「いらっしゃいませ…あら、勇一さん」
二日連続で、リリィを訪ねることになろうとは、勇一も思っていなかった。
出迎えたリリィのママも「あら、意外ね」という表情を濃い化粧の下に浮かべていた。
「今日もいらして頂いて嬉しいわ。そちらのイケメンクンは?」
「身内みて~なものだ。挨拶しろ」
キョロキョロとして挙動不審の大喜の後頭部を、勇一が押さえ付けた。
「…止めろ。ガキじゃね~よ」
勇一の手を大喜が振り払う。
そして、
「今晩は。あんた、ルーシー?」
カウンターに立つママの顔をジロジロ見ながら、ぶっきらぼうに訊いた。
「こら! 失礼だ」
勇一の渇を遮るように、
「いいのよ、勇一さん。さ、お二人とも座って。お飲み物は何になさる?」
とママが二人に席を勧めた。
「悪いな、ママ。取り敢えずビールくれ。それと‘彼女’を頼む」
「じゃあ、あとは彼女に任せましょう」
ママが奥へ消えた。
「…いない。オッサンも、木村さんもいない」
「だが、ルーシーはいる」
「あのママじゃね~んだよな」
「違う。ルーシーはもっと綺麗だ」
奥からママの咳払いが聞こえた。
「バカ、あんた、声がでかいんだよ」
「ホント、勇一さんって、少しおバカさんなんですよね」
と、大喜に続けて別の声が飛び込んで来た。
「ルーシー…」
ルーシーに化けた時枝が二人の前に立つ。
「お久しぶりですね、ダイダイ。その後、いい子にしていましたか?」
おしぼりを渡しながら、ルーシーが大喜に話しかけた。
「…綺麗なおね~さんだ……」
「惚けた顔するな。鼻の下が伸びてるぞ」
「…色っぽいし…いい匂いがする…」
「クンクン嗅ぐな! こいつは俺の女だ!」
勇一が大喜の鼻を抓んだ。
「止めろ。あんた…やっぱり、この人と!」
大喜が勇一の臑を蹴飛ばした。
勇一がカウンターに俯せ、唸る。
「ダイダイ、ごめんなさいネ。勇一さん、昔からあらゆる方面でバカなの。許してやって。ここにダイダイを連れてくること自体、バカを象徴しているし」
「…あの、さっきから、俺のこと、ダイダイって…。お久しぶり、その後って…どこかでお目に掛かったことが? …おかしいな、こんな綺麗なおね~さんを忘れるはずないと思うんだけど…」
「本気で言ってるの、ダイダイ? 色々教えてあげたの、もう、わすれちゃった? 個人レッスン。二人っきりでしたでしょ? わ・る・い・子ね」
「…嘘、記憶にないっ! どうして、俺、忘れてるんだ!? 勿体ない。思い出せ、俺! いつだ? 高校のとき? 中学生? いつだ~~~~」
現実にそういうことがあったことを前提で大喜が記憶をたぐり寄せ始めた。
時枝です。ダイダイをからかうのは楽しいですね~。今日も応援ありがとうございますm(__)m
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