ヤクザ者Sの純情!39

「仕事の内容は聞いてる?」

レンタルショップの奥、ドアが一つ。
そこを開けると地下にの降りる階段があった。
段を降りながら、白いスーツの女が大喜に話を振る。

「えっと、ショーですよね。身体を張る仕事だと…」
「綺麗な表現ね。ようは、セックスショーだから。ここが、出演者の準備室その一」
「その一ってことは、沢山あるんですか?」
「全部で五つあるわ。相手とは本番まで顔を合せないようなってるから。本番までの楽しみっていうことで」

準備室その一には、ロッカーとソファと小さなテーブルが置いてあった。
テーブルにはインスタントコーヒーとポットが置いてある。
促されて、ソファに座った。

「質問があるなら、どうぞ? 後でこんなはずじゃなかったと言われても困るし」
「セックスショーですが、相手はもちろん、」
「男よ。女同士のクラブもやってるけど、ここは男。あなたは、ネコね。人材不足というか、スカウトして来た子には逃げられてね。それで、何でも屋の社長に良い子がいたら回してくれって、頼んでおいたんだけど。ホント、良い子を回してくれたわ。ボーナスの話は聞いてる?」

あ、と思い出したように、大喜は社長が赤で初物を書いた案内をとりだした。

「へえ、大森君、君、バージン。じゃあ、今日のショーは開通式ということで、客が大喜びするわ。怖いし痛いと思うけど、そこは素直に怯えて痛がって、恐怖に泣いてよ。感じるなら、その後ね。あなたが泣き喚く姿に客は興奮するんだから。客からのチップが、ボーナスだから、稼ぎはあなた次第」

綺麗な女性の口から、そんな説明を受けるとは思ってもいなかった。
大喜は、ショーの内容より、目の前の女の方が怖かった。

「あの、お名前伺っても…なんてお呼びすれば」
「オーナーでいいわ」
「オーナー、やっぱり、痛いんでしょうか?」
「さあ。悪いけど、私、アナルの経験ないから。恋人同士でも、最初は痛いと聞くから、知らない相手だともっと痛いんじゃない? 精神的にもね。そこが、初物の売りだから、多いに泣き喚いて抵抗してよね」

悪魔は男女問わず、綺麗な人種らしい。
本宅で会った黒瀬という男もそうなら、この目の前の女もそうだ。

「準備に必要なものはロッカーに入っているから。衣装もね。確認して頂戴」

ロッカーを開けると、籠が入っていた。
籠を取りだして、中身を確認する。

「…衣装って、これ、ですか?」

大喜の手には紙で作られた透け透けのブリーフ。

「そう、それ」

形だけでなく、色もハッキリ分る、意味のない下着だった。

「それ、着ける前に、準備は済ませて置いて。全部入っているでしょ?」

イチジク浣腸と洗浄液のボトルが入っていた。

「そこにトイレとシャワーがあるから」

一時間後に出番だからと、オーナーは出ていった。
結局、浣腸かよ、と籠の中身を取りだした。
カプセルホテルで済ませてくれば手間が省けて良かったのにと、トイレに向う。
相手役は一体どんな人間だろうか。
客は多いのだろうか。
そんなに痛いのだろうか。
準備をしながら、大喜の心臓がバクバク鳴りだした。

「男がウジウジ悩むんじゃないっ!」

空になった浣腸の容器を捨てると、パンパンと両頬を両手で叩いた。
強制されたわけではなく、自分が仕事として選んだんだ。
きっと株で儲けた金より、身体を張る分、価値がある。
誰かを欺すのでもないし、むしろ、観客を喜ばせるんだから、と大喜は自分自身を励ました。
体内から余分なものを全て排出し、洗浄し、与えられた紙のブリーフを穿き、大喜は自分の出番を待った。

「それにしても、意味ね~、これ。グラビアアイドルに身に付けてもらいたい一品だ」

ソファに腰掛けるだけでも気を遣う。
ビリッといつ破れてもおかしくはない。
シャワー後の湿った身体に穿いたので、ぴちっと皮膚に張り付いて、かなり不快だ。
特に脹らんだ部分は不快だけでなく、形を強調して『おいなりさん、こんにちは』状態なのだ。

「失礼します。そろそろ出番です」

ボンテージの衣装に網タイツ、羽根の飾りが付いた仮面を付けた女性が入ってきた。
手にはアルミ製のケースを提げている。
声には聞き覚えがあるが、誰だったろうか。
オーナーではない。

「着替えは済ませていますね。少し、化粧を施しますのでこちらへ」

ゆっくりと立ち上がり、女性の方へ行く。
女性がケースから取りだした物は、黒い布きれだった。

「まずはこれでしっかり目隠しをして下さい」

渡された布を大喜は自分の目が隠れるように巻いた。

「乳首をもう少し、ピンク色にします。擽ったいと思いますが、我慢して下さい」

ガタガタと小さな音がしたかと思うと、ブラシのようなものが、乳首を這う。

「ひぃいいっ、」

擽ったいという生やさしいものではなかった。 
身が捩れる。

「動かないで。下着が破れます」

動くなと言われても、ソフトにあたる毛先に耐えられない。
仕方ないので、大喜は自分の指を噛んで耐えた。

「終わりました。では、ステージに案内します」
「目隠しは…」
「付けたままです。あとで外すかもしれませんが、そのまま、案内させて頂きます」

言いながら、女性は大喜の手首にガチャガチャと手錠を掛けた。
行きましょうと手錠を引っ張られ、大喜は準備室その一を女性と一緒に出た。