その男、激震!(129)

「起きてるんだろ! 顔を出せ」
「…寝てる。失せろ、くそガキ」
「起きてるじゃん。さっさと出てこい」

朝が早い分、勇一の通常の就寝時間は早い。
今日は特に早かった。時枝とやり過ぎた身体は、体力の消耗が睡魔となって勇一を襲っていた。
ベッドに早々と潜り込んだ勇一の睡眠を、大喜の声が破った。

「出てこいだと? てめぇ、何様だ? 佐々木のヤロウ、ガキの躾がなってね~んだよ!」

このくそガキがと、文句を垂れながらもベッドから降り、寝室を出た。

「おせ~んだよ、このノロマ!」

明らかに、勇一の立場や地位を無視しての暴言だった。
佐々木や時枝がいれば、大喜をこっぴどく叱ったであろう。

「不細工な顔で何の用事だ?」

ノロマと言われた当の勇一は、叱るどころか笑ってしまった。
口を尖らせ泣いているのか怒っているのか中途半端な表情が、あまりに不細工で、笑いを押し殺せなかった。

「オッサンをどこにやったんだ」

大喜はかなり切羽詰まっているのか、不細工と言われたことなど全く気にしていない様子だ。

「佐々木?」
「…帰ってこない…仕事なのか? あんたが何か命じたのか? 危険な仕事を任せたのか?」
「だとしても、素人のお前に俺が話すわけないだろ」
「話せ! その素人の世話に、あんた、今までどれぐらいなったと思ってるんだ。俺にさせたこと、まさか忘れたとは言わせねーぞ!」

卑怯なネタだと大喜にもわかっていたが、背に腹はかえられない。

「うるせ~な。特に仕事は振ってない。夕方、ちょっと野暮用を頼んだが、それも木村と一緒の簡単な仕事だ。戻って来てないなら、仕事とは関係ない理由だろう。オンナじゃないのか?」

ニヤつきながら、勇一が小指を立てた。

「あんたじゃあるまいし、オッサンに限ってそんなことあるはずないだろっ!」
「つうか、まだ、九時過ぎだろう。帰ってこないって喚くような時間じゃない。高校生のガキだってゲーセンやカラオケで遊んでいるような時間だ。お前は佐々木のオカンか? あ?」

人の睡眠を邪魔した理由が、四十男の帰宅時間が遅いってだけかと、勇一も段々苛ついてきた。

「…連絡が取れない…。連絡が取れないんだよ!」
「バカ、泣くな」
「泣いてない! 泣いてないけど、オッサンと連絡が取れないんだよッ! 携帯に掛けても出ない。手が離せないというメッセージが流れるでも、留守電になるでもなく、出ないんだ! おかしいじゃん。それに遅くなるときは絶対連絡あるし」

佐々木のヤロウ、人には連絡いれろと説教しておきながら、自分はどうなんだ?
俺には『電話の一つも寄越せないような用事だったんですか』って、すげ~剣幕だったよな。
ああ、その通りだよ。
勝貴とイチャついてたら、電話など掛けるヒマあるか!
ん? その理屈でいくと、佐々木が連絡入れてないのって、俺と同じか?
掛かってきても出られないぐらい…激しいコトやってる? あの佐々木が???
まさか、小指はマジだったり…する?
オンナ?

「ちょっと、あんた、こんなときに百面相するな! オッサン…どこだよ」
「アレも男だったってことだ…許してやれ」

大喜の肩をポンポンと勇一が叩きながら、言った。

「は? オッサンが男だってあたり前だろ!」
「そういうことじゃない。やはりオンナと浮気中だろ、ってことだ。そりゃ、後ろめたくて携帯が鳴っていても出ないだろう。コトの最中は消音にしてるかもしれないし」
「自分のものさしでオッサンを語るな! そんなわけあるか! オッサンに限って、200%ね~んだよ。…だから、心配してるんだろ…オッサンが連絡なしに帰りが遅いのも、こっちから連絡とれないのも…絶対おかしい。応答メッセージに切り替わってないのもおかしい」

大喜の熱弁に、そういえば、昔似たようなことがあったな、と勇一は潤が福岡で拉致されたときのことを思い出す。
大喜の心配は的外れではないかもしれないと、勇一が思い直した。

「うるせ~な。携帯持ってるなら、木村に掛けてみろ。俺が言いつけた野暮用に木村も同行している。木村なら佐々木の足取りがわかるかもしれないぞ」
「早く言えよ!」

慌てて大喜が携帯を取り出すと、木村の番号を呼び出した。

「…………早く出ろ、…まだかよ…出ろ!………でない……出ない!」

座り込んだ大喜が、携帯を勇一に投げつけた。

 

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