その男、激情!135

翌朝、大喜は寝坊した。
散々な目にあった身体は、時枝に起されたことも、皆が外出したことも気付かない程、深い眠りに陥っていた。

「起してくれればいいのに、――除け者かよ」

昼前にやっと目を覚まし、誰もいないことがわかると、深い疎外感を感じた。

【病院に行き、その後本宅に戻ります。私の部屋で身体の傷か治るまで暮らしなさい。実家だと佐々木が訪ねるでしょう。生活費が足りないなら連絡を 時枝】

キッチンに行くと、大喜の食事が用意されており、皿を覆うラップの上に時枝からのメモが残されていた。
そして、皿の横には鍵と現金十万円の入った封筒が置かれていた。

「――時枝さん…」

一気に大喜の疎外感は吹き飛んだ。
時枝が提供してくれるという部屋は、本宅に越すまで時枝が使っていた部屋だ。
今大喜がいる黒瀬のマンションより一つ下のフロアにある。
時枝が本宅で暮らすようになってから、使われていない。
本来時枝には、何の責任もない。
佐々木とのことも含め、全部自分が迂闊だったからだ。
それなのに本気で怒り本気で謝罪してくれ、そして自分の為に部屋まで貸してくれるという。
昨日、取る物も取らず状態だった時枝が現金を用意できるわけがない。
きっと黒瀬と潤に頼んで用意してもらったのだろう。

「――どうして、ここまでしてくれるんだ…時枝のオヤジ」

自分の愚かさが身に染みた。
佐々木にした誰が大事か選ばせる質問が本当に愚かだったと思った。
自分にも大事な人間は決して一人じゃないと実感した。
自分を大事に思ってくれる人間も多数いる。
惚れた男はたった一人佐々木でも、大事な人間は一人じゃない。

「…俺、やっぱ、桐生好きだわ…。くそっ、ヤクザは無理だけど、オッサンと一緒に桐生支えたいっ、」

佐々木に惚れたから、仕方なく桐生と関係していると思っていた。
しかし、今、大喜は桐生に利益をもたらす人間でありたいと思った。

 

 

「朝から雁首(がんくび)揃えて結構なことだ」

自分を迎えにきた面々を見て、勇一の第一声がこれだ。
会計で支払いの相談をしていた所に、時枝、黒瀬、潤が現われた。

「それだけか? 他に言うことあるだろ、勇一」
「勝貴と一発やりてぇ~」

場所も考えずの発言に、会計に座っている事務員の顔が引き攣っている。

「一発でいいのか? じゃあ、」

車椅子から勇一の臑を時枝が蹴った。

「―ったぁああっ、……うちの嫁は激しいねぇ。…激しいのは、夜だけでいいのにぃ…」
「ふん、夜ならいいのか。夜、ハンマーで臑を叩いてやる。ドアホ」
「怪我人に優しくしてやろう、なんて気はないらしい」

ピクッと時枝のこめかみが動いた。

「誰を見て言ってるんだ? あ? どうみても、俺の方が怪我人だろう。さっさと俺の車椅子押せ。帰るぞ」
「…うちの嫁は…人使いが荒い」

勇一が渋々といった様子で時枝の車椅子を押す。

「まだ、支払いがっ、」

二人のやり取りに呆気にとられていた事務員が、自分の仕事を思い出した。

「ふふ、慌てなくても大丈夫。桐生勇一の支払いは任せて」
「お身内の方ですか?」
「そう。笑えるけど、あれの弟だから」

何が笑えるのか、事務員には理解出来なかったが、そこは病院といえども客商売。
笑顔で「そうですか」と受け、請求書を提示した。

「潤、あとお願い。ちょっと医者と話してくるから」
「了解」

支払いを済ませた潤と、医者から検査結果を聞き出した黒瀬は、先に出た勇一と時枝の後を追い桐生本宅へ向かった。

 

 

「組はどうした。サボリか?」

正門まで迎えに来た佐々木と木村の間に流れる変な空気を、勇一も時枝も感じた。

「元組長代理から、本宅待機の指示を頂いたので」

木村が答えた。

「元組長代理? 誰だ、それ」
「ボン、――武史さまです」
「そうか、武史か。佐々木、この場に武史がいなくて良かったな。内緒にしといてやる。それにしても、あいつ、何を考えているんだ? きっとロクでもないことだろうな。ところでお前ら、ケンカでもしたのか?」
「しません!」

佐々木と木村が同時に答えた。

「力(りき)入れて叫ぶようなことか」
「本当に変ですよ。二人とも。お互い避けているようにみえますが」

お互いの視線から逃れようとしているように見える。

「初デートの中学生みたいですよ」
「時枝くみ、…時枝さんまで、変なことを言うのはやめて下さい。俺と若頭の間に何もありませんからっ!」
「その通りですっ! コイツが懸想(けそう)してても、アッシには大喜がいますので。ダイダイ一筋ですから」
「違いますっ。誤解ですから。俺も女房を愛してますっ!」
「ウルサイッ! 叫くな。不倫でも何でも勝手にしろ――それより、飯だ。それから風呂だ。俺が出るまでにガキも戻しとけ」

勇一の発言に、一気に場が凍り付く。

「――組長、ガキって」

木村が恐る恐る訊いた。

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沢山のオーエンありがとう! 橋爪が俺に強要したこと考えたら、そりゃ、凍り付くわ。ラストまでドドドって突っ走りたいから、オーエンよろしく頼むな。中の人が寝る前に50人に届けば更新すぐ見れるけど…。昨日は寝る前に100人超えたから、その分も更新してから寝てた…。by ダイダイ