秘書の嫁入り 犬(7)

「ケダモノ、起きろ」
「…勝貴…、もう少し寝かせろ……」
「五時だ」
「……やっと熟睡できたんだ…もう少しいいだろ…」

布団を勇一が引っ張り、頭を隠す。

「この姿を、組の者に見せるつもりか? 早く起きて顔出さないと、起こしに来るだろうが…起きろっ」
「しょうがない、起きてやるか…って、勝貴、お前、起きないのか?」

起きろ起きろ、言う当の本人は、横たわったままで上半身すら起こそうとしない。

「悪いが、俺は無理だ」
「は? なんだソレ」
「なんだ、じゃない。マジ、無理だ。誰かさんが散々可愛がってくれたおかげで、痛くて痛くて…鎮痛剤の効き目も切れたらしい。お前、昨日、塗り薬、塗ってくれてないし…覚えてないかもしれないが、犯るだけやって、お前、寝たんだぞ。今、俺は、凄く反省している」

時枝は、偉く神妙な顔付きだ。

「まさか、また別れるとか…言い出すんじゃないんだろうな…俺と戻って来たことを後悔しているのか?」

時枝の顔を覗き込む勇一の耳を、時枝が指で引っ張った。

「俺は、反省と言ったんだ。後悔とか言ってないだろ。イヤ、つくづく潤に悪いことしたなって思って。潤の時は、この状態でも武史、襲ってたから。終いには、排泄できなくて、浣腸されたんだよな。他人事じゃなくなってきた。俺もトイレ、無理かも。ケダモノめ」(※「機上の恋は無情!」参照)
「そんなことか。良かった~。トイレぐらい、俺が世話してやるさ。ドンと任せろ」
「馬鹿言うなッ、そんな恥ずかしいマネできるか。浣腸ぐらい一人で、できる」

真っ赤になって、時枝が怒る。

「浣腸、って…勝貴が言うと、プレイに聞える。ヤバイ、俺、興奮してきた」

時枝の鉄拳が勇一の頬に飛ぶ。

「アホなこと言ってないで、サッサと朝の支度して朝食済ませてこい」
「一緒に食べる。薬塗ってやれば、起きられるんじゃないの?」
「ドーナツ型のクッションないだろ? 直に床や椅子には多分無理だ」
「そんなクションはないが、ようは、患部が床に当たらなければいいだけのことだろ? 俺に任せろ」

勇一の得意げな顔に、時枝は嫌な予感がした。
時枝の尻を割り、タップリと裂肛用の薬を塗られた。
どうしてそんな薬があるのかと尋ねれば、黒瀬と潤が本宅のお泊まり用に常備薬で用意しているらしい。
あの二人はまだそんな激しい営みをしているのかと呆れたが、今の時枝にそれを責める資格はなかった。

「イヤらしい指使いするな。お前の息子は朝で元気かも知れないが、俺のはその元気すらない。一晩中、絞り取られたからな」
「勝貴、枯れちゃった? 大丈夫、直ぐにココ、ミルクが溜まるって」

勇一の手が時枝の双珠を軽く握る。

「溜まった所で、お前の好きな場所が傷だらけじゃ、どうも出来ねえだろ」
「別に俺は、突っ込むだけが好きな訳じゃないぜ。勝貴のを咥えてミルク啜(すす)るのも好きだけど。牛のミルクより、勝貴のミルクで、育ちたいからよ」
「成長期止った中年が、何アホなこと言ってるんだ…あぁあ、ケツだけじゃなく、頭まで痛くなった」

薬を塗り終わった勇一が、時枝を転がしながら、今度は浴衣を着付ける。

「だから、朝食しっかり食って、薬飲むんだろう? ほら、帯も結んだぞ。立てそうか?」

腕を借り、時枝がなんとか立つ。
正直辛かったが、自力で立たなければ勇一が抱き上げかねないと、痛みに堪えた。
抱っこされ、朝餉(あさげ)の席に運ばれるのは避けたい。

「はあ、別に一緒に食べなくても、俺は構わないんだけどなぁ」

勇一の腕に支えられ、朝餉の膳が用意されている座敷へ向った。
佐々木の他に、若いのが二人、控えていた。

「佐々木、悪いが勝貴の膳を俺の横に付けてくれ」

本宅で食事をするときは、組長の勇一がもちろん上座だ。
時枝は桐生に籍を置いているわけではないが、下座に控えるのが常だ。

「組長、それは遠慮しておきます。私はいつもの席で構いません」

時枝が、勇一を制した。
もちろん、黒瀬の秘書の時枝としての態度で。
なあなあの姿を佐々木以外の組員がいる前で、見せるわけにはいかない。
といっても、昨日、なあなあどころじゃない姿を見られているのだが……
佐々木がいかがしたものかと、組長の勇一を見る。

「佐々木、さっさと言われた通りにしろ」

時枝の膳が勇一の膳の隣に並ぶ。
佐々木が気を利かせ、時枝の座布団も運ぼうとしたが、それは勇一によって制された。

「勝貴の座布団は必要ない。俺のがあればいい」

勇一が時枝の手を引き、自分の定位置へ向う。

「…組長、私には座が高すぎます。これでは、しめしが…」
「ごちゃごちゃ、煩いぞ」

勇一が時枝を抱きかかえ、そのまま自分の座布団の上に胡座を掻いて座る。
組んだ足の隙間に時枝の患部がくるよう、時枝の腰を静かに降ろした。