その男、激震!(118)

「社長が上でお待ちです」

スーツ姿の潤が、腕に小型犬を抱いて二人の背後に立っていた。

「キャン!」

ユウイチが愛想を振りまくように可愛く吠えた。
お散歩に連れていってもらったらしく、かなり機嫌がいいようだ。

「ユウイチも待っていたと言ってます。こんな時間の訪問で、まさか手ぶらってことはないですよね? ユウイチにも何かありますか?」

黒瀬のことを社長と呼んだことでもわかるように、秘書としての口調で…まるで秘書時代の時枝のような嫌味で二人を問い詰める潤。
佐々木と木村の二人は、「やっちまった」と視線を合わせるとダッシュでその場を離れた。

「ハア、ハア、若頭、逃げてどうするんです!」

佐々木の後ろに木村。
年齢では木村の方が若いが、足の速さと年齢は関係なかった。
木村が必死で佐々木を追っている。

「知るか! とにかく店だ! 店を探せッ! 手土産だ!」
「知ってるじゃないですか! 店ですね…何屋ですか! 洋菓子ですか、和菓子ですか!?」
「細かい好みなぞ、知るか! えーい、両方だ! 中華菓子も入れちまえ!」
「…ハア、ハア、待って下さい! 若頭、足が速すぎます! 待ってぇえええ! ペットショップでユウイチ用にも何か用意した方が!」
「早く言え! さっきの角にペットショップあったじゃね~か!」
「あれは、爬虫類専門のショップですッ!」
「ユウイチはヘビとかトカゲで遊ぶんじゃね~のか? 丁度いい!」
「違います! それはネコですよ、ネコ。ネコの習性です!」
「チッ、ユウイチは似たようなサイズだ。喜ぶに決まっている! カラフルなトカゲとかどうだ?」
「若頭、どうか、爬虫類は忘れて下さい! そんなもの武史様と潤さまの前に出せません!」
「どうしてだ? 気の利いた土産だと喜ぶかもしれね~だろ」
「…ハ、ハ、この命掛けてもいいです! 絶対に激怒されます! お願いです! 俺を信じて下さいッ!」

と木村が懇願を耳にした佐々木の足がピタッと止まる。

「…お前…、 そんなに俺を…。止めろ! それは無理だっ! そういう風には見ることはできない。スマン」

汗を拭うことなく、佐々木が木村に頭を下げた。