その男、激情!24

「黒瀬!」

背後から潤が呼び止める。

「どこ行くんだよ」
「ちょっと院長先生へご挨拶に。潤は入院の事務手続きを。秘書さんはそういうことにも精通しているよね? 終わったら時枝の側にいてあげて。う~~ん、そこのゴリラは仕事あるよね。分っていると思うけど」
「…警察ですか?」
「そろそろご到着じゃない? 本人はしゃべれないだろうし、対応よろしく」
「お任せを」

銃撃され救急車で運ばれたのだ。
警察が動かないはずがない。
既に銃撃現場での検証は終わっているはずだ。
警察が握っている情報を引き出すことも、警察に必要以上、時枝や桐生に張り付かれないようにすることも、佐々木のすべき仕事だ。
潤と佐々木、そして黒瀬、三方に別れ、今すべきことに取り掛かった。

 

***

 

「見張りが寝て、どうする」

白衣に聴診器をぶら下げた医師が、壁にもたれて座る男二人を見下ろし呆れ気味に呟くと、『時枝勝貴』と書かれた病室の中に入った。

「お休みのようですね、時枝さん」

照明を点けることなく、暗い病室を懐中電灯で照らしながら進む。
懐中電灯の灯りをベッドの上に這わすと、包帯を巻かれた頭部が見えた。
仰向きで寝ているようだが、首は横を向いている。 
傷口を無意識に庇っているのだろう。

「夢の中ですか?」

医師が白衣の深いポケットに手を入れ、何かを漁っている。

「寝る事は良いことですよ。このまま、永遠に寝て下さいね」

医師が取りだしたのは、ボールペンでも体温計でも注射器でもなく、サイレンサー付の拳銃だった。
銃口を布団の上から心臓部分に突き付ける。

「世話を掛けやがって、この野郎」

低音の声で唸るように呟くと、引き金に手を掛けた。
その瞬間、布団の中からニュッと手が出て来て拳銃を持つ手をギュッと掴まれ捻り上げられた。

「なっ!」
「お医者様に、こんな物騒な物は必要ないと思いますが?」

布団が跳ね上がり、時枝が…違う、時枝でなかった…転げ落ちた懐中電灯が照らしたのは、包帯を一部巻いているが、時枝とは明らかに違うウエーブがかった長髪の男だった。
グッと更に掴まれた手を捻られる。
捻りながら、男はベッドから降りた。
そして、医師の顔から変装用に掛けてあったメガネとマスクを外した。

「お久しぶりですね、まさかこんな形で再会出来るとは思ってもいませんでしたよ、兄さん」

その瞬間、病室の照明が付き、二人を煌々とした灯りが照らした。

「…組長…、―――そんなぁあ…、バカな事が…」

入口に佐々木が立っていた。
病室の照明スイッチを指で押したまま、驚愕のあまり、これ以上ないぐらい目を見開いている。
通路で座っていた男の一人が佐々木だった。
黒瀬の命令で、不審者をわざと病室内へ入れたのだ。 
もちろん、時枝は安全な場所にいる。
これは銃撃犯がトドメを刺しに来るのを見越しての黒瀬が仕掛けた罠だった。
意外と身近なヤツが犯人かも、と黒瀬から聞かされていた佐々木だったが、それが先代組長だとは思いもよらなかった。

「―――どうして、この男は、…組長と同じ顔をしているんですかっ! ボンッ!」
「本人だからじゃない?」
「嘘だぁあ…、そんなはず…、――銃撃犯が勇一組長? 何かの間違いだっ!」

佐々木が、吠える。