秘書の嫁入り 犬(5)

「兄弟引き離すと考えるより、親が四人って考えた方がいいんじゃね~? 潤の生い立ちだって凄いけど、ちゃんと育ってるし、俺、どちらかと言えば、勝貴の子が欲しい」
「どうしてだ?」
「惚れた相手の子ども、普通欲しいだろ? それに、親父や武史見てると、どうも桐生の血は普通じゃねえからよ。濃すぎだろ? どうする、もし武史のような子ができたら。あちらさんにも申し訳ない」

そこは一理あるかもしれない。
性格が遺伝するとは思えないが、勇一にしてみれば、自分の親が実の弟にした虐待の内容が内容なだけに、桐生の血が怖いのだろう。

「…俺達の子か…、考えたことが、なかった……」
「だから、勝貴は冷たいんだよ」

バシャッ、とまた湯が顔に掛かる。

「いい加減にしとけよ」

睨み付けたが、ハハハと勇一は愉快そうに笑っている。

「上手くいったとして、まだ数年先の話だが、勝貴もそのつもりでいて欲しいなって。あ、肝心なことを忘れていた。お前、子ども好きか?」
「…小さな子ども、苦手。よく泣かれる。だけど…俺…、家族には憧れる。早くに親亡くしているしな」

勇一の目がやけに優しい。
もしかしたら、勇一は、俺に家族というユニットを与えたいのかもしれない。
勇一が本気で自分と家庭を築くつもりなんだと、時枝の胸が熱くなる。

「まあ、ガキのことより、誰かさんが嫁いでくる方が先なんだけどな」

勇一の腕が時枝を引き寄せた。

「…勇一」

露天風呂の中、時枝は勇一の両腕に抱きしめれた。
時枝の背に、勇一が負ぶさるように身体を重ねた。

「まだ、ケツ、痛いよな」
「…そうだな。鎮痛剤で痛みは忘れているが、今朝の傷だから、塞がってはない。挿れたいのか?」
「しばらくお預けも長かったし、誰かさんが馬鹿なこと言い出すし、朝は無茶したから回数こなせてないし…俺さま、欲求不満」
「空港でも抜いてやったろ?」
「この状態で言うか?」

勇一の中心が、時枝の股で揺れている。
既に上を向き、時枝の双珠や竿を下から突いている。

「…だったら、俺が挿入してやってもいいぞ? 悲鳴あげてたよな、あの時」

振り返り、時枝が勇一に意地の悪い笑みを向けた。

「イヤなことを思い出させるなよ。二度とゴメンだ。…俺には根性がないんだよ。わかるだろ?」

一度だけ、勇一が時枝を体内に受け入れたことがある。 
黒瀬を怒らせた結果、勇一が時枝に掘られている写真を撮る羽目になった。
掘られた事実よりも、挿入時、あまりの恐怖で泣き叫んでしまったことが、人生最大の汚点として、勇一の中に残っている。

「可愛かったぞ。なかなかの見物(みもの)だった」
「すげ~、意地悪。それは俺に苛めて欲しいという意思表示として、受けとればいいのかな?」

勇一の腕の中で、ぐるっと時枝が向きを変えた。

「…勇一、俺を苛めたいのか?」
「反則だろ、そんな可愛い顔するなよ」
「苛めたいのか? こんな傷だらけの俺を?」
「苛めたいというより、可愛がりたい」
「三十四にもなる男を可愛がりたいのか?」
「そうだ。三十四にもなる男を、三十四にもなる男が可愛がりたいと思っています。そして、多分それは八十になっても同じように思っていると断言します!」

時枝が、勇一の額に、自分の額を押し付ける。

「…いいぞ。苛めるなり、可愛がるなり、好きにしろ。ただし、ここじゃ、のぼせそうだ。寝室へ連れて行け」
「は、仰せのままに」

勇一が時枝を抱きかかえる。

「こら、別に抱っこしろと言った訳じゃないぞ。勇一、降ろせ」
「いいんだ。このままで」

勇一が時枝を抱き上げたまま、露天風呂を出る。
脱衣場で身体を拭き、バスタオルかバスローブか浴衣を羽織ってから寝室へ向うものだと思っていた時枝だったが、勇一がとった行動は身体を拭きもせず抱きかかえた時枝を一度も降ろすことなく、脱衣場を素通りし、本宅の廊下に出るというものだった。

「おい、床が痛む。水浸しになってるぞ」
「誰かが拭いてくれるだろ」
「ちょっと待て、床がどうこうよりも、俺達フルチンだろっ!」
「そりゃ、風呂から出たばかりで、そのまま出てきたんだから、裸だろ」
「何、平然としてんだよ。こらっ、勇一っ、誰かに見られたらどうするんだよッ」
「ここは俺の家だ。自分の家をフルチンで歩こうが、フルチンの勝貴をお姫様抱っこしてようが、俺の勝手だ」

確かに桐生の本宅は勇一の家だが、多くの使用人と組員が昼夜を問わず出入りしている。
誰かが今、裸の二人の横を通ってもおかしくない。