秘書の嫁入り 青い鳥(7)

「時枝室長!」

昼休みを終え、戻ってきた時枝を、専務秘書の青柳が困り果てた様子で待ち受けていた。

「どうしました? 青柳君」
「社長に面会したいのですが…。専務から言付けをお預かりしてまして。内線が繋がらないものですから」
「いないのですか? おかしいですね」
「いえ、社長室にはいらっしゃるようなのですが…。内線を切っておられるようで、出てくれません。社長室には鍵が掛かってまして、仮眠中かと思いお待ちしておりましたが、中からドタドタいう音や、幽霊の呻き声のような声が聞こえてきて…、大丈夫なんでしょうか?」

青柳の話で時枝の頭に浮かんだことは、ラブホテルの「ご休憩」の文字だった。
はは、まさか…いくらなんでも、社内でソコまでは…ははは…。

「分かりました。専務の言付けは機密事項ですか? そうでなければ、私がお伝えしときましょう」
「機密ではありませんが、急ぎます。室長、お願いできますか? 」
「三十分以内なら間に合いますか?」
「ええ。専務の提案したS社の買収の件で話をしたいとのことです」
「わかりました。専務は確かその件で、午後から大阪へ出張でしたね。その前にお会いしたいということでしょう。時間は私が作りましょう。じゃあ、君は専務に三十分待つように伝えて下さい」

青柳を専務の元に帰すと、一応社長室をノックしてみる。
応答はない。
ドアノブに手を掛けてみた。
やはり、開かない。
ドアに耳を近付けると、微かに人の声が聞こえる。
しょうがないと、時枝は自分のデスクから社長室の鍵を取りだし、解錠した。
背後に他の社員がいないことを確認した上で、ドアを押した。

「・・・」

予想はしていたが…あまりに予想通りの光景に……

「エヘン」

ここで大声をあげたところで…過去の経験から無駄なことは分かっている。
感情的になっては、負けなのだ。
怒りを無理矢理鎮め、冷静に対処しようと努めた。

「ぁあっ、黒瀬ッ…」

来客用のソファのスプリングが軋む音と、潤の腰の動きが連動していた。
潤は全く時枝の存在に気が付いてはいない。
一方、潤を下から支えている男は、時枝が入って来たことに気付いていた。
時枝の空咳に、視線を一度は向けたのだ。
しかし、それで終わった。
時枝を無視し、行為に没頭している。
こんなことで、負ける時枝ではなかった。
まだ密室なだけ、この二人にしてはマシな方なのだ。
酷い時など、イギリスから日本に戻る飛行機の中ということもあった。
それに比べれば社内とはいえ、密室でコトに及ぶなんぞ、この二人にしては可愛いものである。
が、可愛いことと許されることは別の問題で、時枝が今しなければならないことは、盛りの付いた犬と化した二人を引き離すことだった。
社長の黒瀬より扱いやすい潤にターゲットを絞ると、黒瀬に騎乗位で跨っている潤の視界、ど真ん中に移動した。
腕を組み仁王立ちで潤を睨み付けた。
アンアンと喘ぎながら、閉じていた目を潤が「イク~」と叫びながら、開けた瞬間、時枝が冷たく一言。

「勝手にどこにでも行きなさい。市ノ瀬潤」

仕事仕様の名で言い放った。

「ひっ、出たッぁあああっ!」

爆ぜた瞬間…、潤の視界に時枝の顔が飛び込んできた。

「ふふ、潤、出たのは、潤の飛沫かそれとも幽霊か、どっち?」

自分が放出したものが黒瀬のシャツを汚していたが、そんなことお構いなしに潤は黒瀬の胸に顔を伏せた。

「…時枝室長…が…出たッ」
「なに人をお化けみたいに言っているのですか。さっさと社長から降りなさい。新人、ここは会社ですよ」
「スミッ、申し訳ございません!」

潤が黒瀬から降りようと腰を浮かした瞬間、黒瀬の手によって、また降ろされた。

「駄目ダメ、まだ私がイッてないよ?」
「…黒瀬~~~、でも…、」
「自分だけイッて、私はほったらかしかい?」

胸のクリップは、もう外されていたが、潤の左右の乳首にはアメジストのピアスが飾られている。
二つとも黒瀬から贈られたものだ。
そのピアスの小さな輪っか部分を黒瀬の指が、お仕置きと言わんばかりに引っ張った。

「あんッ…ばかっ」

潤の反応が可愛くて、まだまだ潤の中に留まっていたい黒瀬だった。

「時枝、何の権利があって、邪魔をする?」
「何の権利? そんなの分かりきっていることでしょ。秘書の権利です。仕事中です。もう、昼休みは終わってます。新人を仕事に戻して下さい。あと、社長にも仕事です。今から三十分以内に専務を呼びますから。専務に、その新人の淫らな姿を見せるつもりですか?」

「やれやれ、時枝は仕事の鬼だ。ふふ、俺に仕事させたかったら、ちょっと、向こう向いててくれる?」

俺がいるのに、最後までヤろうってことか?

「出て行ってくれるのが、一番なんだけど?」

そんなことしたら、これ幸いと、自分がイッた後直ぐにまた始めるに違いない。

「ここにいます。サッサと終わらせて下さい」

二人を見張っているしかない。

 

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