「紅茶。落ち着くからどうぞ」
株式会社クロセの本社ビル。
一般社員が立ち入ることのできない社長専用の仮眠室のソファに、泣き腫らした顔の大喜が腰掛けていた。
その大喜のために、潤が秘書室からトレーで紅茶とクッキーを運んできた。
「その様子だと朝もまだなんだろ? クッキーどうぞ」
「…ありがとうございます」
クッキーを一枚食べると、大喜の腹が鳴った。
空腹だったことを、腹が思い出したらしい。
「可愛い~」
「…からかわないで下さい。取り乱して、すみませんでした」
「惚れた男が絡むと仕方ないよ。俺だって、黒瀬のこととなると、取り乱すよ」
「…それで、あのぅ、黒瀬さんと連絡はとれました?」
「もうすぐ会社に着くみたいだから、ここで待ってるといい。おつかいのことだけど、何か買い物を頼んだらしいよ。俺が携帯を預かったばかりに、ダイダイに哀しい思いをさせてゴメンね」
「一つ、訊いてもいいですか?」
「なに?」
「あの、どうして、携帯を……オッサンと木村さんから預かったんですか? 取り上げた、ってことですか?」
「ダイダイ…」
潤が大喜の横に座り、大喜の手を取り両手で挟むようにして握った。
「俺はいつでも相談に乗るから。だから広い心で佐々木さんを見守ってやってほしい。きっと迷っているだけなんだ」
「迷う?」
「佐々木さん、自分でもよく分かってないんだ」
「よくわかんね~けど、オッサンには悩みがあるってことか…。それでオッサンの悩みがどうして携帯につながるんですか?」
「う~~~ん、」
昨夜の出来事を全部話してもいいものかと、潤が悩む。
「潤、おじいさんみたいになってるよ。眉間に凄い皺だよ」
黒瀬が姿を現した。
「社長!」
「黒瀬さん!」
二人同時に立ち上がる。
「ふふ、小猿、顔を腫らしてどうしたの? まさかうちの秘書を誑かしに来たのかな?」
黒瀬の鋭い視線が二人の握り合った手元に注がれた。
「あ、」
慌てて潤が手を離す。
「違います。俺はオッサンを迎えに来ただけです! オッサンが、今どこにいるのか、教えて下さい」
「知りたいの?」
「知りたいんです!」
「おつかいに出したから…訊いても無駄だと思うけど」
「無駄ってどういう意味ですか!」
「教えるから、その紅茶を一口飲んで。潤が淹れた紅茶は美味しいよ」
カップに入った紅茶を大喜が一気飲みした。
「飲みました!」
「どう?」
「美味しかったですッ、だから、オッサンの居場所を教えて下さい」
「今飲んだ紅茶の茶葉を買いに行かせた」
「ええ――っ、黒瀬、しつれい、社長…それって、…まさか」
先に反応したのは大喜ではなく潤だった。
「潤さん、どうしたんですか? まさかって、なんですか!?」
「香港! 香港ですよね、社長?」
黒瀬が、そうだよ、と潤に笑顔を向けた。
「嘘だろ…そんなのね~よ…冗談だろ……ハハハ…」
おつかいのレベルじゃないと、落胆した大喜がソファに沈む。
時枝です。香港で紅茶といえば…アノ店ですか?今日も応援ありがとうございますm(__)m
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