「木村、ここは…」
二人が辿り着いた先は、その昔、佐々木が大喜の為に、熊のぬいぐるみのシュウちゃんを手に入れたデパートだった。
木村がその経緯を知っていて、何か察して欲しいのかと佐々木は気持ちが落ち着かない。
「デパートです。デパ地下です! ここなら、和菓子も洋菓子も揃います! しかも、あのテナント見て下さい! ペット用のケーキ専門店です。完璧です」
佐々木の戸惑いなどお構いなしで、木村が佐々木を連れ回す。
次々に要領よく菓子類を購入する。
行く先々でショップ店員が一瞬変な顔をしていたことに、木村は全く気付かなかった。
しかし、いつもは鈍感な佐々木が今日はその度に視線を感じ、木村に組まれた腕を引き抜こうとしたが、思いの他強く組まれた腕は抜けなかった。
そう、デパートに入ってからも、地下の食品売り場に降りてからも、買い物をしている最中も、二人の腕は組まれたままだったのだ。
当然、視線は店員だけではない。
四方八方から視線もうっすらと感じていたが、直接言葉を交わす店員の視線はかなり痛い。
もちろん、店員とて接客のプロだ。
慌てて何も見なかったような顔になり、笑顔で対応してくれた。
それが、また居たたまれない。
手土産が全て揃い、デパートを出る頃には、仲のよいゲイカップルの買い物姿として多くの人が微笑ましい視線を送ってくれた。
――大喜とだって腕を組んで買い物したことないぞ!
アア…俺は罪作りな男だ…どうしたら、いいんだ…時枝さんとの仕事となると、木村との時間が増える……
「若頭、急ぎましょ! ケーキが壊れる危険がありますので、走れません。早歩きです!」
――腕を組む前は、俺の跡をハアハアと死にそうな顔でチョロチョロ走ってやがったのに、どうしてこんなに張り切っているんだ?
俺と腕を組んだことがそんなに嬉しいのか?
俺に触れていることが、そんなに嬉しいのか?
…だが、幾ら愛情を向けられても、俺には、俺には大喜が…。
第一、そういう感情を木村には一切持てん。
どうすりゃ、いいんだ……いや俺はもうちゃんと正直に言ったぞ。
応えられないって言った。
それでも、木村が俺を想ってくれる気持ちまでは否定しちゃ、男じゃね~よな。
黒瀬のマンションに戻った時には、佐々木は完全に木村が自分に惚れていると、木村からしたら迷惑極まりない誤解を深めていた。