「知りたい?」
「知りたい!」
潤が身を乗り出した。
「…知りたくありません」
ユウイチと仲良しと黒瀬が言った段階で、時枝には嫌な予感がしていた。
「ふふ、ユウイチが全裸の時枝と遊んでいる写真を刷り込んだカード。特に、ユウイチが好きなウィンナーを美味しそうに舐めているところ。ぼかし、修正なし。もちろん、時枝は恍惚の表情を浮かべているの。どう?」
得意気に黒瀬が説明した。
「――黒瀬…、」
「―――社長……、」
二人して、黒瀬を呼びながら、テーブルに手を付き立ち上がった。
「最高っ!」
「最悪ですっ!」
そして同時に正反対の感想を叫んだ。
「凄いっ! 黒瀬、天才っ! そうだよ、風俗で遊ぶような組長さんには、それぐらいショッキングな招待状の方がいいよ」
「潤さままで、なんですかっ! 誰が一体、ソレ、撮るんですか。あなたのことだ、まさかセルフタイマーでとは言わないでしょ! ご自分がシャッター切るつもりでしょっ!」
時枝が激昂している。
「時枝、ユウイチだけがいいの? 一人と一匹の世界に浸りたいとか? 撮影会じゃなくて、本物の危ない世界? へ~、そこまで仲良しさんになったんだ。もしかして、人間の勇一はお払い箱?」
「な、な、な、ナニを、バカな事をッ。勇一が一番に決まってるでしょっ!」
「だって、時枝がセルフタイマーとか言うから。てっきりユウイチだけで、楽しみたいのかと」
「そんなはず、ないでしょっ! ええ、撮影会で結構ですっ! どうぞ、お好きにお撮り下さいっ!」
結局、時枝は黒瀬に乗せられ、撮影の許可をしてしまった。
「ふふ、じゃあ、善は急げということで、今夜中に撮ろう。ユウイチ、おいで」
食事を終えテーブルの下で寝ていたユウイチが、黒瀬の膝に載る。
黒瀬には緊張するのか、顔を舐めることなく行儀がいい。
顔を見上げ、次の命令を待っている。
「ユウイチ、今日は、大仕事だからね。頑張ったら、ご褒美に最高級のドッグフードを買ってきてあげるからね。いい仕事しなさい」
「ワンッ」
言葉の意味などわかるはずないだろうが、はい、と張り切って返事をしているように見える。
撮影は黒瀬と潤の入浴後と決まり、食事の後片付けを終えた時枝は、ユウイチと共に一階下の自分の部屋へ戻った。
「ユウイチ、勇一はルミと遊んでいるんだと。どう思う? 俺には勃たないくせに……。勇一が来たら、お前、勇一のソコ、噛んでやるか? ……俺のは噛むなよ…噛んだら、絶交だからな…はあ…全く武史のヤツ……ろくなこと言い出さないよな……」
あの場所で、犬たちに犯された傷か癒えたわけではなかった。
今でもユウイチ以外の犬は、小型犬でも苦手だ。
だが発作は起さないぐらいには、なった。
自分がユウイチと全裸で接触している写真を見て、勇一はどう思うだろうか。
呆れ果てるか、憤りを感じるか、もしくは自分に欲情してくれるか。
大事にされるだけの生殺しはもう耐えられない。
傷を抉ってもいいから、身体を重ねたかった。
勇一が抱けないなら、自分が抱いてもいい。
恐いのは、それすら拒否された時の自分の受けるショックだ。
黒瀬の思惑どおり上手くいくのだろうか?
いくのなら、恥ずかしい姿を黒瀬や潤に晒しても、構わない…
「ユウイチ、勇一の下半身を直撃するぐらい、いい写真にするんだからな。俺を乱れさせろよ? どうせ、死ぬほど恥ずかしいんだから…二人の視線を忘れるぐらい、気持ち良くしてくれよ?」
時枝は自ら、冷蔵庫の中からバターやジャムやユウイチの大好物のカスタードクリームを取りだし寝室のサイドテーブルに並べた。