秘書の嫁入り 青い鳥(10)

☆少し長いです…携帯・スマホ等からの方、ごめんなさいm(__)m☆

「鳥はこの際、関係ありません。ようは、自分の幸せはどこへ行ってしまったんだ、ってことでしょ。それを少女が使うような比喩を使って、時枝が社内で泣きながら呟いたのです。しかも、いつまで経っても涙を止めないので、仮眠室に押し込めたら、俺が仕事している間に寝たようです。苦しそうにしてたので、この俺が、親切にもシャツのボタンを外してやったら、こともあろうか、俺の唇を奪っての自慰行為」

弱冠の虚言も含まれているが、ほぼ間違いない内容を黒瀬が、男に伝えた。

「さしずめ、『青い鳥』は兄さんのことじゃないんですか? 兄さん、いつ時枝から逃げたのですか? 可哀想に…ふふ…欲求不満みたいですよ。まあ、この場合、一番可哀想で、迷惑を被っているのは、俺の潤なんですけどね」

黒瀬の目が時枝の股間に向く。
つられ、男も一緒に視線を向けた。
相変わらず、時枝の手が動いている。
寝ているからか動きが緩慢で、自慰というより弄っているだけのようだ。
あれじゃ、いつまでたってもイけないだろうと、二人とも内心では思っていた。

「どうして、お前の嫁が迷惑なんだ? 関係ないだろ」

イライラしているのか、男が煙草を取りだし、口に咥えた。
火を付けようとした瞬間、黒瀬の手が煙草を引き抜いた。

「兄さん、ここ、禁煙です。自分が欲求不満だからって、満たされている潤を姑か小姑の如くいびられたのでは、堪ったもんじゃないでしょ? 上司なだけに、潤は耐えるしかない。俺だって、仕事だ、教育だって言われれば、黙って見守るしかないですし」
「ふん、お前が黙って見守るようなタマか? だいたい、仮にだ、勝貴が欲求不満だとしたら、それは社長であるお前のせいじゃないのか? 俺が連絡取りたくても、会おうとしても、時間がないと、逃げられてばかりだ。どれだけ、仕事をさせてるんだ。少しは負担を減らしてやれ」

男が反撃に出た。

「やだな、兄さん。俺が仕事を押しつけていると言いたいの? 俺が仕事を押しつけられることはあっても、俺が時枝に押しつけることは…たまにしかない。もっとも、出来る男は時間は自分で作るものだよ。兄さんは、時枝が無能だと言いたいわけ? 時間がないっていうのは、口実じゃないの? 兄さん、思い当たる節は?」

口で敵う相手ではなかった。
結局自分に回ってくる。
反撃したことを男は後悔した。

「俺は逃げてもいないし、避けられる覚えもない。もう、お前との話はいいだろ。勝貴、連れて帰る」
「桐生組にですか?」
「組はマズイだろ。俺のマンションだ」

組というのは、幼稚園の組でもなければ、よくある建築業の屋号でもない。
れっきとした極道の組だ。
そう、この男、黒瀬の兄であり、ヤクザの組長を肩書きに持つ、その道一筋の男、桐生勇一なのだ。
黒瀬と姓が違うのは、黒瀬が母方の姓を名乗っているからである。

「分かりました。じゃあ、目立たないように、裏から帰って下さい。兄さんの愛情で元に戻るといいですけどね。ふふ、愛があればの話ですが。なんなら、監禁して、欲求不満を解消してあげるってのも、悪くないかもしれませんね」

お前じゃあるまいし、監禁なんかするかよっ、と兄勇一は、思ったが、口に出したりしない。

「武史、タオルかテッシュを貸せ」

勇一が何をしようとしているのか、黒瀬には、ピンと来た。ボックスティッシュを渡してやると、勇一が時枝の顔を軽く叩いた。

「勝貴、起きろ」
「…ん…、……勇一…夢か……」
「勝貴っ、しっかりしろ。寝ぼけやがって」
「…勇一……いい男に見える…やっぱり…夢か……うっ……勇一……浮気者ッ……」

うっすら目を開けているものの、現実と夢との狭間にいるらしい。

「ほら、やっぱり、兄さんが原因じゃないですか。いつ、浮気したのですか?」
「浮気なんて、するかっ!」
「だって、時枝、泣いてますよ?」

寝とぼけた顔に、また涙の筋が出来ていた。

「…お前なんか……うっ…夢の中まで…意地が悪い……俺をイかせようともしないっ!」
「オイオイ、触っているのは俺じゃないだろうが。自分でヤッてるんだろ。ほら、貸してみな」

勇一が時枝の上半身を起こし胸に抱いたまま、時枝の手を下半身から退けると、自分の手で扱いてやる。

「な、上手いだろ。さっさとイけ」
「…あっ……イイッ…あ、ソコ…、あ、あ、」

勇一の手を感じただけで、時枝のソコは爆発寸前になる。

「武史、向こう向いてろ」
「ハイハイ」

手の中のモノが、弾けようとした瞬間、勇一は腰を屈め、口で、時枝の吐き出すモノを全て受け止めた。
自分の口の周りと、時枝の先端を綺麗にティッシュで拭き取ると、下着の中に収め、ズボンのファスナーを上げた。

「スッキリしたか? 目が覚めたか?」
「…勇一? どうした?」
「どうしたじゃ、ねえだろ。心配かけやがって」
「…あれ…、ここは…」
「時枝、今からお前、休みだから。兄さんと帰って。社長命令。いい?」
「社長、何を言ってるんですかっ! 仕事があるでしょっ!一体私は……どうして、仮眠室に? あっ、専務との面会っ!」

立ち上がり、慌ててネクタイを締め始めた時枝を見て、黒瀬は呟いた。

「兄さん、分かってますよね?」
「ああ、任せておけ」

勇一が時枝の名を呼んだ。

「何ですか? 忙しいの…クッ」

勇一の拳が時枝の腹を襲う。
起きたばかりの時枝だったが、あっけなく気絶させられた。
今度は完全に意識が飛んでいるので、変に右手が動くこともなかった。

「持って帰るのに、目立ちますね。箱詰めしましょうか?」
「持って帰るって、コレ、人間だろうが。お前のことだ。秘密の通路とか、あるんじゃないのか?」
「秘密ってことはないですが、外の非常階段なら、普段誰も使っていませんが、但し、ここ七階ですよ? 時枝落としたら、死にますけど」
「そんときゃ、俺も一緒に落ちてやるさ。明日も休みにしてやれ」

どうしようかなと、黒瀬がわざとらしく悩んでみせる。

「時枝が休みたいと言うなら、いいですよ。俺が言うと、仕事優先って言われそうですし。自分から休みたいと、兄さんが言わせて下さい。ふふ、愛の力ってやつで。もっとも、愛があればの話ですけど」
「じゃあ、決まりだ。勝貴は明日出勤しない。そのつもりで、仕事の采配しろよ、社長さん」

よいしょと、勇一が時枝を肩に担ぐ。
思ったより、軽い。
ブラコン気味の勇一なのだが目の前の可愛いはずの弟が、憎たらしく思えた。
きっと、この弟が原因で、痩せたに違いない。

「やだな、兄さん、顔が怖いですよ。ここは組じゃないんですから、スマイル、スマイル。じゃあ、仕事がありますので。ふふ、これで、今日は潤のストレスが軽減します。明日もですね」

時枝を悪の根源みたいに言われ、面白くない勇一だった。
ここを早く出て、時枝とゆっくり時間を過ごしたい。
肩の上の時枝を落とさないよう注意しながら、非常階段を駆け下りた。