ヤクザ者Sの純情!41

ステージ上に、一人、別の人間が現れた。
また、ウワ~っと歓声と拍手が上がる。
体格のいい男だ。
ボディビルダーのように、ムキムキとした筋肉に、てかてかと光るオイルか何かを塗っている。
日本人だがギリシャ彫刻を思わせる肉体は、こういうショーの為に鍛えられたものだろう。
こちらは下半身に、原始人を彷彿とさせる、ヒョウ柄の布を巻いている。
歩く度に、チラチラと立派なモノが顔を出していた。

「あの子、アレで掘られるんですよね~。想像しただけで、玉が縮み上がりそうです」

金田が同情的な眼差しで、ヒョウ柄の男の下半身を指さした。
ステージではヒョウ柄の男が、椅子に腰掛けた青年を品定めをするように、顎や髪、胸や腹に手を這わせていた。
くすぐったいのか、気持ち悪いのか、青年の身体が時より捩れた。
一通り上半身のチェックが済んだ段階で、ヒョウ柄の男が椅子ごと青年を持ち上げ、横向きに置き換えた。
横を向いて座る青年の上に男が跨る。
ここまでは、ショーの手順で決まっているのか、男が青年の腿に腰を降ろした瞬間、拍手が湧き起こった。
次の行為を期待しているという意味らしい。
男が観客に手を振り、「分っている」と、ジェスチャーで答えると、その手を青年の頭に回し、髪を掴んだ。
グイッと髪を引っ張られ、青年の顔が上を向いた。
そこへ尽かさず男の顔が重なる。
キスだ。
突然男にキスされた青年が、足をばたつかせている。
嫌だと言うのだろう。

「抵抗か、」
「娼婦でも、キスは駄目って言いますしね、掘られる覚悟はあっても、キスは想定外だったとか? ありゃベロ思いっきり、突っ込まれてますね」
「実際、レイプショーってとこか…」
「そんな所でしょう。さっきバージンって言っていたから、ステージも初めてじゃないですか?」

それにしても…、誰かに似ている。
横顔を見せられ、尚更、木村はどこかで会ったているんじゃないかと、思えてならない。
男同士のキスに興味はないが、それが気になり、さっきから食い入るように青年を見ている。
青年は相変わらず足をばたつかせ、抵抗をやめない。
椅子にマイクが仕掛けられているのか、水音や息づかいが聞こえてきて、扇情的だ。
髪を引っ張られ、思うように動けないだろうに、男の口から逃れようと頭も振っている。
そんな子にはお仕置きだと、髪を強く引っ張られたらしい。
更に首が後ろに反った。
その時だった。
青年の目を覆っていた布が、少し下にずれた。

「あ、」

木村が間の抜けた声をあげた。

「アニキ?」
「…アレ、俺、知ってたわ…やっぱり…」

魂が抜けたような力ない声で木村が呟いた。

「アニキの知人ですか?」
「こりゃ、マズイッ! 金田、このショーを止めるにはどうしたらいいんだっ」
「そんなこと、無理ですよ。どういう知り合いなんですか?」

若頭の隠し子だとは言えない。

「知人の、お坊ちゃんだ」
「だからって…ショーをぶち壊したら、俺達だけじゃなく、組にも迷惑かける羽目に。責任とれませんって」
「じゃあ、どうしろって、言うんだっ!」
「アニキ、声が大きいですって。まずはそのお知り合いの方に連絡を。親御さんに知らせた方がいい」
「だけど、もう、犯られる寸前じゃないかよ」
「しょうがないですよ。こんなステージに上がろうっていうんだから、自業自得ですって」
「お前、冷たいな~」
「自分の意思だろうがなかろうが、こんな所に立つ羽目になるには、それ相応の事情があるんでしょ。例えば、親御さんがいらっしゃるなら、親に言えない借金とか」

だから、木村が責任感じる必要はないと、金田は言うのだ。
しかし木村にしてみれば、そんな簡単な問題じゃない。
相手はただの知り合いではなく若頭なのだ。
親子として紹介されてはないが、

「こいつは俺が面倒みているガキだ。文句があるなら、俺に言え」

と面と向って言われたんだ。
この場にいて、知らん顔はできない。それが、例え、クソ生意気がガキでもだ。

「分った。とにかく連絡してくる」

木村が席を立ち、トイレを見つけると個室に入った。携帯を取り出すと佐々木の携帯へと繋いだ。

『木村か。どうした?』
「大変なんですっ!」
『落ち着け、何が大変なんだ』
「もう、犯られる寸前ですっ!」
『どこの組だ? 相手は何人?』
「組? 違いますっ! 若頭の息子さんが、掘られちまいますっ!」

木村が必死で訴えていると言うのに、変な間があった。

『…お前、頭大丈夫か? いつ俺に息子が出来たんだ? 俺はずっと組一筋の独り身だぞ?』
「んもう、分ってますから、緊急事態にとぼけないで下さいっ! 大森がヤバイんですって」
『大森? …ダイダイか?』
「そうですよ、本宅で姿見ないと思ったら、一体どうなってるんですかっ。本番ショーに出演していますっ、」
『どこだ、そりゃっ! 木村、止めろっ、直ぐさま、ショーから、降ろせっ!』
「…もう、遅いかもしれません…こうしている間にも…」
『いいから、行けっ! あ、場所は?』

木村は慌てて個室から出ると、佐々木に場所の説明をしながら、会場に戻った。
会場内は、きゃあ~~~、いう黄色い声援と拍手が鳴り響き、観客が総立ちになっていた。

「……スミマセン……若頭…」

ステージ上の光景を目にした木村は、まだ佐々木と通話状態の携帯を耳に当てたまま、呆然となった。

「……繋がってますわ、お坊ちゃん…男と…」
『あのクソガキッ! いいから、降ろせっ! 命令だっ!』

鼓膜が破れるくらい、木村は携帯越しに怒鳴りつけられた。

 

(ヤクザ者Sの純情!上巻はここまで、です。ここまでがヤクザ者S4作品の内容見本です。)