その男、激情!40

痛い、酷く頭が痛む。
一体俺の身体はどうなってるんだ…
ここは?
―――ここはどこだ…

橋爪が瞼を上げ、ぼんやりと入って来る視界を眼球だけで見渡した。
温かい布団に包まれ、ベッドの中にいる。
ホテルの安っぽい布団ではない。
高級羽毛布団の中だ。
ベッドも広い。キングサイズのようだ。
部屋はというと、シンプルだが、一つ一つの調度品が高級品。アジアとヨーロッパをミックスさせたテイストは、どこか無国籍な雰囲気を醸し出していた。

―――どこなんだ?

頭痛が橋爪の思考を邪魔していた。
最後の記憶を思い出そうとしてるが、それをズキズキと脈打つ痛みが邪魔をする。
誰かが近付いてくる音がした。
横になったまま、慌てて携帯しているはずの銃を探した。
そこで、橋爪は愕然とした。

「ないっ、…銃も、服も…。裸じゃないかっ!」

布団が心地良かったのは、地肌に直接纏っていたからだと、ここで気付く。
ガバッと上半身を起し、自分の服がどこにあるのか、今度は首を回して見渡した。
裸なのは、上半身だけではなく下半身もだった。
下着の一枚も着けてないのだ。
足音は、更に近付いてくる。
どうしたものかと考えた。
全裸で武器の一つも持ってない。
武器の代りになりそうな物が、部屋の中にはなかった。 
武器がなければ、素手で対処するしかない。
幸いその部屋のドアは内向きに開くタイプだ。
ドアの陰になるよう、橋爪は裸身のまま立った。

「組長さん、」

若い男の声がし、ドアがゆっくりと開いた。
そして…。

「声を出すなっ!」
「…くっ、」

橋爪は入って来た男の首に背後から腕を回し、締め上げた。
腕を首から離そうと藻掻く若い男を絞めた腕で持ち上げ、自分が寝ていたベッドまで運ぶと放り投げた。

「…ハァ、…ハァ、…死ぬかと思ったァ……」
「心配するな。お前は死ぬ。俺が殺すからな。あっという間に天国に行けるさ」
「…ハア、…イヤだな組長さん。久しぶりの再会なのに、脅さないでよ。あぁ、冗談にしては、タチが悪いよ…うわっ」

ベッドに沈む若い男の上に、橋爪は馬乗りになった。

「組長じゃない。橋爪だ」
「違う、組長さんだ。その身体は、桐生勇一だっ!」

生意気にも言い返してきた。
橋爪が今度は両の掌で、男の首を絞めにかかった。

「…見たことある顔だ。あぁ、黒瀬と一緒にいた男だな」

クロセのビルを観察していた時に見た顔だった。

「…くっ、るしいっ、…ゲホッ、」
「俺の服と銃をどこにやったか、言え」

いつもの橋爪なら、背後に人が迫ってくれば音がしなくても察知できるのだが、今は違った。
相変わらず続いている頭痛のせいだ。

「銃なら、ここにありますよ」

聞き覚えのある声と共に、後頭部に硬い物が押し付けられた。

「私の潤から、さっさと手を離して頂けません? 全裸で馬乗りとは、殺し屋だけでなく、強姦魔にまで成り下がったのですか?」
「…お前は…、」
「あなたの異母兄弟。残念ながら、半分も血が繋がってる可愛いあなたの弟ですよ。兄さん」
「勝手に人を兄弟に仕立てるなっ! 黒瀬武史ッ」
「いい加減にして下さい。さっさと手を離して下さい。私が撃たないとでも思ってます? ふふ、あなたと潤なら、間違いなく潤を取りますよ」

怒りと笑みが交じった口調。
それがゾーッと怖気が沸き立つぐらい不気味で、橋爪は手を緩めた。