秘書の嫁入り 夢(28)

凄い…と、潤が小さく溜息を漏らす。

「何が凄いの?」

先に食べ終わった黒瀬が、ブランディ入りのコーヒー片手に、潤に問う。

「だって、時枝さん、ユウイチまで使って組長さんを飼い慣らしているっていうか、懐柔しているっていうか」
「きっと風俗の子を相手にしたことが許せなかったんだよ…ふふ、結構時枝は執念深いから。兄さん完全復活だね」
「うん。ユウイチとも仲良くしてくれると良いけど」
「大丈夫じゃない? すでに仲良くやってる」

スピーカーからの声を聞くと、確かに勇一とユウイチはタッグを組んだ感がある。

「あ~あ~、やっぱり、教育上よくないと思うんだけど。ユウイチ、どんな成犬になるのか、凄く心配になってきた。…あのさ、」

言いにくそうに、上目使いで潤が黒瀬を見る。

「なに?」
「…う~ん、やっぱり、いい。何でもない」
「潤、嘘は駄目。何でもないこと、ないだろ。あるんだろ? ふふ、だいたい予想は付くけど」
「予想が付くなら、言わなくても良いじゃん」
「駄目。潤の可愛いお口から聞きたい」
「言っても、俺のこと、軽蔑しない? 変態って思わない?」
「私が潤のことを? 変態さんの潤なんて、可愛いに決まっている。もっと好きになるかも」

本心だった。
潤が自分に見せる痴態は、どんな姿でも可愛いのだ。
むしろ、もっと激しく色々としてみたい黒瀬だが、潤を気遣い黒瀬なりに抑えていた。

「…じゃあ、言うけど…、ユウイチの舌、気持ちいいのかな。ザラザラしているのは分るけど…その…胸とか…舐められたら…」
「興味がある?」

黒瀬の目の奥が、妖しく光った。

「…興味っていうか…、時枝さん、凄く感じているみたいだから……あ、もちろん、黒瀬が一番だよ」
「ふふ、そんなこと、疑ってないよ。アイテムとしてだろ? 兄さんとは違うから、アイテムにジェラシーは感じないよ。大型犬は危ないから小型犬なら飼ってもいいけど」

黒瀬の言う危ないとは、潤が犬に犯されるという意味である。
通常、そんなことはあり得ないが、寝室に入れ睦み事に参加させるなら、その危険はある。
現にそういう風に仕込まれた犬たちに、時枝は酷い犯され方をした。

「…でも、世話をちゃんとできるかな。仕事も半人前なのに…。それに、興味だけで、気持ちいいかどうかも、分らないし……」
「試せばいい。行こう」

黒瀬がコーヒーカップを置き、潤の腕を掴み、立たせるとそのまま歩き出した。

「…黒瀬っ、ちょっと待ってよっ! 試すって、一体…」
「ふふ、言葉通りだよ。気持ちいいかどうなのか、実体験してみないとね」
「実体験って…、ユウイチは、取り込み中だよっ!」
「ちょっと、兄さんが邪魔だけど、時枝とユウイチとはこの間、一緒に楽しんだじゃない? 割り込んでも問題ないよ」
「駄目だよっ! 折角、あの二人、元の鞘に収まったのに…邪魔したくないよ」
「潤は、あの二人が今宵限りだと思っているの? 違うよね?」

黒瀬が立ち止まった。
少し険ののある言い方に、潤が自分の過ちに気付く。

「…思っていない。ずっと続くはず…」

今度はニコリと、満面の笑みを黒瀬は潤に向けた。

「そういうこと。ちょっとぐらい、余興があった方が、あの二人には丁度いいんじゃない?」
「…でも、俺……、まだ、シャワーも浴びてないのに…」
「ユウイチは、きっと潤の汗の匂い大好きだと思うけど? 潤の匂いはそそられるから」
「…バカ……、恥ずかしいこと言うなよ。…俺も黒瀬の匂い大好き」

ポッと潤が頬を染めた所で、黒瀬が客間に向ってまた歩き始めた。

「お邪魔しますね」

アンアン喘ぐ時枝と、ハアハア息づかいの荒い勇一と、ク~~ンと可愛い声を洩らしているユウイチ。
三位一体の営みに黒瀬の声が割り込んだ。
時枝と合体中の勇一が、チラッと黒瀬の方を見たが、それどころじゃないと視線を戻した。
ユウイチも黒瀬と潤の姿を確認したが、今は時枝の身体で遊ぶ方が楽しいらしく、興味がないといった感じだ。
時枝に至っては、黒瀬の声にも気付いていなかった。

「あの人達、ちょっと、失礼じゃない? ふふ、ユウイチ、きっと時枝より潤に興奮するよ。潤、おいで」

弾むベッドの端に黒瀬が腰掛け、潤のシャツのボタンを外しにかかる。