ヤクザ者Sの純情!15

「…でか」

箱を抱えた大喜を純和風の門構えが出迎えた。

「デカイって、ここは裏門だ。通常はここから出入りすることになるから、覚えておけ。入るぞ」

同じように箱を手にした佐々木の後ろを大喜が追う。

「着いたぞ。ここが、俺の住まいだ」

大きな屋敷の裏に、平屋建ての家が三軒、二階建ての家が一軒並んでいる。
その二階建ての家に佐々木が入って行く。

「普通に、一軒家かよ…オッサン一人で贅沢だな」
「今日からは違うだろ。使用してない部屋が客間になってるから、そこを使え」

大喜は佐々木と一緒の部屋で寝るつもりだが、ここは素直に与えられた部屋に箱を置く。

「片付けは後だ。まずは組長にご挨拶だ」

佐々木に連れられ、本宅へと行く。
渡り廊下が繋がっており、旅館のように長い廊下をひたすら歩く。
何回か角を曲がり、やっと辿り着いた和室の中央に、昼間大喜に刃物を押しつけたヤツがでんと鎮座していた。
大喜は佐々木に促されて、佐々木と共にその前に正座した。

「来たな、ガキ」
「おう」

横柄な大喜の態度を、佐々木が窘(たしな)めた。

「ほんと、躾のなってないガキでして、申し訳ございません。ほら、ダイダイ、ご挨拶だろ」

佐々木が大喜の後頭部を押し、強引に頭を下げさせる。

「世話になる」
「なりますだっ!」

大喜にしてみれば、目の前の組長と呼ばれ恐れられている男は恋敵なのだ。
もっとも、勝手に佐々木が組長に惚れていると思い込んでのことなのだが。

「面白いガキだ。暇つぶしにはちょうどいいかもな。どうだ、ケツは洗って来たか?」
「ああ、」

まだ、風呂には入ってないのだが、応戦モードで返答した。

「良い心がけだ」
「誤解すんなよ。組長さんの為にじゃないからな。オッサンの為にだ」
「だが、俺にケツ差し出した方が心配事がなくなるんじゃないのか?」

大喜が相手をすれば、佐々木には手を出さないと言っているのだ。
佐々木には組長の言う心配事の意味が理解できなかったが、大喜はピンときた。

「俺は何の心配もしてない。さっきも言っただろ。俺はオッサンのもので、オッサンは俺のものだ」
「ダイダイ、俺は、組長のモノだ。組長に命を預けてるんだ。変なこと言うんじゃねぇ」

ぼかっと、頭を殴られた。
本当に今日は何度も拳骨を食らう日だ。
大喜は面白くなかった。
佐々木の言う意味が、やくざの世界の関係だと分かっていても、恋愛事に絡めてとれなくもない。

「ふん、そのうちオッサンだって俺のモノだと自覚する日が来るさ」

ふて腐れた大喜と、困り顔の佐々木を見比べ、組長が腹を抱えて笑う。

「ガキ、明日からうちで働いてもらうから、覚悟しとけ。おい、木村はいるか」

木村という若者が呼ばれた。

「こいつを案内してやれ。迷子にならないよう、よく教えとけ」

はい、と頭を下げた木村が大喜を見るなり、口端を釣り上げた。

「あんときの、小便小僧か」

あんときがどの時か大喜には見当がついた。
佐々木の脅しにビビって洩らした時だろう。
この男に面識はないが、自分の失態を知っているらしい。

「何だとっ、もういっぺん言って見ろ」

大喜が木村に掴みかかる。

「やるのか?」

大喜は短気の素人、対する木村は若くても桐生の組員。 
大喜がかなう相手ではない。

「ダイダイ、木村、いい加減にしろ。組長の御前だ。ガキ相手に吠えるな木村。こいつは俺が面倒みているガキだ。文句があるなら、俺に言え」
「ということだ、わかったか。血の気の多いガキだが素人さんだから、手を出すな。言われたことをさっさとしろや」

佐々木と組長の二人がかりで咎められ、木村はどうして俺がと面白くなかったが、そこは上下関係がものをいう世界、二人に謝罪をすると、大喜にも悪かったと小さく詫びをいれた。

「ダイダイも木村に言うことあるだろ」

佐々木が、大喜を睨んだ。

「…悪かった…です。案内よろしく、お願いします…」
「良い子だ。ちゃんと、出来るじゃないか」

まるっきりの子ども扱いで、佐々木が大喜を褒める。
それを見ていた木村の中で、この二人の関係は何だ、もしかして、佐々木の隠し子かと、疑惑が生まれた。
こりゃ、この生意気なガキの世話をちゃんとしねえと、出世に響くかもしれないと計算が働く。

「じゃあ、連れて行きます。いくぜ」

大喜は木村に連れられて、部屋を出た。