その男、激震!(135)

「…若頭…仰有いましたよね…運が良ければ生きて帰れるって…」
「…ああ、言ったな」

縄がどうにか抜けないかと転がりながら佐々木と木村が会話していた。
不幸中の幸いというか、二人の口元に猿轡はなかった。

「じゃあ、俺たち、運が悪かったんじゃ…」
「生きてるから、運が良かったんだ」
「冗談、止めて下さい! 今、生きていますが、帰れてないじゃないですか! きっと日が昇ったら、俺たちこのまま海へドボンです! 冷たい水の中に捨てられるんです」
「大丈夫だ。きっと助けが来る。連絡をとれないことを心配して、ダイダイがきっと動く」
「……動かなかったら?」
「組長だっている。飯の支度に俺が出向かなかったら、気付くだろう」
「…組長って…、それ本気で言ってます?」

怪訝な顔で木村が佐々木に問いただす。

「う~~~~、訊くなバカ」

勇一の名を出した佐々木自身も、それはないなと思っていた。
自分が朝、姿を見せないぐらいで、大騒ぎするとは思えない。

「ダイダイだけが、頼みの綱か……望み薄です」
「それは、嫉妬からの言葉じゃね~よな?」
「は? 嫉妬ってどこから来たんです?」
「いや、なんでもね~。大丈夫だ。ダイダイは利口だ。連絡がとれね~状況を不審に思っているはずだ。きっと探し出してくれる」
「…探そうとしても、時枝さんに辿り着かなければ、俺たちがココにいること知りようもないじゃないですか…時枝さん…今、女ですよ……彼は知らない…時枝さんがこっちに戻っていること…ああ、望み薄じゃなくて、絶望的です!」

木村の尤もな意見が、グサッと佐々木を貫いた。

「それじゃ、もう、俺は生きてダイダイと会えね~のか? あの、桃のような可愛い尻を愛してやれね~のか? オイ、どうなんだ、木村! 」
「そんなこと知りませんよ~~~。ちょ、ちょっと、若頭、泣かないで下さい!」
「泣いてね~。ないてね~よ、泣いてね…俺は希望を捨てね~ぞ。寝室に踏み込んだぐらいでボンだって俺たちを殺したりしね~…きっと口だけだ……根っこは優しいお人なんだ…」

組長代理が優しいのは潤さまに対してだけで、俺たちは人間とは思われていないと木村は思ったが、それを口にしなかった。

「若頭、絶望の向こうにあるものが、何か知ってますか?」
「…ふぁい? なんだ、何かあるのか?」

鼻声で佐々木が訊いた。

「絶望の向こうにあるのは、奇跡です! きっと神様だって、俺たちの頑張りを見ているはずです。奇跡を信じましょう!」
「……奇跡? …そうだ、奇跡だ! 木村、お前…いいヤツだな…。絶望の向こうには奇跡がある! 素晴らしい!」

馬鹿げた発想を佐々木が信じるとは、木村は思わなかった。
芋虫状態の佐々木が泣いている姿が、あまりに不細工だったのでなんとかしようとした結果がこれだ。
木村の本心からすれば絶望の向こうにあるのは『地獄』だった。
生き地獄ならまだマシだが、きっと死後の地獄に違いない。
人によっては生き地獄の方が辛いかもしれないが、まだ生きていたい木村には死後の地獄の方が最悪だった。

「…ありがとうございます…」

口元が引き攣りそうになるのを抑え、木村が礼を述べた。

ランク参加中です!バナーをポチッと押して頂くと花斗&機上恋メンバーの気分がアゲアゲに♪
(1)にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ & (2)
黒(1)とネコ(2)のバナーをクリックしてくれた新旧ファンの皆さま方、本当にありがとうございます。お世話になっておりますm(__)m
ごほん、時枝です。応援ありがとうございます。勇一、傷心旅行から戻って来ていません。どこをほっついているのでしょうか? 見かけても放って置いて下さい。甘やかすと癖になりますから。

トラコミュ
オリジナルBL小説・・・ストーリー系