「時枝を殺すつもりですか? 見ても手掛かり一つ探せないあなたより、俺が冷静に見た方が早いでしょ。もしかしたら、こうしている間にも、時枝は更に酷い目に遭ってるかもしれませんよ。一秒を争うかも知れないってこと、分ってます? 佐々木っ、」
黒瀬が佐々木を呼びつけた。
「この、役立たずの組長さんを、俺から離して。しっかり、邪魔できないよう、押さえつけておいて。潤も、見張っててね」
「黒瀬…、見て、平気か? 組長さんみたいに、ならないか?」
心配そうに潤が訊く。
「ふふ、私を誰だと思っているの? 潤の愛する旦那だろ? 時枝にそこまでの愛はないから、見ても平気。戻ってくるまで、兄さんをヨロシクね。なんなら、ロープで縛ってもいいからね」
「…いや、そこまでは…」
黒瀬は二人に勇一を預けると、勇一の寝室へと急いだ。
「なるほどね、あんな色気のない男相手にここまで、しますか。兄さんが正視できなくてもしょうがない…そんなことより」
全て見終わった黒瀬がDVDを手に、勇一達がいる部屋へ戻って来た。
「しっかりして下さい。兄さん。時枝が戻ってきます。いや、もう、戻って来ているかもしれない」
黒瀬の発言に、勇一以下三人が「え?」と呑込めていない表情を浮かべた。
「合成された音声で最後に『使い物にならなくなった廃棄物を今夜お返しします。転がっていますので、野犬に食われる前に拾い上げ下さい』と入っていたよ。佐々木、監視カメラの画像、見せて」
本宅には塀を沿うように監視カメラが数台設置している。
警備会社が監視しているが、それとは別に本宅内でも画像は録画再生できるようになっている。
「はい、」
黒瀬と三人が別棟の管理室へ向う。
「変わったことは?」
画像を監視している者に、佐々木が訊いた。
「特に、何もありませんが」
「ちょっと、貸してくれる?」
数台のモニターのコントローラーを黒瀬がガチャガチャと操作する。
「…裏門の画像、これ、今日の物じゃない。カメラ、壊されてます。ここに映っている画像は昨日のものですよ。確認だけど、ダイダイは、いつもどこから出入りしているの?」
黒瀬が佐々木に確認する。
「もちろん、裏門です」
「出ていった画像は映っているが、服も今日のとは違う。DVDを持って戻ってきた画像もない。日付は今日になっているが、画像は今日じゃない。壊されたというより、特殊な細工がされてますね、なかなか頭のイイ人間のようですね。わざわざ裏門のカメラを弄ってあるということは…」
一緒に来ていた勇一が、管理室から飛び出した。
黒瀬、潤、佐々木が懐中電灯を手に後を追う。
「勝貴っ! どこだっ!」
項垂れ、泣き崩れていた勇一はもういなかった。
鬼が戻ってきたように、恐ろしい形相で裏門の外から庭園内を時枝を見つけるために走り回る。
黒瀬と潤、佐々木も広い庭園内を駆け回った。
「…黒瀬――っ! 組長さんっ!」
潤の甲高い叫び声が庭園内に響き渡った。
本宅内のゴミを収集している場所で、潤が不審な黒い物体を発見した。
野良犬がクンクンとその物体の匂いを嗅いでいた。
「潤、…それは、」
「勝貴っ! 勝貴だっ! 退け、このくそ犬っ!」
黒い物体、それは大きな黒い袋だった。
ゴルフバッグくらいの大きさで微かに動いている。
勇一が犬を追い払うと袋の口を探す。
「今、出してやるからなっ!」
ファスナーを見つけると、勇一が焦りを露わに引き下ろした。
ムッとした匂いが袋から立ち込める。
袋の中には、顔が腫れ過ぎて誰だか分らない状態の裸の男性が入っていた。
勇一がその身体を静かに抱き起こした。
「……ゆ、…い、ち……」
時枝だった。
微かな声が、勇一の名を呼び、そして、ホッとしたのか、そのままぐったり動かなくなった。
「死ぬなっ!」
叫ぶ勇一の横で、黒瀬が時枝の脈を測る。
「大丈夫です。意識を失っているだけです」
「…酷い…、これが…時枝さん? なあ、黒瀬、そうなの? どんなことしたら…こうなるんだ…」
冷静な黒瀬の横で、潤がブルブル震えていた。
それぐらい、酷い状態だった。
腫れが引けば、元に戻るだろうが、鼻は折れているだろう。
瞼も脹れあがり、時枝の端正な顔の面影はない。
酷いのはむしろ顔より身体で、通常の皮膚の箇所の方が少なかった。
痣やミミズ腫れ、そして……