『勇一、起きろっ、いつまで寝ているつもりか』
煩いっ、俺は勇一じゃないっ。
『早く起きないと、ユウイチに大事なソコを噛みつかせるぞ』
なんだ、その小さな生き物はっ。
『行け、ユウイチ。役立たずのソーセージなんか、食いちぎってしまえ』
うわっ、ヤメロッ、
クソっ、手足の縛りを解け。
『ナニ寝ぼけたことをほざいているんだ。お前の身体は自由だろうが』
来るなっ、舌を出すなっ、
モコモコとした小さな生き物が、橋爪の股間に飛び掛かって来た。
身体が大の字に固定され動かない。
何が自由だ。
手足を拘束して、動きを封じているくせに。
第一、俺は起きているじゃないか。
『早く起きて俺の側に来ないと、ユウイチに去勢されてしまうぞ』
なんだ、このチビッ、
身体に似合わぬ牙しやがってっ!
冗談だろっ。
どうみても愛玩犬にしか見えない犬が、狂犬病を発症したかのように、涎を垂らしながら、橋爪の股間を狙っていた。
『そうか、そんなに俺が嫌で寝たふりを決め込むんなら、イケ、ユウイチ』
「ウ、ギャアアア―――ッ!」
股間に走った激痛で、橋爪の身体は飛び跳ねた。
「煩いなぁ、兄さん、どうしました」
「ハア、ハア、俺の、俺の股間がっ、……何だっ、どうして、お前がッ!」
「…組長さん? …怖い、夢でもみたの?」
「なっ、お前もいるのかっ」
右に黒瀬、左に潤と、橋爪は二人に挟まれベッドの上にいた。
「そんなことよりっ、」
橋爪は慌てて自分の股間を確認した。
布団を剥いだだけで、直ぐに自分の股間の存在を確認できた。
立派な雄が天井を見上げていた。
「ハァ、ハァ、無事だ、ある、…夢か」
夢と分かっても、痛みを感じる。
「いい歳して、夢見て大騒ぎですか? おやまあ、お元気ですね」
「…凄い、組長さん。痛そう」
黒瀬と潤の視線は、橋爪の股間だ。
そこは、見るだけで同性なら痛みを覚えるほど、見事に勃起していた。
実際、橋爪が痛みを感じているのは、夢のせいではなく朝の現象のせいだった。
「痛いんだっ。あの犬が…」
と、言い掛けて橋爪は止めた。
「何でもない」
小さな愛玩犬に襲われる夢で跳び起きたなど、男の沽券にかかわる。
「犬? 時枝さんのこと、思い出したのか?」
潤が橋爪の顔を横から覗き込む。
「何の事だ」
「犬関係で、大騒ぎするっていったら、時枝さんのことしか考えられない」
「…あいつは、犬が嫌いなのか?」
「好きなはずない。あんな残酷な目に遭わされて……覚えてないなら、いい」
潤が勇一に寄せていた顔を離す。
「残酷? 小さなモコモコに、玉でも囓られたのか」
「小さなモコモコ? それって…」
橋爪に背を向けたと思うと、布団の中から何かを引っ張り出しクルッと振り返ると
「この子?」
モコモコしたものを、橋爪の腹の上に乗せた。
「ワンッ!」
「ゥワァアッ!」
咄嗟に橋爪は、腹の上の物体を払い落とした。