ルーシーに首ったけ⑥(その男激震番外編)

「ぶったたかれるのと刺されるのどっちが好みだ? 両方か? それともどっちも好きなら、俺が自分を刺すぞ。さあ、どうする?」

ルーシーの目が据わっている。
ヤバイ、本気で怒らせたと、踊っていた男が身につけていたものを取っ払った。

「下着まで、そんな…ものを履いていたのか!」

大きめのトランクスにルーシーラブの文字とハートが入っている。

「脱げ! 全て脱げ! そのメガネもだ!」

全裸になった男がどうだ、と下半身を突き出すように仁王立ちになる。

「それでいい、それで。最初からそれなら良かったんだ」
「いやいや、それはさすがにマズい。この格好で移動したら警察に捕まる」
「警察のお世話になった方が、わけのわかない格好されるより数倍マシだ!」
「ルーシーちゃんよ、その凶器二つ振り回すの止めてくれるかな? 大事なところを叩き潰されたり切り落とされたりしたくない」

まだ手にすりこぎ棒と包丁を持っていたことにルーシーが気づく、慌ててカウンターテーブルの上に置いた。

「お前が悪いんだ。俺が惚れた勇一は桐生を背負って立つ凜(りん)とした男だ。もちろんアホなところもあってこその勇一だ。言っておくが、お前が本気でオタクなら、それはそれで構わない。だが違うだろ。中途半端なデフォルメしやがって。本気の方々に失礼だろ! そもそも…」

全裸の勇一は、先ほどまでの姿と違って、雄々しさ全開で、目のやり場に困る。

「あのさ、ルーシーのまま説教されても全く説得力がないんだが」

勇一には分かっていた。
説教が続くのは一種の照れ隠しだと。

「うるさい! 話の途中だ! 黙ってき…」

一瞬にして店内から人の声が消える。

「…ん……っ」

頻繁に肌を重ねることができない事情ゆえ、唇を重ねただけでスイッチが入ってしまう。
抑圧された欲求が一気に吹き出し、どちらも自分から唇を離すことができない。
襲い合うように舌が激しく絡む。
全裸の勇一が自分の興奮状態をアピールするようにルーシーの腰に押しつけてくる。

「…っ、駄目だ! 勝貴、スカート脱げ。ルーシーじゃなくて勝貴を抱かせろ…ん?」

鼻息荒く欲望に忠実になっていた勇一が、突然ケラケラと笑い出した。

「やべぇって…その顔…、崩れすぎ…化粧が…、顔が崩壊してるぞ。怖ぇって」

密着していたときのお互いの鼻息やら肌の熱やら潤んだ眼球のせいでマスカラやらアイラインやらチークやら…とルーシーを形作っていたメークが中途半端に崩れていた。
ルーシーが完璧な美女だけに、崩れかけた顔は怖い…というか、かなり面白いことになっている。
スカートを脱がなくても、そこにルーシーはもういなかった。

「笑いすぎだ」

勇一に笑われ、時枝の身体の熱が一気に引いた。

「鏡見ろって。勝貴も…きっと笑うって…」

まだ笑っている。
そして勇一の身体からも欲望の熱が引いたのが、とある部分の目に見える変化で分かる。

「いい加減にしろッ!」

カウンターテーブル上のすりこぎを掴んだ時枝が勇一の頭を殴った。
ボコッという音がし、勇一がバタンと後ろに倒れた。動かない。
残念ながら(いや、幸い?)死んではいない。
叩く場所も力加減も心得ている。

「セックスなしで昇天できたんだ。幸せに思えよ。俺は全然満足させてもらってないけどな!」

気絶している勇一を見下ろしながら、時枝が苦々しく言う。
フン、と鼻息あらく、意識のない勇一を店に残し、時枝は店の上の居住スペースに一度戻った。
シャワーを浴び完璧に化粧を落としてから、バスタオルを腰に巻いただけの姿で戻った。
まだ勇一は床に寝ている。

「起きろ。起きないと、コレで犯すぞ」

床に転がっていたすりこぎ棒を拾い、勇一の乳首に押しあてた。

「俺と違って尻は弱点だったよな。昔、俺から突っ込まれてヒィヒィ泣いたことあったなぁ。早く目を開けないとコレ突っ込むぞ」

乳首から臍(へそ)へとすりこぎ棒を下ろしていく。
臍の周りを円を描くように棒の先端で擦る。

「オイタが過ぎるぞ」

右手首を突然つかまれ、時枝の手からすりこぎ棒が取り上げれた。

ダイダイです。更新が二日遅れてしまって申し訳ありません、との伝言が。次回がラストらしいです。次は…火曜日か金曜日になるそうです。 ランクに参加中です。下のランクバナー(1)(2)で応援〔ポチ〕頂ければ幸いです。

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