「そうか…オッサン、今日は帰宅できないってことか…。朝一番で迎えに行こうかな…ここで、待つってできる？」
「ごめんなさいね」

できないということだ。

「居場所が分かったんだ。もういいだろ。ガキが長居しても、迷惑だ」
「俺、とっくに成人してるっつうの」
「車が戻っているかどうか、心配じゃね～のか？」
「心配に決まってるだろ。はあ、あんたと二人でまた帰るのか…もっと、おね～さんとお話ししたいのに～」
「ええ、私もゆっくりお話しできたらと思いますが…」

時枝が他の客を見る。
彼らがいなければもう少し気を使わずに話せるが、ルーシーとして交わす会話では内容に限りがある。
時枝の視線の移動が何を意味するか大喜も理解した。
人がいたら話せないのだと。

「次の機会があったらいいな。おね～さん、元気でね。またいつか会おうね」
「はい、会いましょう」

永遠の別れじゃないのに、大喜は哀しかった。
怖いけど自分を叱ってくれる大人。
相談には親身になって答えてくれる。
自分の為に、なりふり構わず行動してくれた恩人。
佐々木とは違った意味で、時枝は大喜の中で大きな存在だった。
近くにいると分かっても簡単に連絡がとれない。自由に話せない。
物理的に近くなっても、距離は一層遠くなったように感じた。

「な、盛り上がっているところ悪いが、俺、さっきの質問に答えもらってないぞ」

勇一が不機嫌に入ってきた。

「質問？　なんでしょうか勇一さん」
「あいつらに、犯されてないだろうな？　何もされてないか？」
「ハア…勇一さん…」

地の時枝を彷彿とさせるルーシーの深い溜息だった。

「お二人は、あなたとは違います。私を…このルーシーとどうにかなろうとするお客様はあなたぐらいです。殿方にもてるのは光栄ですけど、決まった方がいらっしゃるのに浮気で手を出されるのは、哀しいことです」
「え、つまり、それって…あんた…」

時枝さんと気付かずに、手を出そうしたんだ。
だから、オッサンや木村さんも同じようにって考えたのか？　
もう、どうなってるんだよ、桐生は大丈夫か？　
こんなのがトップで大丈夫か？？？

「だから、私がここで働いているんです。安心して下さいネ」

大喜は自分の口を押さえた。
時枝さんとか桐生とか、ここではまずい単語が含まれていた。

「大丈夫です。口に出していませんから。私がダイダイが考えそうなことを想像しただけです。その様子だと当たっていたみたいですね」
「ルーシーとガキが以心伝心って、なんだ、それ。おもしろくね～。帰るぞ！」

勇一が椅子から降りる。

「お勘定を忘れてます」
「佐々木と木村にツケとけ。行くぞ」

あいつ等のせいで来るはめになったんだとブツブツ言い出した勇一に、

「勇一さん！」

と時枝が呼びかけた。
なんだと振り向くと、

「…」

大喜の見てる前で時枝が、いや、ルーシーが勇一の唇をカウンター越しに奪った。
チュッと一瞬の出来事だった。

「機嫌なおしてね」

時枝が呆気にとられていた大喜に「あとはよろしく」とアイコンタクトで頼む。

「――バカやろ…う……………邪魔したな」

顔を赤に染めて、バーから出て行く勇一を、

「いい年して、真っ赤っか！　…真っ赤っ……やべぇ、笑えるぅうう」

腹を抱えた大喜が追いかけた。

時枝です。キスぐらいで勇一はサルの尻みたいですね。今日も応援ありがとうございますm(__)m
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トラコミュ オリジナルＢＬ小説・・・ストーリー系