その男、激情!49

「なあ、黒瀬」
「なあに?」
「組長さんさ、どこか悪いんじゃない?」
「記憶以外に?」
「おでこの傷、見ただろ。髪の毛切るまで気付かなかったけどさ、あれって、自分でやった気がする。さっきも鏡に打ち付けようとしていたけど、同じ事した傷だよ。きっと」
「精神的に不安定なのは、間違いないね」
「それに…、アン、んもう、ダメだって、話している途中なのに」

背後から悪戯を仕掛けてくる黒瀬に、潤がバシャッとお湯を掛けた。
二人は今、ジャグジーの中だ。
橋爪を名乗る勇一を、黒瀬が気絶させてしまったので、二人掛かりでベッドに運んだ。
それから今度は自分達が入浴するために、浴室に戻って来た。

「話は出来るはずだよ? 兄さんの髪型だけでも元に戻した私に、ご褒美あってもいいと思うけど?」

前に座っていた潤を、黒瀬が自分の膝の上に乗せた。 
黒瀬の中心が、潤の背中に当たる。
それは膨張している最中らしく、潤の背中に添って、ピクッ、ピクッと動く。

「ご褒美って、俺を触るぐだけ?」
「ふふ、潤と身体を密着できるだけでも、十分私にはご褒美だけど…できれば」
「できれば?」

潤が後ろの黒瀬を振り返る。

「潤の期待に応えたいな。潤の悦ぶ顔が、何よりのご褒美」
「それって、結局、黒瀬より俺の方が褒美もらったことになるじゃないかよぅ…狡いよ、いつも俺ばっかり…与えられる」
「ふふ、それがどうして、狡いの?」
「俺だって黒瀬を悦ばせたいのに」
「ふふ、逆だよ、潤。極上の悦楽を与えてもらっているのは私の方」
「本当?」
「ふふ、何を今更なことを。本当だよ。ご褒美もらってもいい?」
「うん。でも、話しも聞いて」
「もちろん。兄さんの事が気になるんだろ? ふふふ、ちょっと兄さんにジェラシーを感じちゃうけど。聞くよ」
「バカァ、何言ってるんだよぅ…続きだけどさ、」

振り返ったまま、潤は黒瀬の頭に手を回し、自分の顔に引き寄せた。
すかさず、黒瀬の唇を奪った。
続きを話すのかと思えば、潤の起した可愛い行動に、黒瀬の顔が綻ぶ。そして、凍りがちな黒瀬の心も。

「まったく、潤には、驚かされるね」

潤からのキスは、一分以上続いた。

「…黒瀬が、ジェラシーなんて言うから」
「ふふ、潤が大胆になってくれるなら、ジェラシーも悪くないね」

潤が頬を上気させたまま、黒瀬の胸板にしな垂れ掛かる。

「バカァ…」

黒瀬の手は潤の胸にぶら下がるピアスに伸びた。
潤の身体には、三箇所のピアッシングが黒瀬の手により、施されている。
全て服で隠れる場所だが、それ故に、潤は公衆の面前で裸を晒せない。
それに不便も感じなければ、不満もなかった。
あるのは、黒瀬の愛情の証で、身体を飾られているという幸福感だけだ。

「…組長さんさ、精神的なものだけじゃなくて、…あっ、ダメだって…もう少し、待って」

自分から仕掛けたキスで、身体中の神経が敏感になっていた。
特にピアスを通された部分は、少し触られただけでも、身体に電流が走るほど過敏になっていた。

「我慢して、その先を話してごらん。その我慢が、あとで堪らない悦びを運んでくるから」
「…そういうところ、黒瀬ってホント意地悪だ…ぁあん、」
「なら、ご期待に応えて、もっと意地悪になってあげよう」
「…ごめんっ、――俺が悪かったっ、…ダメェ、」

コリコリとピアスごと尖った赤い部分を指で転がされ、身体の奥まった所までむず痒くなる。
身体が黒瀬を欲し始めていた。

「ふふ、何がダメなの? 精神的なものだけじゃなくて、どうしたの?」
「…ん、…どこか、…ぁあっ、…くっ、…悪いん、じゃ、…身体も、…どこかっ、…検査、…した、方が…、ぁあっ、んもう、…ギブ」

身を捩り、悶えながらも、伝えたいことの大筋は言えた。
黒瀬の指に翻弄され、すでに溶けかかっている身体から黒瀬の指を振り払うと、潤が体勢を変えた。

「ちゃんと話は聞いてるよ? 兄さんの身体に異変があるって言いたいんだろ? 頭痛も酷いみたいだしね」

黒瀬の方を向いて、座り直した潤に、黒瀬の手は伸びてこなかった。
潤の指が、黒瀬の胸に残るスプーン型の火傷をなぞる。

「…もう、話は終わったから、」

縁を赤く染めた目で、潤が黒瀬を見つめる。

「だから?」
「…意地悪していいぞ」

両手を黒瀬の首に回し、潤が黒瀬を誘った。

「しているけど?」

黒瀬が、ふふ、と笑っている。

「…黒瀬、今、してない…」

潤が真っ赤に熟した乳首を黒瀬の胸にあて、擦りつけた。

「意地悪しているじゃない。触って欲しくて堪らない潤を、ほったらかし。ふふ、最高の意地悪」
「…そういうこと、言うんだ。なら、優しくして」
「優しいだけでいいの?」

うん、と潤は首を縦に振った後で、慌てて左右にふり直した。

「…イヤ、…激しくがいい…、凄く激しく愛されたい…、俺の目の前には、俺のことちゃんと俺だとわかっている黒瀬が存在しているから…それって、当たり前みたいになってるけど」

当たり前じゃない、と潤は痛感していた。
勇一のことが、潤に過去の辛い出来事を、鮮明に思い出させていた。