秘書の嫁入り 夢(3)

「組長さん、いいの? 佐々木さん放心状態だったよ~」
「興ざめするぐらい、ギャ~ギャ~騒ぐからだ。浮気浮気って、煩いヤローだ」
「とか、なんとか言って、実は組長さんが一番浮気って言葉に敏感なんじゃないのぉ。最近、すっかりご無沙汰だったくせに。エイッ」

ルミの泡だらけの指が、勇一の乳首を捻りあげた。

「こら、悪戯するな。ふん、浮気上等じゃねぇかよっ。浮気で泣かせるぐらいじゃねえと、男としてどうかと思ってな」

チラリ、勇一の本音が漏れる。

「そんなこと言って、後で時枝さんに叱られてもし~らないっ。あたし、時枝さんも好きだから、たまにはココに来るように言ってよ。自分だけが浮気ってフェアじゃないよ、組長さん。時枝さんのテクもあたし好きなんだから~~~」
「なんだよルミ。今から可愛がってうやろうという男を目の前に、他の男のテク話か? オイ、覚えてろよ。今日は、啼かせてやるからな」

ルミの手が勇一の股間に伸びる。

「うわっ、組長さんが本気だしてくれるんだ~。楽しみ~。でも、啼かされるのは、組長さんかもよ~」

ギュッと、ルミの手が勇一の竿を握りしめた。

「っ、悪戯するなっ。イテェだろう」
「ふふ、大丈夫だよ。珠じゃないんだから。ちょっとだけお仕置き。佐々木さん、可哀想だったから~。組長さんも色々アチコチで、罪作りだよね~~~。今日は、あたし相手に目一杯懺悔して帰ってね」
「何だよ、それ。まったく、桐生の俺様相手にそんなことほざく風俗嬢はお前ぐらいだ」
「今後もご贔屓にね。洗い終わったけど、どうする? ココで一戦?」

ルミが、自身の豊満な胸に泡をつけ、勇一の背中に擦りつけながら勇一に抱きつき、耳元で囁いた。

「そうだな…」

勇一がルミの手首を掴むと、桶に湯を汲み、バシャッと背後のルミにかけた。

「うわっ、」
「握ってくれた仕返しだ。ベッドに行くぞ」

ルミの手を持ったまま、前を隠すこともなくベッドへ向う。
途中、床にへたり込んでいる佐々木を拾いあげだ。

「そうら、二人揃ってダイブだ」

ベッドに着くなり、勇一がルミと佐々木の背中を押し、ベッドの上に倒す。

「あぁん、組長さんっ、乱暴!」

ルミはふくれ、

「え? え、え、え、え―――っ!?」

現実に戻った佐々木が、素っ頓狂な声を上げた。
勇一の手が、あっという間に佐々木から下衣を剥いだ。

「ルミ、佐々木の真珠、しゃぶってやれよ」
「佐々木さん、ごめんね。許してね」

佐々木が逃げるより、ルミが佐々木の一物をパクッと口にする方が早かった。
佐々木にとって、今そこはただ一人の人間のために存在している大事な場所だった。
一人の人間を悦ばし、睦み合う為の、心と躰を結び付ける器官だった。
ルミが嫌いだとか、風俗嬢を見下しているわけではないが、そこに触れていいのは、ただ一人なのだ。
佐々木はルミの口から逃れようと、咥えられたものを引き抜こうとする。
が、手を添えられているし、ルミの顔を押し退けることは、ルミの顔を傷付けそうでできない。
結果、ズルズルと後退るだけになるのだが、ルミも一緒に付いてくるので、意味がなかった。

「佐々木、いい加減にしろ。楽しめや。真珠が泣くぞ」

真珠よりも何よりも、佐々木が泣きそうだった。
後退る方向を間違えたのだ。
ベッドヘッドに向って下がった為、背中にボードの彫刻が当たっていた。
VIPルームのベッドは、彫刻が施された薄いピンクのロココ調なのだ。
グリグリと佐々木の背中に、彫刻が擦れる。
上衣は着けたままなので、痛くはないが、逃げられない。

「いいぞ、ルミ。そのまま咥えてろ」

佐々木を咥えたルミを、勇一がバッグから突き上げた。

「ぁあ~、組長さんったら、いきなり~~~」
「こら、佐々木のから、離すな」

こうして佐々木を巻き込んで、勇一の『お遊び』の長い一夜が始まった。

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秘書の嫁入り 夢(2)

「…組長…、まさか…」
「ツベコベ言わず、ついてこい」
「…アッシは…その、事務所で待ってますから」
「お前も一緒に遊ぶんだ」
「…一緒にって…、別々でもいいじゃありませんか。アッシは別のコにしますんで…」
「とかいって、お前のことだ。廊下で俺が終わるのを待ってるだけだろうが。大丈夫、支配人には連絡済みだ。指名はルミにしておいたから、二人一緒でも問題ない」
「……組長…、落ち込んでいるからって、浮気はいけません。浮気は……」

付き合えと言うので、気分転換に一杯やるのかと思えば、勇一が向った先は意外な店だった。
桐生経営の「ソープ・不夜城」だ。
質の良い女の子が揃っており、時枝と深い関係になる前は、時枝を誘って足を運んでいたという、ソープランドだ。 
中でもルミは不夜城でナンバーワンの指名率を誇るソープ嬢で、勇一の馴染みだ。

「風俗で遊ぶのが浮気になるのか? 最近の奥様方でも、そんな堅いこというのは少ないぞ」
「多い少ないの問題じゃないでしょっ! 時枝さんというお方が有りながら、他の人間と情交を交わすというのは、浮気ですっ!」

佐々木が止めるのも聞かず、VIPルームへと勇一の足は一直線だ。

「なら、浮気でいいや。うるせ~な。本命がいるから、浮気って言うんだろう。本気じゃないなら、問題ない。とにかく、付き合えっ!」
「無理ですっ! アッシに浮気は出来ませんっ!」

佐々木が勇一の腕を掴み、勇一の歩みを阻止しようとするが、逆に手首を掴まれ、腕をねじ上げられた。

「テメェのガキに、操を立てるのは立派だが、組の代表に逆らうってことは、それ相応の覚悟が出来てるんだろうな、佐々木?」

勇一の凄みを、久しぶりに佐々木は見た。

「…逆ギレ?」
「何か、言ったか? あ?」
「…くっ、いえっ…、何も…」

更に捻られ、四十過ぎの男の顔が苦痛に歪む。

「真珠を嵌め込んだ男が、女々しいこと言ってるんじゃねえ~。お前の真珠は、一穴主義か?」

当たり前じゃないですかっ! と、声に出さず、佐々木は反論した。

「一穴が大事なら、大事なソコを満足させるよう、人知れず学習っていうのも、男には大事なんじゃねえのか?」

浮気の口実を無理矢理与えてるだけでしょう、組長っ!
ハイとは言わない佐々木に、勇一が、目で「否定することは許さん」と脅しをかける。

「組長さ~~ん、なに大騒ぎしてるの? 早く入んなよ~。佐々木さん、久しぶり~~~。やっとあたしと遊ぶ気になったの? 嬉しいっ!」

薄いピンクのバスローブに身を包んだルミが、VIPルームから顔を出した。
佐々木を確認にすると、ぴょんぴょんとウサギのように跳ねてきて、勇一に手首を取られ身動きができない佐々木に飛びついた。

「良い男が、そんな顔してたら台無し」

苦痛に歪む佐々木の顔を両手で挟むと、チュッと佐々木の唇にキスをした。

「おい、ルミ、順番が違うんじゃねえのか? 俺より、佐々木が先か?」
「いじめっ子は、後回し! さあ、中へ入ろうよ」

ルミが佐々木の手首から、勇一の手を剥がす。
キスをされ呆然と立ち竦む佐々木をルミが引っ張り、勇一より先に部屋へ連れ込む。

「組長さんも、早く~」

勇一も部屋へ入ると、佐々木がペタンと床に座り込み、ブツブツと何かを呟いていた。

「佐々木、うるせ~ぞ。さっさと脱げっ!」
「…そんなこと言っても…組長っ、俺は…アア…どうしよう…浮気しちまった…」
「キスの一つや二つ、お前だって経験済みだろうが。気になるなら、気にならないようにしてやる」

何を考えたのか、いや、何も考えてなかったのか、それとも、少しおかしくなったのか、勇一が座り込んでいる佐々木の前に腰を降ろすと、佐々木の顎を掴み、自分の唇を佐々木の唇に重ねた。

「ん!!!!」
「いやぁん、組長さ~~ん」

これには、佐々木だけじゃなく、ルミまで驚き目を見開いた。

「これで問題解決だ」

一人勇一だけが納得し、さあ、一戦交えるぞと、ルミの手を引きガラス張りの浴室へ向う。

「お前もさっさと準備しろ」

佐々木に、一言だけ残して。
もう、佐々木の心は、この場を離れていた。

「…ブンブンブン…蜂が飛ぶ…」

所謂(いわゆる)現実逃避というやつだ。
そんな佐々木のことなどお構いなしに、勇一は素っ裸になると、ルミに身体を洗わせていた。

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秘書の嫁入り 夢(1)

「お帰りなさいっ!」
「うわっ、組長だっ! お早うございますっ!」
「組長ぅうううっ、俺ら、組長がぁあああああ!」

桐生の五代目を襲名してから、組員に取り囲まれ、涙されたことがあっただろうか?

 

時枝に去られ、勇一は、心にぽっかりと穴が空いたような状態で、事務所に顔を出した。
本宅から一緒だった佐々木が「きっと皆、大喜びですよ」と言っていたが、実際はそのレベルを越えていた。
久しぶりの事務所。
自分の落ち込みなど下の者に見せる訳にもいかないと、大きく深呼吸をしてからドアを開けた。

「…」

勇一の顔に一斉に視線が集まった。
そして、

「組長ぉぉおおおおおっ!」

一同に叫ばれ、思わずドアを閉めてしまった。
車を駐車場に回した佐々木が上がってくると、入りましょう、と勇一を中へ通した。
入った途端、佐々木を押し退け、勇一の周りに若手の組員一同が取り囲み、熱烈歓迎を受けたのだ。
何が凄いかといえば、皆、涙している。
そこまで復帰を喜ばれるとは思わなかった勇一は、呆気にとられ、皆に言葉を掛けてやることも忘れていた。

「こらっ、てめぇら、組長が困ってらっしゃるのが、わからねぇのか? 組長が好きなら、困らせるんじゃねえ」
「…若頭、だって、俺たちゃ、心の底から嬉しいんですっ!よ~く、分かりましたっ! 組長の厳しさが愛だってこと…それに比べ…」
「佐々木、俺の不在中、何かあったのか?」

やっと勇一が口を開いた。
明らかにこの度を超えた歓迎ぶりは、何かがあったせいだろう。

「…あったというか…何というか…。こいつら、初めて『怯える』ということを学んだというか…。仕事の厳しさというか、抗争中でもなくても、緊張を強いられる仕事があるんだということを学んだと言いましょうか…、完璧で完全以外は認めないという代理の元で、命を掛けて仕事をしていましたので……」
「なるほど。武史か。あいつは自分の所の社員には甘いが、こと極道者になると容赦無いからな。特にうちの者には…」

一人一人の顔を見ると、精神的にかなり辛かったのか、皆、ゲッソリとしている。
決して勇一が甘い組長だと言うわけではない。
組の代表としては、年が若い方なので、舐められないよう、厳格な態度で臨んでいる。

「組長っ! 俺ら頑張りますっ! 組長が不在の時でも他の組に舐められないようします! シマも守りますっ、ですから、組長~~~」

囲んでいた組員達が、若頭の佐々木を押し退け、勇一に抱きつく。

「おい、お前ら…」
「あの代理だけは…金輪際……、武史さまが…あんなに…酷い…あ、イヤ、…厳しい方とは存じませんでしたっ!」

佐々木のように年数の長い人間なら黒瀬のことをよく知っているが、年数の短い連中は、黒瀬の華やかな姿に惑わされ、黒瀬の本質を知らない。
そこまで深く接する機会がなかったのだ。

「もう、二度と、あの代理に預けないで下さいっ! 組長~~~~っ!」

組は組でも、此処はヒヨコ組だったのか? 園児の集団じゃないか、と勇一と佐々木は顔を見合わせた。

「分かったから、離れろっ! 鼻水が付くだろうがっ! あ~、ウザッ、佐々木、どうにかしろ」
「てめ~ら、いい加減にしないと、代理にお越し頂くぞっ!」

ひぇえええっ、と蜘蛛の子を散らすように勇一から皆が離れた。

「ここまで、怯えさせるとは…一体武史のヤツ……」
「組長、ボン、仕事はちゃんとして下さいましたので…あの…礼はちゃんとして下さい……それと、お陰で、うちの結束は固くなったようです…」
「色々と、済まなかったな。今日からは俺が顔を出すから、安心して、仕事に励んでくれ」
「はいっ!」

俺の第一は何なんだろう。
勝貴をあんな目に遭わせた責任も敵も今だとらず、勝貴の身体を愛してもやれず、勝貴に逃げられ…組なんてどうでもいいと思っていたが、やはり、組は捨てられない…。
酷い男だと思うし、エゴだと思うが、勝貴も組も大事だ。
勝貴の為に身を引いてやることも俺にはできそうもない。
このまま、俺の元に帰ってこないことがあったら、俺はストーカーになってしまいそうだ…それにしても…こいつら、アホだ。
こいつらの単純なアホさに、今は救われるな。

「組長、大丈夫ですか?」

時枝が出ていき、気落ちしていた勇一を佐々木は心配していた。

「ああ、大丈夫だ。佐々木、今晩ちょっと付き合え」
「はい、どちらへ」
「ちょっとな」
「かしこまりました」

行き先を聞かず、付き合うと返事したことに、後で佐々木は後悔することになるのだが。

「さあ、まずは俺のいない間の各組の動きから聞こうか?」

勇一は、久しぶりに組長の自分に戻った。

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