「ママ。朝から悪いね。彼女に繋いでくれる?」
潤が仮眠室からいなくなると、黒瀬がバーリリィのママに連絡を入れた。
「あ、そう。起きそうもないんだ。了解。昼にまた連絡入れさせてもらうよ。色々世話を掛けてすまないね。今度、ゆっくり寄らせてもらうから」
勝手に佐々木と木村を使ったことの断りを時枝に入れておこうとしたのだが、まだ寝ているらしい。
時枝はリリィの入っているビルに部屋を借りているが、電話は引いていない。
時枝と連絡をとるにはリリィの営業時間帯に店の番号に掛けるか、それ以外はママの携帯にかけるしかなかった。
「もしもし、兄さん」
次に黒瀬が連絡を入れたのは勇一だった。
「ゴリラと蚤をルーシーに預けたでしょ」
『ゴリラと蚤? そんなもの預けてないぞ』
「もう、分からない人ですね。佐々木と木村です」
『あー、あいつらか。お前んとこにいるんだろ? ガキが騒いで大変だったんだぞ。朝から迎えに行っただろ。返してやったのか?』
「いいえ」
『そりゃ、どういうこった?』
「時間がないので、用件だけ。兄さんに断りを入れる必要はないと思いますが、一応連絡を入れているんだから、感謝して下さい。二人は香港へつかいにやりました。では失礼」
『ちょ、待…』
自分の言いたいことだけ言って、黒瀬は通話を終了させた。
時枝が起きていれば、勇一に連絡を入れることもなかっただろう。
木村はともかく佐々木は組の要人なので、行方不明だとまずいかなと連絡を入れたまでだ。
勇一相手の細かい説明は時間の無駄だと、はなっからするつもりはない。
「今、誰かと話してただろ?」
大喜が紅茶の入った陶器のポットと温めたカップをトレーに乗せて運んできた。
「空耳じゃない?」
「いいさ。別に詮索するつもりはないからさ。…えっと、もう、蒸れたかな? 潤さんから時間が大事だって言われてるんだ」
大喜が仮眠室のテーブルの上にトレーを置き、カップに注ぐ用意をする。
「カップに淹れてきても良かったのに」
「潤さんが、社長には一番美味しい形で淹れてさしあげろって」
「潤らしいね」
もう出てるだろと、大喜がカップに紅茶を注ぐ。
ふわ~と紅茶の香りが仮眠室に広がった。
「…オッサンも香港で美味しい紅茶を飲めればいいけどな。試飲ぐらいさせてもらえるかな」
大喜がソーサーごとカップを黒瀬に渡す。
「ん~、良い香り。頂こう」
黒瀬が優雅に紅茶を飲んでいる姿は、英国紳士そのものだ。
潤ならその姿に酔いしれるだろうが、大喜は『完璧過ぎて嫌味な大人だ』としか思わない。
「喉潤ったなら、続き訊かせてくれよ」
「続き?」
「誤魔化そうたって、そうはいかせね~からな。ルーシーが望むことって言ってたじゃん。望むこと与えたってどういうことか、教えてくれよ」
「う~ん、小猿は、部外者だからどう話せばいいのか、迷う」
「黒瀬さんの片腕。俺は将来そうなる人材だろ」
「ふふ、自惚れたものだ。片腕は潤だよ。そうだね、雑用係かな」
「上等だ。頭の切れた雑用係はきっと役に立つ。だから、俺を部外者扱いするな」
「どうしようかな~、紅茶をおいしく淹れてくれたので…。白崎の件はどこまで知ってる?」
「白崎さん? 行方不明の?」
「そう、その白崎」
「白崎さんの部屋のスペアキーを黒瀬さんが持っていたってことは知ってる」
木村に頼まれ、鍵を借りる手配をしたのは大喜だった。
「桐生が腑抜けで未だ探し出せてないことも知ってるよね?」
「…腑抜けかどうかは別にして、知ってる」
「そこで、ルーシーを投入した。兄さんに任せていたら、いつになるか分からないからね。そしたら、表だって動けないルーシーに兄さんがゴリラと蚤を預けたらしい。そしてその二匹が私のところに挨拶に来た。つまり私にも動けということじゃない? ルーシーはこの私しか手が出せないところから探りを入れようと考えたみたい」
「ちょっと待ってくれ。白崎さんの行方不明でそれを桐生が探すのは分かるけど、どうしてルーシーやら黒瀬さんやら大掛かりな話になってるんだ。しかも、オッサン達香港って…白崎さん、何者? ホモ嫌いのおバカか以外に秘密があるの?」
納得がいかない。
今の話だと全部白崎の行方を捜す為にややこしくなっているとしか思えない。
桐生でも下っ端の組員だったはず。
しかも大喜と佐々木の営みにケチをつけたホモ嫌い。
白崎を探すに値する人間とは思えなかった。
勝手に消えたんだから、放っておけばいい話じゃないのか、と大喜には思えてならない。
時枝です。佐々木さんと木村さんが今どうなっているのか心配です…今日も応援ありがとうございますm(__)m
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