ヤクザ者Sの純情!29

「ダイダイ、大丈夫? ニヤついているけど」

潤に指摘され、自分の頬が緩んでいたことに大喜は気づいた。

「うるせ~よ。俺の心配するなら、サッサと縄外してくれ」

佐々木の上着で、隠れているとはいえ、まだ大喜は股を大開きのまま、縛られているのだ。
佐々木が、あっ、と思い出したように小さく声をあげ、黒瀬と潤に今日三度目の土下座をした。

「本当に、口の悪いガキで、ご立腹のことも多々あると思いますが…この通りです。縄を外す許可を頂ければと思います」
「いいよ。外せば? 但しその前に一つ確認。佐々木、ダイダイに突っ込まれているの?」
「何をです?」
「四十男が、とぼけても可愛くないよ」
「いや、アッシはとぼけているわけじゃ…」

黒瀬がやれやれと大喜の側に寄り、佐々木が掛けた上着を取ると、大喜の剥き出しの先っぽを指で摘んだ。

「…ナ、ニをっ、」

萎んだ先を指で持ち上げられ、大喜が驚き声をあげた。

「コレ、を佐々木のお尻の穴に、挿れられているのかって、訊いてるんだけど?」

黒瀬が摘んだまま、左右にブルブル振った。

「はあぁ、アッシの尻にダイダイのソレをですかっ」

みるみる間に佐々木の顔が赤くなる。

「ボンッ、勘弁して下さい。あり得ませんっ! 生まれてこの方、ケツを誰かに貸したことは一度もありませんっ」
「はあ、佐々木を教育するのは諦めた。替わりに、ダイダイ、お仕置き」

大喜のモノを黒瀬が軽く捻った。

「ギャァアアッ」
「ダイダイ、大丈夫かっ!」
「…大丈夫じゃ…ねえっ! どうして俺がこんな目に…遭うんだよ…オッサンッ」

ボンと佐々木が黒瀬を呼んだだけのこと。
黒瀬は本当にこの呼び名が嫌いらしい。

「黒瀬、許してあげてよ。賭は、俺の勝ちだね。佐々木さん下手そうだから、きっと指で止っているんだよ。今度俺、オススメをプレゼントするから、ダイダイ、今日のことは許してやって。きっとラブラブな夜の助けになると思うよ」

物に釣られて許すには、あまりあるぐらい恥ずかしい目にあっていると思うのだが、潤のラブラブな夜という言葉に、結局は負けてしまった。

「…市ノ瀬さま…、何を仰有っているのですか……俺とダイダイは……」

潤が言っている内容は佐々木にも理解できた。

「佐々木さん、つべこべ言ってないで、早くダイダイの縄を解いてあげた方がいいと思うよ。痕がつくと思うし。黒瀬、その指、もういいんじゃない? ちょっと妬けるんだけど…俺のじゃないの、触れられるのって」

潤の言葉で黒瀬は指を離した。

「ふふ、猿のを触ったからって、潤が妬く必要ないんだよ? 大丈夫、ちゃんと消毒するから」

俺は、バイ菌扱いかよ、と大喜は小声で呟いた。
佐々木が目で「言いたいことは分かるが、我慢しろ」と訴えるので、それ以上は何を言わなかった。
佐々木の手で縄も解かれた大喜の身体には、見事に縄の痕が文様になって付いていた。

「オッサン、鼻、」

解いた方がエロチックな大喜の姿に、佐々木がタラリ、鼻血を流した。
佐々木、人生最大の不覚だった。

 

 

「オッサン、ハンカチ。ほら、まだ洟が垂れてる」

組長とその親友、時枝を空港に迎えに行った帰りである。
黒瀬と潤も空港まで来ていたが、彼等は先に帰った。
空港で時枝と会った大喜だったが、神経質そうなオッサンだなという印象しかない。
組長とは何やら深い仲らしいので、もっと遊び慣れた風のそれこそホスト系かと想像していた。
あの黒瀬の秘書と言うのだから、普通のサラリーマン風ではないと思うのが自然だ。
しかし、実際の時枝は、堅物で勤勉なビジネスマンといった風情だ。
眼鏡のせいもあるのかもしれないが、色物ではない、極真っ当な人間だと思わせた。
確かに悪い顔ではない。整っていると思う。
だが組長が本宅を抜け出す程、影響力のある人間には思えなかった。

「ちゃんと、運転しろよ、オッサン。いい加減、ぐずるな」
「…大丈夫だ。あぁあ、良かった」

大喜は佐々木が気の毒になってきた。
空港で、組長と時枝が二人揃って出てきた時から、床に泣き崩れてたのだ。
口では、良かった、良かったと言っているが、内心は失恋確定で辛いに違いない。
大喜は佐々木に同情していた。
大喜は佐々木の涙を、失恋によるものだと決めつけていた。
もちろん、実際は違う。
佐々木は組長と時枝の関係をずっと応援してきた、桐生でただ一人の人間なのだ。
一人というのは、実は二人の本当の関係を知るのが、佐々木のみだからである。
あとの組員は、幹部も含め、時枝を組長の昔からの親友で、組長の弟、黒瀬の片腕だと思っている。
先代の計らいで、時枝は桐生の世話になっていた時期もあるが、それももう昔の話。
黒瀬のこともあるので、時枝のことを皆一目置いているが、だからといって組長とそれ以上の関係があるとは、組員は知らないのだ。

「後ろ、静かだな」

後部座席は仕切られていて、見えなくなっている。

「…ダイダイ、数日間時枝さんも本宅へ滞在予定だが、いいか、詮索するんじゃあねえぞ」
「分かってるって。興味ないし、俺が詮索したいのは、オッサンの行動だけだ」
「…どうして、俺を詮索するんだ? 変なガキだ」
「そりゃ、オッサンに惚れているからだろ。それに、変なのは、オッサンだろ。全く空港で大泣きして。映画館の時より、ありゃ、酷かった」

やっと泣き止んだかと思うと、まだ水分が残る顔で、睨み付けられた。

「大人をからかうな」
「本気だぜ、オッサン。俺を好きになれよ」

真面目に言ったつもりだったのに、佐々木からの返答は、拳骨だった。

「イテ、こういう手は、早いんだ…違う所に手を出せっていうんだ」
「何か、言ったか?」

返事をしなかった。
何か言うと、また拳骨が飛んできそうだったので、口を閉じた。
その後本宅に着くまで、二人は無言だった。