ヤクザ者Sの純情!28

 

佐々木が自分の上着を脱ぐ。脱いだ上着を大喜の身体に掛けるなり、また黒瀬達の方へ戻った。

「勘弁してやって下さい。組長が急にいなくなったものですから、その対応に追われてまして…決して武史さま達を蔑(ないがし)ろにしていたわけじゃ、ございません。潤さまに折角武史さまをお連れして頂いたというのに…本当に、申し訳ございません」

佐々木がまた土下座をする。

「佐々木さん、顔をあげて下さい。組長さんは福岡らしいですが…行方は掴めているのですか?」
「時枝さんを迎えにいらしたようです。先程、連絡を頂きました。今日の夕方の便で、二人一緒に戻られると」

大喜の知らない名前が出てきた。

「ふん、結局ラブラブなんだ。時枝福岡まで行ってたんだ」
「良かった。じゃあ、組長さん、見合い相手より、時枝さんを選んだってことだよね~。今度時枝さんを泣かしたら、俺が許さない」
「ちょっと待て、あんたら何を話してるんだ? 時枝って、誰?」

割り込んだ大喜に、三人が一斉に視線を向ける。

「…誰って…ねえ、黒瀬」
「ん~、この子、組の子じゃないみたいだし」
「ダイダイ、何にでも首を突っ込むのは関心しない」

三人三様の返答だったが、誰も大喜に時枝がどういう人間なのか、教える気はないらしい。

「俺をこんな格好にさせられている理由の一つは、その時枝っていう人も関係してるんだろ? 組長がそいつのせいでいなくなったのが原因なら、俺には知る権利がある」

大喜が威張る。

「まあ、隠すほどのことじゃないんだけどね。時枝は私の秘書で、潤の上司。兄さんの親友かな?」
「秘書って…あんた…もしかして、社長さんなわけ?」

時枝が誰かと言うことより、この目の前のホスト風情の変態が社長ということに大喜の関心が移った。

「クロセっていう会社を経営しているよ。名前ぐらい知ってるかな?」
「クロセ―ッ! あの、クロセか? 輸入業やら不動産やら、手広くやっているあのクロセか? あんたがあそこの社長?」
「そうだけど? ダイダイは我が社について、よく知っているようだね」
「ありがとうッ! お宅の会社には儲けさせてもらった」
「何の話だ、ダイダイ?」

大喜とクロセの結びつきが思い当たらない佐々木は、急に態度を変え、礼をいう大喜を不思議そうに見る。

「株だよ。株。へえ、あの会社は、あんたのところだったんだ」
「ダイダイが株主さんだったとは。佐々木、良い子拾ったんじゃない?」

黒瀬も悪き気はしないらしい。
ただの猿だと思っていたが、黒瀬の中で少しだけ大喜の評価が上がった。

「ダイダイ、もしかしてお前の借金は、株が原因か?」
「話しただろ、オッサン」
「聞いてないぞ。金額しか、お前言わなかった。ガキが株で借金って、一体どうなってるんだ」

佐々木の眉間に皺がよる。

「別にいいだろ。今はここで地道に働いて返済しようとしてるんだから。でも、その矢先にこの姿っていうのもな~。俺、真っ当なことに縁がないのかも」
「そうかもね~」

他人事のように、大喜を裸に剥いた当の本人が言う。

「人を騙すより、真っ当だ」

佐々木のもの差しでは、大喜が黒瀬の手で裸に剥かれ転がされる方が、大喜が別れさせ屋で人を騙すよりはマシだった。

「話し戻すけど、その時枝って人が、あんたの秘書ってことは分かった。でも組長と親友ってだけで、大騒ぎするの、変じゃねえ? 組長がいなくなったのも、そいつが原因ってどうなってんの?」
「鋭いね、ダイダイ。兄さんにとって、特別なの。まあ、私と潤にも特別だけどね。特別口うるさいし、潤に至っては特別に厳しくされてるし、正直、この数日、天国だったんだけど」
「黒瀬、駄目だよ。時枝さんは俺のこと思って厳しくしてくれてんだから。確かに時々はムッとしてしまうけど……」
「潤は頑張っているよ。潤の頑張りは私が一番よく知っているから」

ハートマークが黒瀬と潤の間に飛び交っている。
放っておくと、この二人は勝手にバカップルモードに入るらしいということを大喜は学習した。

「ねえ、ちょっと、そこの二人、いい加減にしろよ。つまり、時枝は組長と深い関係だってことか? デキてるのか?」

そうとしか、考えられないだろ。

「ダイダイ、時枝さんは組長の大事な親友だ。多分あとでここにお連れすることになると思うが、ダイダイ、粗相するんじゃないぞ。あと、何を見ても聞いても、他言無用」

どうして、親友で片付けようとするんだ?
組長がオッサンを好きだという可能性は無くなったが、オッサンはやはり組長が好きということじゃないのか?
だから、認めなくないんだ。
まあ、いいか…。
この変態二人のおかげでオッサンは戻って来たわけだし、組長追っかけ福岡に飛ぶ可能性もなくなった訳だし、今夜こそ、ザ・合体だ。