触した瞬間だった。

「ヤメロッ! 気持ち悪いことするなっ!」

だが、橋爪が口にしたのは、時枝の心を切り裂くような容赦無い言葉と拒絶だった。
ヌルッとした感触と高い体温に、ギョッとした。
濡れた女と同じ感覚に、本当に不快だったのだ。
橋爪は潤を振り払い、毛布から手を引き抜くと、微かに湿りを感じた部分を自分の履いていたズボンで拭った。

「…信じられない、…あんた、……あんた、今、何を言った? 何をした?」

口を開いたのは潤だった。
時枝はショックのあまり、声も出なかった。
現実を分っているつもりだったが、目の前に立っている男が勇一ではなく橋爪と名乗っていることが何を意味するのか、時枝はこの時実感した。

「…どれだけ、…どれだけ、傷付けたら、気が済むんだよっ! なぁ、教えてくれよっ!…あんまりじゃないかっ、」

潤が顔を真っ赤にして、橋爪の胸ぐらを掴んだ。
潤が、ここまで興奮して怒りを露わにするのは珍しい。

「ガキには関係ないだろうがっ。女ならまだしも、男の股など触って喜ぶヤツがどこにいるっ」

橋爪が銃口を、時枝から潤に移した。

「弾は一発だと言ったはずですよ。潤に使うということは、時枝は殺さないという意味ですよね、殺し屋さん」

黒瀬が拳銃の先をグリグリと橋爪に押し付けた。
潤から銃口を退けろという催促だ。

「どいつもこいつも、ガタガタうるせーっ!」

胸ぐらを掴む潤の頭を、橋爪は銃で殴った。
ゴツンと乾いた音がし、潤が頭を押さえて床に沈んだ。