秘書の嫁入り 犬(6)

「組長が、こんなことしていいのか? 変だろっ、佐々木以外は俺達のこと、知らないんだぞ?」
「勝貴、ギャアギャア煩いな。嫁に来るんだから、別にもう隠さなくてもいいだろ。俺と一緒になる気あるんだろ?ここで、ないとかいうと、この手を離すぞ」
「…そんな…お前…、明日の桐生はきっと俺とお前の噂で持ち切りだ。あの、クールな時枝さんが、組長の餌食にって…。武史の影響で組長までが男に目覚めたって……」
「ま、そのうち、組員も慣れるだろ」

組員が慣れるなれないの問題じゃないだろう?
ゆくゆくはばれることでも、わざわざ自分達で噂の種を巻く必要はないだろう。
だが、これって…

「勇一、本当にいいのか? こんなことして、後に退けないぞ? あとで、俺が嫌になっても、俺は責任とってもらうからな」
「嫌になるかよ。責任、いいね~その響き。まあ、勝貴の童貞卒業も俺のお膳立てだったし、バージンは俺が頂いたし、責任はちゃんととって嫁にもらうわけだし、問題ねえよな?」

廊下の先で「あ、」という声がする。
時枝が顔を向けると、若い衆が二人、口をぽかーんと空けていた。

「悪いが、お前達、廊下拭いといてくれ」

その二人の前を裸の勇一が裸の時枝を抱っこしたまま、通り過ぎる。

「…はい、組長」

俺達は一体何を見てしまったんだろうと、若い二人が首を振る。
きっと目の錯覚でバスタオルが見えなかったに違いないと、二人顔を見合わせ、事実を否定した。

「本当に、見られたじゃないかよ」
「俺のフルチンはいいが、勝貴のだけは隠しとけばよかったな。奴らに見せるのは勿体ない」
「バカか、ソコを見られたことが問題じゃないだろ。普通にトイレに立てば見られる場所だ」
「勝貴、今度から、小便でも個室に入れ。他のやつに見せたら、浮気とみなす」
「バカ、言ってろ」

勇一の寝室まではそう長い距離ではないのだが、とても長く感じた。
まだ二人の身体は濡れていた。
寝室に着くなり濡れたままの時枝を、勇一が最近買ったキングサイズのベッドに放り投げた。

「買ったのか」
「ああ、畳で寝るのも飽きたし、いつお前がここに泊まってもいいようにな。だが、これが届いた日に、俺は勝貴から、別れ話を切り出されたから、ずっと一生この広いベッドに独り寝かと思っちまったぜ」

勇一もバタンと濡れた身体のまま、時枝の横にダイブした。

「ふん、お前が一生独り寝のはずないだろ。親友の俺に手を出すような人間だからな」
「なに、勝貴ちゃん、俺に手を出されて後悔してるって言いたいのか? 僕ちゃん、ショック。グえっ」

時枝が勇一の雄をギュッと力任せに握った。

「気持ち悪い言葉使いするな。後悔してるに決まっているだろ。親友から、特別の親友で、次が嫁だ。どうして、こんなアホに惚れたんだろって、もう、最悪だ。柄にもなく、自分から身を引こうとまで考えて、アレコレ悩んで、そうだった、携帯まで壊してしまって…あげくの果てが、ケツの傷だ」
「…分かったから、手を緩めろっ、」
「だが、後悔以上に…俺は満足している。一生、大事にしてやる。勇一のアホさを一番知っているのは俺だからな。桐生の為にも、俺がお前を今以上に立派な組長にしてみせる」
「…勝、貴…手っ」
「ダラしないな、組長さん」

時枝が手を緩めてやると、勇一がホッと一息ついた。

「ひで~。あ~、いらんことするから、血流が一気に流れこんでるぞ。知~らね。もう、こんなに大きくなったぞ」
「その為に握ったんだ」
「風呂からずっと、俺のは興奮してんのに、酷いことするな。そんな酷い嫁さんに、俺は一生大事にされるのか?」
「そういうことだ」
「男前の嫁さんだな。でも、ここからは俺が主導権とらせてもらいます。苛めても可愛がってもいいんだよな?」

勇一が時枝の上に重なる。

「いいぞ、壊しても。お前を受け入れる痛みは快感だ……勇一…ありがとう」
「なんだよ、いきなり」
「本当に感謝している。迎えに来てくれてありがとう…俺を見捨てないでくれて、ありがとう……好きだ…好きだ」
「バカヤロ、俺に礼を言うな。食い尽くしてやる」

勇一が時枝から言葉を奪うように唇を重ねた。