秘書の嫁入り 青い鳥(12)

「お前は腱鞘炎になるのが嫌で、俺に会いたかったのか? オナニーのし過ぎだと? 俺に会えば、その必要がなくなるからか? お前、俺をダッチワイフか何かと勘違いしてるんじゃ、ないだろうな」

この男に抱きしめられ、トキメキすら感じたことが情けなくなった。

「バカ言え! 勝貴の中の方がダッチワイフより気持ちいいに決まってるだろ! お前に会えないから、会いたいなと思うと、右手が勝手に動くんだって…イテッ」

冷ややかな視線に加え、時枝の平手が勇一の頬に飛んだ。

「勇一の、どアホっ! それじゃあ、ヤリタイだけのセフレじゃないかっ。あ~、嫌なこと思い出した! そう言えば、お前、セフレに昇格とか訳わかんねぇこと言って、俺を襲ったんだった。そもそも、俺達はそういう関係だった。ああ…俺が、馬鹿だった…お前の事を…」

叩かれた勇一がニヤニヤして、時枝を見ている。

「俺の事を、何だ? 愛してるだろ? なのに、セフレ扱いで、勝貴、哀しい~~~~ってな。可愛いっ!」

今度は平手じゃなく拳が勇一の頬に向かったが、今回は勇一よって阻止された。

「コノヤロウッ!」

受け止めた拳を引っ張り、怒り心頭の時枝の身体を勇一が自分の胸に寄せた。

「勝貴のその短気具合、余程、溜まってるんだな。お前、相当、欲求不満だろ。馬鹿なのは、勝貴だろ? なんで人形より、お前の方が気持ちがいいんだ? どうして右手が勝手に動くんだ? そりゃ、俺様の心が、勝貴を求めているからだろうが……。勝貴の身体は俺の為にあることに、しとけよ…な? 俺の身体もお前の為にあるってことで」
「…勝手な言い草だ…」
「ああ、俺は勝手だよ。でも、ちゃんと、お前の仕事の邪魔しないように我慢してるだろ? ご褒美くれてもいいと思うけど」

時枝の扱いが勇一は上手い。
久しぶりで自分からは求められないであろう時枝を、上手くリードする。

「…お前、狡い」
「そりゃ、泣く子も黙る極道モンですから、」

自分が乗せられているのが時枝にも分かる。
それでも勇一の気遣いが嬉しい。
いいように転がされてしまったと思うが、これで、求める理由が出来た。

「褒美、くれてやる。久しぶりなんだから、ゆっくり味わえよ」

時枝が勇一の服を脱がしに掛かる。

「ああ、フルコースで、ゆっくり、じっくり、ねっとり、頂かせてもらいます」
「なんだよ、その、ねっとりって…」

その回答を、行動で勇一は示した。

「…あぁあ…ゆう…い…ちぃっ! もっとっ!」

体中を舐められ、濃厚なキスをされ、乳首を転がされ、そして一物を口淫された。
時枝から一片のかけらを残すこともなく理性がぶっ飛ぶ。
勇一の舌が肌を這うだけで、脳天を突き破るような快感が走った。
自分が思っていた以上に、時枝の身体は飢えていた。
カラカラに乾いた砂漠だった。
一滴の水も逃そうとしない乾いた大地が、今の時枝だった。

「勝貴…お前…、」

ずっとお預けを食らっているのは自分の方だと思っていた勇一だったが、乱れる時枝を見て、飢餓状態は自分より時枝の方だったと確信した。
これじゃあ、寝ぼけて武史とキスしたり、自慰行為にはしったり、情緒不安定になったりするだろう。
元々、遊ぶときは遊ぶが、自分に厳しくストイックな面もある男だ。
もしかしたら、右手さえ使ってなかったのかもしれないと、勇一は時枝が不憫になった。

「…可哀想だったな……、よし、任せろ…」

ここは自分の頑張りどころだろう。
男の腕の見せ所とばかりに、勇一の愛撫に力が入る。
もちろん熟練(?)しているつもりの技も駆使した。
頑張りながら、桐生名物の通称『絶倫ドリンク』が、この隠れ家にもストックがあったかどうか気になった。
なかったら、あとで組の者に届けさせるしかない。

「…挿れろっ…、あぁう…焦らすなッ!」

最大限の快感を与えてやるには、直ぐじゃなく我慢させることも必要だと、挿入しかけては横に滑べらせ、先端で突くだけの勇一に、時枝がもう限界だと訴える。

「まだだ」
「…覚えてろッ…クソッ!」

時枝が勇一を押し退け、勇一の上に自分から馬乗りになった。
ただの、馬乗りじゃない。

「…んっ、あぁあああっ、あぅ…」

勇一の先端を自分の孔に押しつけ、

「こら、バカッ、ゆっくりやれっ!」

という、勇一の忠告を無視して、一気に沈んだ。

「…イイッ、…あっ、…うっ…、うっ…」

自ら腰を動かし、身体の中に収まる勇一の雄を時枝が堪する。
欲しかった。
この男にこうして突き上げられたかった。
自慰行為の欲求さえ薄れていたのは、きっと自分ではこの熱と快感、満足感は得られないと分かっていたからかもしれない。

「ほら、突いてやる」

上に跨る時枝の腰に手を掛け勇一が腰を上下に動かしてやると、余程感じているのか、時枝の背中が仰け反った。
時枝の手が、自分の前に伸びる。
貪欲な欲望が、後ろだけじゃなく雄の部分への刺激まで求めている。