その男、激震!(115)

「酷い。お二人とも私のことを忘れてしまったなんて。組長さんと同じなのね。あの方も私が分からなかった。桐生組って薄情者の集まりなのかしら。酷いわ…私、哀しくて…哀しくて…」

と、開けたドアのノブから手を離した女性が部屋の中へ小走りで向かう。

「待って下さい!」

ドアが閉まってしまう前に、佐々木と木村の二人が慌てて女性を追った。

「もう、嫌い。桐生の人達なんて大ッ嫌い!」 

女性はベッドまで行くと、二つ並んでいた枕を一つずつ二人に向け投げた。

「…イテッ…申し訳ない。桐生とそんなに深い関わりがあるのでしょうか? 一体組長とはどういったご関係で…差し支えなければ、是非教えて頂きたい。もちろん、我々との関係も…」

思い出せないものは訊くしかない、真摯に向き合うのが男だと、佐々木が訊ねた。
一方で木村は、『組長が一人で対処できなかったのも分かる気がする、やはり悪女の類なんじゃ』と女性にただならぬものを感じていた。

「…信じられない…最低!」

吐き捨てるように言ったあと、女性が自分の髪を掴む。

「え、えー…、えええーーー」
「かつら???」

髪が丸ごとズルッと女性の頭部から取れ、女性にしては短い髪が現れた。

「はあ、私ですよ、私」

ロン毛からショートに変わり、更に声が変わった。

「はい?」

何が起きたか脳内の処理が追い付いてない佐々木。

「ウッソだ~~~~ッ」

聞き覚えのある声とメークをした顔がその声の持ち主と結びつかない木村。

「木村、何が嘘なんですか?」

間違いない。
この話し方。
この声。

「…だって、その声は……え? そうなんですか?」
「はい、そうです。ちょっと佐々木さん、しっかりして下さい。私ですよ、私」
「――アッシは知っている…ああ、知ってるその声を知ってる…知っているが…はい? え~? いや、耳がおかしくなったのか…」
「はあ、やはり桐生が心配になってきました。戻って来て正解でした」
「…申し訳ない。あのう、どちら様でしょうか?」

この佐々木の言葉に慌てたのは木村だった。