その男、激情!34

「強姦した」
「嘘だっ!」
「ああ、嘘だ。安心しろ」
「それも嘘だっ! あんた、昔から俺を狙ってた…久しぶりに俺をみて、きっと…きっと…オッサンッ…オッサンッ、…ごめんよ…」
「泣くな、くそガキ。昔から? 今日初めて会ったんだ。昔も今もあるか、ボケ」
「人を犯っといて、そんな言い訳あるかよっ! この薄らボケのド変態っ! …イテェッ」
橋爪が鎖を引っ張った。
壁を背に座った状態の青年がバランスを崩し転がった。
尻の丸みの上に、橋爪が靴を履いたままの足を載せた。

「何すんだよっ! 変態っ!」
「お前は、ホモだろ」
「うっせ―よ、そんなこと、今更訊くなッ!」
「結構太いのぶち込まれているよな」

青年の双丘を割るように、踏みつけたままの足を動かすと割れ目から薄紫の窄みが覗く。

「不感症か?」
「んなはずないだろっ!」
「じゃあ、自分のケツが掘られた直後かそうじゃないかぐらい、分かるだろ、くそガキ」

橋爪は靴の先を割れ目に器用に押し込むと、薄紫の窄みを突いた。

「…ツっ、ヤメロッ! 変態っ! 触るなっ!」
「ふん、感覚はあるらしい。誰がケツの青いガキの孔に興味など持つか、馬鹿も休み休みいえっ」
「っるせ~よっ! ん…掘られてない? 俺のケツはまだオッサンのモノ?」
「どこのオッサンが相手か知らないが、その年でホモとは可哀想にな。女の良さを知らないのか」
「変態のくせに、俺を馬鹿にするのか? ホモはあんただろ。俺のケツだって狙っていたくせにっ!」
「何だその根拠のない被害妄想は」
「都合の悪い事、忘れたフリするんじゃねえぞ、このド変態っ! オッサンの前に俺に手を出そうとしてたくせにっ。変な格好してるからって、忘れたとは言わせないぞっ!」
「お前もか。揃いも揃って人を知った風に言うな。胸くそ悪い」

橋爪が足を青年の尻から降ろすと、軽く脇腹を蹴飛ばした。
痛みなどないはずだが、わざとらしく大袈裟に青年が「うっ!」と唸る。

「念の為に訊いてやる。お前は俺を誰と勘違いしているんだ? 間違っても桐生の組長とか言うなよ?」
「正解も間違いもあるかよっ。何年かぶりに現われたと思ったら、変な格好しやがってっ! ふん、昼ドラじゃあるまいし、記憶ありません、なんてほざくんじゃねえぞ、桐生勇一ッ!」

ギッと床の上から青年が橋爪を怒りに満ちた目で睨んだ。

「…桐生…勇一」

昨夜同様、激しい頭痛が橋爪を襲う。

「…それは、桐生の前の組長の名だろっ、…俺がそうだと、言いたいのか…」
「違うとは言わせね~ぞ。髪を伸そうと変な服装しようと、あんた、前の組長で時枝のオヤジの彼氏で、俺のオッサンの元上司だっ!」
「…黙れっ!」

声と同時に、橋爪が所持していた銃が火を噴いた。

「ヒィッ!」

橋爪がろくに青年の場所を確認しないで発砲したのだ。
幸い、弾は青年の頬一ミリの所を通過し壁に当たった為、青年に怪我はなかった。

「何が、恋人だっ! 何が組長だっ! 俺は殺し屋だ。時枝勝貴を殺しに台湾から来た橋爪だ。覚えておけっ!」

そのまま、橋爪は頭痛に耐えきれず、壁に背を預け床に座り込んだ。
青年と並んだ形になる。

「…もしかして、昨日時枝のオヤジ撃ったの…あんた?」

発砲が余程怖かったのか、青年の口調がけんか腰ではなくなった。

「――ああ。今回はそれで来日したんだ」
「…嘘だろ、…そりゃ、オッサンが泣くわけだわ……あんだけ、あんた達のこと、応援してたのに……電話越しで泣いていた理由はそこかよ……花粉症じゃなかったのか…」
「いい加減にしろっ、今度こそ、心臓打ち抜くぞっ!」

座ったまま、橋爪は銃口を横の青年に向けた。

「…マジなんだ…マジ、覚えてないんだ…あんた、可哀想だ」
「覚える? …俺は桐生など……」
「ちょ、ちょっと、あんた、大丈夫かっ!」

汗を掻き青い顔で、意識を失いかけている橋爪に、囚われの身の青年が焦る。

「…し、ら……」

下半身剥き出しで座る青年の太腿に、橋爪が顔を埋めるように倒れ込んだ。

「何だよ、この展開っ! 信じられね~」

重い橋爪の身体を、青年が何とか自分の太腿から外そうとした時だった。
ドタドタドタという数人の足跡が近付いてきた。

「今度は何事だよっ!」

身の隠し場所もないコンクリートの打ちっ放しの部屋。
動こうにも、腿の上の橋爪がビクともしない。

「これって、ヤバイ展開…だよなっ! オッサァアアアンッ!」

叫んだのと同時に、出入り口として一つしかないドアが、激しい音と共に前に倒れた。