その男、激震!(152)

「ごめん下さい」

スティール製のドアを開けると受付のカウンターがあり、ベルが置いてあった。
それを押す。
仕切りの奥からドタドタと足音が近づいて来た。

「は~い」

現れた男を見て、

「…間違えました」

大喜が慌てて外に出て、ドアに書かれていた文字を確認する。
『東亜探偵事務所』、間違いではない。

「あのぅ、ご相談ですか?」

ドアが内側から開き、先程の男が顔を出す。

「ここ、興信所で間違いないですか?」

大喜が念の為に訊いた。

「間違いないです。ご相談でしたら、是非中へ」
「…失礼ですが…その格好は」

大喜の言葉で、男が自分の姿を確認した。

「わっ、これは失礼しました。ちょっと仕事で……すぐに着替えますので、どうぞお入り下さい」

ひげ面の頭部の薄い男が、白いフリルのブラウスに赤のミニスカートに白のハイソックス。
どんな仕事だとそういう格好が必要なんだ? 
興信所の他に、変な店でも経営しているのだろうか?
中に入るとそこは普通だった。
応接セットと事務机、書類棚にパソコン、コピー機等の事務機器。
大喜は応接セットのソファに座って男が着替えてくるのを待った。

「他の者が出はらっていて。今日は受付の子も休みで私一人なんです。驚かせてしまって…申し訳ない」

紺のスーツに着替えた男が、大喜にお茶を出しながら詫びる。

「東亜探偵事務所、所長の園田です」

名刺を大喜に渡した。

「…保育所?」

渡された名刺には、東亜保育所、園長と記されてあった。

「あ、失礼! こちらでした」

慌てて、別の名刺を渡された。
それには東亜探偵事務所、所長となっていた。

「保育園も経営されているのですか?」
「はい、認可外なんですけど」
「先程の格好は、保育園関係で?」
「はい。ああいう姿だと子ども達が喜ぶもので…お恥ずかしい」

変な店ではなかった。
悪人に見えないから、案外早く仕事は片付くだろうと大喜は思った。

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