ヤクザ者Sの純情!38

(お礼更新分)

新しい仕事を確保した大喜は、ホテルはホテルでもカプセルホテルに荷物を預けると大学に顔を出し、その後、中途半端になってしまっていた夜のバイトへの挨拶に回った。
佐々木の所を出た段階で、夜の仕事はそのまま続けるつもりだったが、結局新しく回してもらった仕事も夜だったので、辞めるしかない。

「勝手して、申し訳ございません。お世話になりました」

キャバクラの支配人に頭を下げた。

「佐々木さんから、電話をもらっていたから、それはいい。それより、大森、何をやらかしたんだ? 佐々木さん、お前を探しているみたいだったぞ」
「…特に、何も…」

まあ、俺には関係ないが、と支配人は未払い分の給与を俺に渡してくれた。
佐々木は、姿を消した自分を気にしてくれているのだと、大喜は少し嬉しかった。
キャバクラだけでなく、本当なら今日一緒に挨拶に行ってくれると言っていたバイト先全部に、佐々木から連絡が入っていた。
佐々木が根回ししてくれていたのか、どのバイト先も給与を用意してくれていた。

「優しいんだよ…オッサン…。だから、勘違いしてしまうんだ」

佐々木の気遣いが嬉しくもあり、切なくもあった。

カプセルホテルで一枚、一枚給与を数える。
手持ち総額二十三万円。
うち二万円は社長からの借金なので、二十一万が大喜の今の全財産だ。
これが普通の大学生なら悪くない額だが、借金を抱える身としては全然足りなかった。
やはり、身体を張って稼ぐしかない。
ダンボ―ル二つ分の荷物を無理矢理詰め込んだ大型のスポーツバッグが、狭い空間を圧迫している。
それを背もたれに社長から預かった明日からの仕事の案内に目を通す。
「薔薇の刺」という名の会員制のクラブ。
赤いペンで「初物」と書かれていた。
社長が大喜に渡す前に添え書きをしたのだ。
これでボーナスが出ると言っていた。
看板は出てなく、レンタルショップの中にクラブへの出入り口があるとのこと。
レンタルビデオの店員に、自分の名前を告げると案内してもらえるらしい。
ショ―で初物、考えたくないが、明日の自分は裂れ痔の薬が必要な身体になっているに違いないと、大喜はそっと自分の尻に手を這わせた。

ここか…
一見何の変哲もない、普通のレンタルDVDショップだった。
アダルトコーナーは目立たない場所にあるようで、話題になった映画のポスターが目立つ健全なレンタルショップだ。
身体を張るということなので、大学からカプセルホテルへ戻ると付属のサウナで汗を流し、シャワーを浴び、隅々まで念入りに洗ってきた。
さすがに浣腸まではしてない。
初日にそうハードなことは要求されないだろうと、大喜は勝手に解釈していた。

「あの…」

カウンターの客が途切れるのを待って、カウンター内の女性スタッフに声を掛けた。
他のスタッフは休憩に入っているのか姿がない。

「大森といいます」

だから何?という顔をされた。
店を間違ったのだろうか? 
それとも話が通じてないのだろうか? 
もう一度大喜はチャレンジした。

「俺、大森大喜といいます。今日から、その…あの…バイトを」
「バイト? バイトの張り紙は出てなかったと、思いますが」

やはり、店を間違えたらしい。

「俺のこと、聞いてないですか? 聞いてないですよね…えっと…もしかしたら、」
「店長に聞いてきます。お待ち下さい。あ、店番お願いしてもいいですか? 直ぐに戻りますので」

女性スタッフが自分が掛けていた赤いエプロンを外すと、大喜に押し付けた。
そのエプロンを掛けて、店番しておけと言うつもりだろう。

「ちょ、ちょっと、あんた、オイッ」

システムもレジも分らないのに、客に並ばれたらどうするんだよ、と大喜はカウンターには入らず、DVDを整理するスタッフのフリをしながら、女性スタッフが戻ってくるのを待った。

「もう、店長、ちゃんと話しておいてくれないと」

長く感じたが、一、二分というところだろうか?
先程の女性スタッフが、別の女性を連れて戻って来た。
白いスーツに身を包んだ、なかなか綺麗な女性だ。

「あなたが大森君?」

値踏みをされるというのは、こういうことを言うのだろう。
赤いエプロンを着けた大喜をその白いスーツの女が、靴の先から、頭の天辺までふ~~~ん、と、舐めるように観察する。

「合格ね」

来なさいと、大喜の腕を掴んで女が歩き出した。