その男、激情!53

「ヤメロッ」
「ヤメロと言われて止めるはずないでしょ? あなた、本当に、バカになって戻ってきましたね」

橋爪の首から太腿の内側まで、潤が余す所なく容器の中身を振りかけた。
甘ったるい匂いが、橋爪の身体から立ちのぼり、部屋中に広がった。

「その液体は何だっ!」
「ココナッツミルクに蜂蜜とバターを入れたものを小型犬専用のミルクに混ぜ、少しだけマカの粉末をブレンドした、ユウイチスペシャル」

潤が笑顔で丁寧に説明をした。
橋爪の身体から漂う甘い香りに、ユウイチは期待で背中をブルブル震わせていた。

「ユウイチスペシャルだとぉおっ! ふざけるなッ。そんなもの俺に振りかけて、何をする気だっ!」

躾されている犬は『その時』を、まだか、まだかと待っている。

「分かっているくせに、確認してどうするんです? やはり、バカになって戻ってきましたね」

自分の見当が100%当たっていることは、もちろん橋爪自身も分かっていた。

「うるせぇっ、…この野郎っ、放せッ」

無駄と分かっていたはずの抵抗を、今更ながらに橋爪が始めた。

「大丈夫、あなたの夢に出て来たユウイチは知りませんが、このユウイチは、ソーセージに齧り付くより、ペロペロ舐める方が好きですから。ふふ、機嫌さえ悪くなければあなたのその存在理由のない箇所を、噛みついたりしませんから」

噛む噛まないの問題じゃないだろ。
犬に舐められるなんて冗談じゃない。
しかも、存在理由がないって、どう意味だっ。

「コケにするにも程がある。犬なんかに俺の大事な場所を提供できるかっ」
「犬なんかって、失礼だろ。組長さんが居ない間、このユウイチがどれだけ組長さんの代わりに時枝さんを慰めたと思ってるんだよ。あんたなんかより、よっぽどいい仕事するんだよ。何が大事な場所だよ。時枝さんに使う気がないなら、ホント、存在理由ないから。ソレ」

切れ気味に言いながら、潤がユウイチの側に寄る。

「ユウイチ、君の凄さを思い出させてやって」

ユウイチの背中を潤が「GO!」という掛け声と共に押した。

「シッ、シッ! 退けッ!」

黒瀬に羽交い締めされた橋爪の上半身に、ユウイチがよじ登るように前足を掛け、ペロペロと大好物のユウイチスペシャルを舐め始めた。

「擽ったいっ、ヤメロッ」

犬のざらつく舌に、ゾワゾワッと肌が粟立つ。

「ひっ、俺はお前の母親じゃないっ! そんな所、吸うなッ」

橋爪の胸の尖りを舌先で探り当てたユウイチが、チューッと吸引を始めた。

「ふふ、時枝の胸と勘違いしているのかも」
「黒瀬、それはないよ。時枝さんと組長さんじゃ体臭が違うから。きっと、ユウイチ、前に組長さんの乳首、吸った事があるんだよ」
「有り得るね。二人のベッドにユウイチも上がっていたからね。時枝だけじゃなくて、兄さんとも仲良しこよしだったのかも」
「てめぇら、勝手なこと言ってないで、この犬、何とかしろっ!」

乳首が伸びるほど吸われ痛い。
キンとした痛みが走る。 
痛いだけならまだ許せるが、我慢ならないのがそこから変な疼きが下半身に伝達することだ。

「何とかしろ、って、橋爪さんユウイチの愛撫に、興奮しているじゃないですか」

ナニっ、と視線を落とすと、朝の現象で形を変えていた物が、更に角度を上げ、先端からは露を零している。

「っる、せーっ。このバカ犬、サッサと俺から離れろッ!」

羽交い締めにされた上半身は、大して捩れもしないのに、橋爪は身体をくねらせた。