その男、激情!57

「失礼します」
「…お待ちしてました」

翌日、潤は時枝の病室を一人で訪れた。
訪問の目的が目的なだけに、照れ臭かった。

「佐々木さんは?」

時枝と目を合わせずに訊いた。

「組で仕事中です」
「…時枝さん、その、俺なんかでいいんですか? 普段してもらう側だし、黒瀬の方が上手いと思うけど」
「社長? 論外です」

きっぱりと言い切った。

「私の負担は、潤さまの方が分るでしょ?」
「…本当に、組長さんとヤる気なの?」
「顔を見るだけで済むはずが…ない…」
「愛してるんだ」
「そうですね。残念ながら、今は片想いのようですけど…。この動けない身体でも彼を強姦してやりたいぐらいには」

もう、愛、なんていう生易しいレベルじゃないのかも知れない。
多分自分は狂っているのかも知れない。
こんな身体で、自分を殺そうとした男と、交わりたいと思うぐらいには、狂っている。
ふ、と溜息とも笑みとも取れる声を洩らし、時枝が虚ろな目で天井を見る。
その顔に、潤の胸が締め付けられる。
時枝にとっての地獄は、勇一の手により死ぬことじゃなく、勇一と会えないまま一生を終えることなんだろう。

「いいよ、やろう。時枝さんには組長さんを襲う権利あるよ」

照れている場合ではないと、思った。
時枝に掛けられている布団を足首から一気に捲った。
短い丈の寝巻は太腿の付け根までしかなかった。
その下に二本伸びる時枝の脚。
一本は酷い火傷痕、一本は白い包帯が痛々しく巻かれていた。
直接間接の違いはあるが、どちらも勇一に関係のある傷だ。

「…腹が立つ、…俺、あの人が全部思い出したら、殴る」
「程々に、」

殴るなとは言わなかった。
腹を立てている部分も少なからずあるのだろう。
ただ、会いたいと想う気持ちの方が強いだけで。

「足、少し動かすね」
「どうぞ。痛みはさほどないので、お気遣いなく」

手術直後に医者が言っていた言葉を思い出す。
もし、このまま時枝が歩けなくなったら、絶対に勇一を許すものかと潤の怒りが一段と強くなる。
勇一も、今の『橋爪』になるまで、生死を彷徨い、過酷な時間を過ごしてきたと思う。
だが、どうしても側で見てきた時枝に潤は同情を覚えてしまう。
片足を抱え、ゆっくりと開いた。

「…あ、」

時枝のイメージにないものが、潤の視界に飛び込んできた。

「初めてではないでしょ? 社長もあの時、していましたから」

時枝の股間を覆う大人用のオムツ。
当然と言えば当然だ。
自力でトイレに行けない以上、看護師が下の世話をするのだから。
黒瀬が以前、潤を助ける為にチンピラどもに薬漬けにされたことがあった。
その時、中毒症状から抜ける迄の間、着用していた。

「管を通されてないだけ、マシです。どうぞ、遠慮無く脱がせて下さい」
「一気に脱がすね」

こういうことは、気兼ねすると、余計な羞恥を呼ぶ。 
一緒に風呂に入ったことも、黒瀬と二人で時枝の身体を慰めたこともある。
時枝が自分相手に羞恥など感じることはないのかもしれない。

「先程、身体を看護師に拭いてもらったばかりですが、さすがに中までというわけにはいきませんので…ゴムを使って下さい。指が汚れますから」
「ソコを気にするの? 今更じゃない? でも、時枝さんが気になるなら使うね。その為にじゃないけど、持って来てるから」
「…それ以外に必要ありますか?」
「え? もしかして、組長さんに生でさせる気だった、とか言う?」
「…はい、問題ないでしょ。全てが…欲しい」

絞り出すような時枝の声に、潤はドキッとした。
一滴残らず全部欲しいとその声は語っていた。